第7回「大学授業研究会」の記録
開催日時:平成21年2月4日17:20〜18:45
開催場所:生活環境1号館別館(H3)2階プレゼンテーションルーム
参加人数:24人 司会者氏名:齊藤文夫 記録者氏名:寺島修一
授業実践事例の「報告者氏名」及び「科目名称」:薬学科 三木知博先生 臨床病理学
- <実践報告の概要>
- 旧課程の4年生を対象とする。受講者160名。半期(前期)
- 講義例 「貧血」
血液の成分を図示する。赤血球の写真を見せる。
貧血の考え方を工業製品にたとえて図示する。
各種貧血の特徴を表にまとめる。 →イメージを持たせて具体的内容を記憶させるために、図、文章、表で同じ内容を3回繰り返す。
- 講義例 「心不全」
心臓模型を見せる。→モノを見せてイメージさせる。
左心不全を図示して、右心不全を自分で説明させる。
心不全でなぜ起座呼吸が起きるのか、学生に問いかける。
心不全に関する三択問題を出す。→関心を持たせて、自分で考えさせる。能動的な参加を促す。
- 知識の定着を目指して
- <学生を寝かせない工夫>
- 抽象的なことでなく、例え話でイメージさせる。
- 目でイメージを焼き付けて、手で書かせる。
- 全体をつかまえたか、質問で再確認する。
- 一方通行の講義は流れやすい。
- 時間があれば、学生相互の講義をさせる。→人に教えることが最も効率的。
- わかっているつもりの学生があまりにも多い。
- <以前の試行例>
- 前期試験の「再試験学生」20名を集める。
- 問題10問を短冊にして各自解答(10分)。予想得点を10点満点で書かせる。
- いったん回収し、誰の答案かを隠して、それぞれ別の学生に配付。
- その問題の模範解答を、教科書・サブノート・ノートを用いて詳しく記載させる
もとの答案を採点させる(20分)。採点者の名前を記載。
- もとの答案作成者に返却。
- [自分の答案]と[模範解答]を比較し、模範解答に不備がないかを含め、自分で調べて、さらに確実に仕上げる(30分)。
- 学生が一人10分で講義と質疑。フロアから説明のわかりにくいところに質問。(180分)
【註】上記の事例は、いわゆる「補償教育」(Remedial Education)の一例として、有効な事例です。定員上の大学全入時代を迎えるとともに、
この20年来のゆとり教育世代が、大学に入学してきています。学習指導面のみならず、生活指導面でも従来以上に手をかけることが予想される世代です。
一方で、「厳格な成績評価」を求められますので、「再試験」受験者に対する補償教育が必要となります。手間がかかるし、多忙感も増すこととなりますが、
効果が実証され、学生の満足度も高まるとなれば、「補償教育方法の開発」は、FD推進にとっても、重要なテーマとなる可能性が高まります。
- <成果>
○20名のうち、後期試験で再び[再試験]を受けたもの数名。
○10名近くが80点以上を取る。
→・「わかったつもり」は、実際にはわかっていないことが多い。
・他人にわからせる説明ができるかどうかが重要。
・有効な方法であることが確認できたが、時間の余裕がなければ困難な取り組み。
・今の学生は20年かけて学習しない癖をつけてきた。そうした学生に興味を持たせるのは至難の業だろう。
- <自由討議の概要>
@ 薬学でなぜ病気のことを取り上げるのか?
→ 服薬指導などの必要があり、薬剤師が病気のことを知る必要が出てきた。
A 試行例は、助手さんの協力があればできないか?
→ 学生10人に一人のチューターがつくことが望ましい。
B 20名に対して効果があったのは、何が変わった結果か?
→ 一方向でなくやることで、潜在的な能力が開かれたのではないか。
C 学び方を知らない学生に、学び方が開発されたのではないか。ゆとり世代の不適応な学生に有効ではないか。
→ 200人近い学生のどこに合わせるかという問題もある。
D 食物栄養学科の「初期演習」におけるチュートリアル教育は効果を上げた。学生が勉強の仕方を学んだのだと思う。このような試行例は1年生に対して有効ではないか。
→ 現在、健康スポーツ科学科・食物栄養学科・健康生命薬科学科の3学科合同で取り組んでいる「健康科学U」では、7〜9人のグループを作っていて、効果が上がっている。いかに学ぶかを知らせてやることが大事だと思われる。
E 点数は悪くないのに、わかったつもりでわかっていない学生がいる。そのような学生はメカニズムに興味を持っていないらしい。ただし、そうした知識だけの薬剤師でもやっていくことはできる。そうした点をどう考えるか?
→ 今の薬剤師は病気のことまで知ろうとしている。医療の中心は患者であるはずで、医師と薬剤師に範囲の限定は必要ない。
F 学生は国家試験に合格することが目標で、それがモチベーションになっている。大学でどこまで教えるべきだろうか?
→ 医者を叱れる薬剤師を育てることを目標にしたい。国家試験はもちろんだが、処方箋の処理をするだけでない、患者のためになる薬剤師になってほしいと思う。
G 大学で学ぶ事がらには、「理屈の面」と「知識の面」がある。理屈だけでは無理で、知識とのバランスが重要だろう。学生の能力にはバラエティがあって、「理屈中心のタイプ」と「知識中心のタイプ」がある。授業だけで理屈と知識のバランスを取ることは難しく、自習が必要になる。学生はどれほど自宅で勉強しているだろうか。(学長)
→ 自習をしているとは思えない。丸暗記でない形の理屈が必要である。イメージをつかまなければならない。
H そうした学生に対応するためには、授業に教え方のバラエティがあることが必要になる。同じことを異なる形で教えられることが重要だろう。(学長)
I 「初期演習」でモチベーションをつけることが考えられる。そのほかにも各学科に1年前期でモチベーションを上げるための授業があればありがたい。また「初期演習」を受ける内容を持つ2年次の教育が重要になると考えられる。教育学科ではどうか?
(教務部長)
J入った直後が、非常に重要だろう。(学長)
K一口に、「モチベーションを上げる」とか、「導入教育を強化する」と言っても、当該学科の目標や
カリキュラム特性によって、その内容や方法が異なると考えられる。教職課程については、幼・小・中・高全ての教職課程必修科目として、「教職への道」2単位が開設されているが、1年次・導入段階のみならず、2・3・4年次と、学年を上がるにつれて、学生に学修意欲と成果を高めていく指導過程を構築することがより重要と考える。それを、今日「学士課程教育の構築」と呼んでいる。教職課程では、最終確認科目として「教職実践演習」が必修化された。(前原委員長)