室内空間におけるテフロン加工ガラス繊維布天井膜の新しい利用

NEW USE OF TEFLON-COATED GLASS-FIBER FABRIC CEILING FOR INTERIOR SPACE

岡崎甚幸 *1

川口 衞 *2

高橋大弐 *3

高嶋 猛 *4

松下 聡 *5

望月利男*6

Shigeyuki Okazaki

Mamoru Kawaguchi

Daiji Takahashi

Takeshi Takashima

Satoshi Matsushita

Toshio Mochizuki

In design of the interior finishing of the ceiling of Sundome Fukui, teflon-coated glass-fiber fabric were used as the membrane ceiling. This material allowed us to design the free form of the ceiling appropriate to a lot of purpose, and showed its excellency in acoustics and workability in construction. The form of the ceiling of the dome coincides to the reverse side of the roof. The new membrane ceiling method made possible to construct such complicated form. This method proved its high quality equal and smooth finishing, and sufficient property of acoustics of the dome.

キーワード

天井膜,膜吸音構造体,テフロン加工ガラス繊維布,ドーム

Keywords

Membrane ceiling , Membrane type absorber ,

Teflon-coated glass-fiber fabric, Dome

*1 京都大学大学院工学研究科生活空間学専攻 教授

(〒606 京都市左京区吉田本町)

*2 法政大学工学部建築学科 教授

*3 福井大学工学部環境設計工学科 助教授

*4 福井大学工学部環境設計工学科 助手

*5 福井大学工学部環境設計工学科 助教授

*6 太陽工業 取締役空間設計部長

Prof. Kyoto University, Graduate School of Engineering Dept.of Architecture and Environmental Design

Prof. Hosei University

Assoc. Prof. Fukui Univ. Faculty of Eng. Dept.of Arch. And Civil Eng.

Assistant, Fukui Univ. Faculty of Eng. Dept.of Arch. And Civil Eng.

Assoc. Prof. Fukui Univ. Faculty of Eng. Dept.of Arch. And Civil Eng.

Chief Space Designer, Taiyou Kougyou, Dept.of Space Design


 本報告は,室内空間におけるテフロン加工ガラス繊維布天井膜の新しい利用方法を,サンドーム福井における実例を通して提案するものである。この方法によると,様々な目的に適合した,自由な形の天井形態が天井膜によってより自由に形成でき,なおかつ音響的にも,意匠的にも,施工的にも,優れていることを報告する。 この計画は国際産業ファブリック協会(IFAI)の1995年度国際業績賞競技における空気膜及びテンション膜構造部門においてデザイン賞(Design Award)及び制作部門一等賞(First Place Winner)を獲得する高い国際的評価を受けている。


1. スペースフレームと屋根ユニットと天井膜の空間構成

 ドームの構造体であるスペースフレームの上弦材と下弦材の間に屋根ユニット,天井,空調ダクト,キャットウォーク等をすべて納めること。さらに構造体や諸設備を天井材で隠さず内部空間のデザイン表現の対象とするという設計上の基本方針により屋根の裏面の形をそのまま天井面の形とした。

1.1 スペースフレーム

 スペースフレームの下弦材に主たる力を伝え,シェル面の役割をさせる。スペースフレームの斜材はスペースフレームの交点から2本ずつ水平及び垂直に伸びて上弦材と下弦材を繋いでいる。この垂直水平斜材と上弦材によってシェル面の座屈を防止する。
 このような全体をシェルライクスペースフレーム構造と呼ぶ。上弦材と下弦材はいずれも放射方向と円周方向の部材によって格子状に組まれている。下弦材は直径約30cmの鋼管である。格子の交点で鋼管は互いに四角錐の鋳鋼ジョイントによって接合されている。上弦材と垂直水平斜材はH型鋼である。

1.2 屋根ユニット

 半球形のドームは構造的に重い雪に有利だが,滑落形式にすると,軒下に約8mの積雪となる。また大量の滑落そのものが危険である。その除雪は不可能に近い。そこで滞雪形式にした。しかしドームの傾斜屋根面の上の2mの積雪に対し,通常の雪止めでは,必ず上層部の雪が滑落してしまう。そこでホッパー上の四角錐で,その一面を水平になるように寝かし,この面に隣接しない他の一面を垂直にした形の屋根ユニットを,スペースフレームの4本の上弦材で構成される格子の一区画に一つずつはめ込む。隣接する各ユニットをパッキンをはさんで接続する。平均約5m角の大きさの屋根ユニットは厚さ3.2mmの耐候性鋼板の全溶接である。屋根ユニットはその裏面をリブで3角格子のパターン状に溶接されることにより補強され,ストレススキン効果を持つ。これによって屋根ユニットを,小梁や母屋や野地板なしに,スペースフレームに取り付けられる。屋根ユニットでは,スペースフレームの上弦材の4つの交点が下弦材の1つの交点に直接ボルトで接合される。さらに上弦材の中間でも接合されスペースフレームの座屈防止にも効果的となる。屋根ユニットの裏面には耐火断熱材を吹き付けた。屋根ユニットの水平面には雪止め数本を取り付けた。仕上げ材である屋根ユニットがストレススキン効果を持ち,構造体であるスペースフレームと渾然一体となって,さらに雪という地域の風土に根差したデザインによってユニークなドームの屋根の形を生んだ。


