研究所コラム

コラム-ことばをみつめて

暮らしで出あうことばを取り上げ、その由来や意味・用法を通して、ことばについて考えるエッセーのページです。

コスモス

コスモスの原産国はメキシコで、十八世紀後半にヨーロッパに広まった。今や日本の秋の名花とも言える植物だが、日本に渡来したのは明治の中ごろのことであった。和名の秋桜は、花弁が桜の形に似ているからというのが定説だが、さらにコスモスが群生して咲くようすが桜に似ているからという説もある。

コスモスは英語の「宇宙」や「世界」を意味するcosmosからきているが、花のコスモスがなぜ宇宙や世界と結びつくのだろうか。コスモスの語源はギリシャ語にさかのぼる。本来は、秩序や調和を意味し、そこから秩序ある世界や宇宙の意が生じた。また、調和のあるものは美しいということから美麗、端麗をも意味した。要するに、花のコスモスは、調和のとれた美しさからコスモスと名づけられたのである。

化粧品や美容の意味でコスメという語が使われているが、コスメと略される前はコスメティック。実はこの語も美麗の意味のコスモスに由来する。デパートの化粧品売り場が花のコスモスのように群生していることとは関係がない。

言質を取る

言質は、後で証拠となることばの意。そういうことばを相手に言わせるのが「言質を取る」。

ところで、「言質」はどう読むのが正しいのか。漢字テストで、正解はゲンチで、ゲンシツは誤りとされがちだが、そうではない。

言質は比較的新しい語で、明治のころは「ことばじち(言葉質)」と言うのが普通だった。それが大正ごろから「言質」と書いてゲンチと読むようになった。「質」には、もともと「チ」という音があるが、質をチと読む語は非常に少なく、一般人にはなじみがなかった。それなのに、言質をわざわざゲンチと読むようになったのは、当時の教養人の仕業と推測される。

しかし、その後、なじみのある音を用いて、ゲンシツ、ゲンシチと読まれるようになった。その結果、現在の国語辞書では、ゲンシツを「ゲンチ」の誤読が慣用化されたものとして、もはや間違いとはしていない。さらには、ゲンシチを認めているものもある。

知ったかぶりをして「言質はゲンチが正解」と言って、言質を取られないように。