岩手県大槌町に新たに生まれた図書館を訪ねた。かつての町立図書館は震災で滅失し、今は文化交流センターの3階にある。建物は純木造の3階建て。大槌町と県産の材木を使った。図書館にも木の香りが漂う。広さ413平方メートル。天井は木のアーチである。本を守り抜くためにはどうしても最上階が必要だった。5段の免震書架。金曜日であったが、町の人たちが温もりの中で静謐の時を過ごしている。津波のあと、本がどのような役割を果たしてきたか。ここにいる人たちは知っている。
町の人口の1割にあたる1,286人が犠牲になった。震災関連コーナーの図書、記録は700冊にのぼる。その一つ「生きた証」は貴重な記録のシリーズである。町の有志が犠牲者の人柄や被害の状況を聞き取ったという。図書班長の岡野治子さんも証言者の一人だ。母を失った。
大槌湾に浮かぶ小さな島、蓬莱島はその姿から人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルとされる。その作者、井上ひさしさんのコーナーがある。「だけど僕らはくじけない 泣くのはいやだ 笑っちゃおう 進め! ひょっこりひょうたん島」。町では正午、今も時報としてこの歌を流す。復興への勇気を伝え続ける。私も口ずさめる。
小さな図書館の優しさは、我々に確かに届いた。心地よい時間だった。