2. 天井の形態

 ドームの天井の形はこの屋根の形の裏返しである。屋根の凹凸に沿ってテフロン加工されたガラス繊維の天井膜を張る。天井は従って四角錐のユニットの集合となる。四角錐の各天井膜ユニットの頂点近くを鋳鋼ジョイントの四辺に挟み込んで固定し,天井膜の底辺近くの四辺をインシュロックタイで屋根の方に引っ張り上げて張る。四角錐の鋳鋼ジョイントと天井膜は一体となって一つの連続した四角錐を構成する。膜のすぐ裏にはワイヤーを等間隔に張り,それにグラスウールの吸音材を敷き詰める。天井膜と屋根ユニットの間には40〜50_ほどの空間が残り,これが吸音に有効な空気層となる。天井の凹部と下弦材の間の隙間にはキャットウォークや天井膜で被った空調ダクトを通す。


3. 意匠上の特徴

 半球のドームを形成する銀色の格子状骨組みと格子の各交差点の上に咲いた無数の花のような天井膜ユニットがドーム全体を軽快に覆っている。下弦材や鋳鋼ジョイントをメタリックシルバーに仕上げ,銀杯に雪を盛るイメージでデザインされた白色の天井膜は,凹凸の激しい立体幾何学のような形であるが,厳格なうちに気品のある,そして雪国に似つかわしい,最も日本的で崇高な一つの美の世界を現出している。天井膜ですべてを覆い隠すのではなく,構造も設備も仕上げもすべてが一体となって,ドーム中央のトップライトから入る太陽の光を中心にマンダラの諸仏のように宇宙船のようなドームの世界を構成する。
 1995年10月にはこのドームにおいて世界体操選手権鯖江大会が成功裏に開催され,またその他のイベントや地域の集会によく利用されている。そこではレーザー光線やピンスポットで白い天井膜を照明し,これを音楽に合わせて動かすなどの演出が可能で,大変効果的であり,広く利用されている。


4. 施工上の特徴

 このように複雑な形の天井を,下地材を張り,定型のパネルを取り付ける従来の工法で施工すると,納まりが複雑で施工手間が大変であるが,この新しい工法によって,施工手間も時間も経費も大幅に縮減でき,質の高い均一で平滑な仕上がり面を形成できた。水平に隣接する二つの天井膜ユニットとそれらのグラスウールやワイヤーの施工のため,実物大のスペースフレーム構造体の上に天井膜等を張り,工法や施工方法の検討が行われた。

4.1 天井膜の特性

 テフロン加工(四フッ化エチレン樹脂コーティング)ガラス繊維布天井膜の内膜用の膜材の性能は,重量0.5±0.1kgf/_,厚さ0.35±0.1mm,幅3,800mm以上,引張強さタテ150kgf/3cm,ヨコ100kgf/3cm,破断伸び率タテ7%以下,ヨコ7%以下,引裂強さタテ8kg以上,ヨコ8kg以上,はくり強度1.0kgf/cm以上,孤形度6%以内,斜行度10%以内である。
 各鋳鋼ジョイントの上に配置された四角錐の天井膜を一つのユニットと呼ぶなら,ユニットは六種類で,総数384(使用量2万_)個あり,最も大きなユニットで表面積が40_,重量が400kgである。天井膜の他に内壁用ユニット128体(使用量2,500_),空調用ダクトカバー16セット(使用量1,500_)にも同様の膜材が使用されている。

4.2 テフロン加工天井膜の施工

 天井膜は四角錐のタテ方向に小さい天井ユニットで一本,また大きい天井ユニットで二本の分割線があり,ローブレーシングで一体化することによりヨコ方向のプレストレスを与える。タテ方向は鋳鋼ジョイントの溝に天井膜の四角錐の頂部をフラットバーで固定し,底辺の四辺の膜内に鉄筋を包み込み,これに等間隔に配置したインシュロックタイで屋根の方に引っ張って下地金物に固定することによりプレストレスを与える。設計初期張力はタテ・ヨコとも2kgf/cmである。初期張力の導入により最終形状が決定される。各天井膜の四角錐の稜線に当たる部分は,スペースフレームの水平垂直斜材に平行に取り付けられた二次部材に天井膜を沿わすことにより形成される。

4.3 天井膜の裁断と接合

 膜材は2軸特性より設計初期張力タテ・ヨコ2kgf/cmが得られるように膜材裁断寸法が決められ溶接加工される。6つの各ユニットの幾何学形状を平面展開し,膜材料の2軸特性を考慮して行った。裁断された膜材の接合は,溶着する膜材の間に溶着材料であるフッソ系のフイルム(フロンエチレンプロピレン)を置き,高温と圧力を加えて溶着する。その後下地部材に取り付けるための端部加工を施す。

4.4 下地金物工事

 仕上がり形状は,下地金物部材の製作精度と取り付けの精度で決定される。このため,下地金物部材の取り付け工事の精度は厳しい寸法管理(長さに対する許容値:±0.1%)のもとに行った.

4.5 グラスウールとワイヤーの施工

 天井膜のすぐ背後にある吸音用のグラスウールを留めるためにワイヤー(6×19メッキA種,5φ油抜き仕様,ターンバックル付)がまず張られた。ワイヤーはスペースフレームの垂直水平材の近傍でこれに平行に取り付けられた二次部材を支持材として,天井膜ユニットの底辺に平行でかつ等間隔に張りめぐらされた。このワイヤーの上に屋根側から吸音のためのグラスウールがアルミ製のスピンドル鋲によって固定され,全面に敷き詰められた。グラスウールは50mm(厚)×910mm(幅)×1,820(長さ)である。ワイヤーロープの緩みは,天井膜の形状や音響性能へ影響を及ぼすため,導入張力を管理しながら張られた(写真-1,2)。


5.音響上の特徴

 ドームは約30万m_という大空間であり,音響計画は極めて重要な項目となる。一般に大空間になればそれに伴い残響時間は増大し,吸音する面の選択が難しくなる。また通常の室空間では問題とならない,また,なったとしても容易に対処できる各種音響障害は,このドームにおいては不可避と考えられ,その対策も困難となることが予想される。これは大空間であることの他に,室形が何らかの対称性を持っていること,半球形のドーム形状であること等がその主な原因と考えられる。常識的にはその音響効果が心配されるこのような室形態を,結果的には,テフロン加工天井膜による独自の方法で十分満足できるものにすることができた。テフロン加工天井膜を使用する際の音響上の留意点及びその効果を以下に概説する。

5.1 天井面形状の音響効果

 大空間の円対称ドーム形状で予想される音響障害としては,エコー,残響過多,音の集中,音エネルギーの極端な偏り,等があり,この解決策としては天井面の拡散と吸音の同時処理が必要となる。本ドーム天井面は逆四角錘が1ユニットとなる拡散体の,大小の集合で構成され,1ユニットを構成する面の大きさも,対象となる全音域で有効な拡散面となるべく計画されている。たとえ天井面に高い吸音処理が施されたとしても,フラットな高い反射性の床面との関連で見たとき,このような高度な拡散処理は必要不可欠と考えられる。

5.2 膜吸音構造体の材料と構成に関する検討

 天井面としての膜面は全表面積の約44% という広大な面積を占めることにより,ドーム内部の音響特性に対してはこの膜面の形状とその音響特性が支配的となる。形状に関しては既に前節で述べられており,ここでは膜を表面に持つ吸音構造体の吸音特性について検討する。
 電気音響をメインとする多目的イベントホールとしての使用目的を考え,天井面の吸音特性は対象とする全音域でできる限りフラットとなるように計画された。通常よく用いられるグラスウール等の多孔質吸音材では低音域での吸音が不足する。本ドームでは下弦材の鋼管を繋ぐ鋳鋼ジョイントに天井膜の四角錘の頂部を固定し,底部の4辺をインシュロックタイで引き上げて天井膜を張る独自の方法により,膜面の振動を利用した,低音域での効果的な吸音を実現している。
 膜吸音構造体の吸音特性を決定する要因としては,膜の密度,厚み,張力,通気量といった膜自体の物理量,膜の背後にグラスウール吸音材は必要か,必要であればその密度,厚み,流れ抵抗,背後空気層の厚み,グラスウールと膜の間の隙間等が考えられる。これらの要因全てに対し,理論と実測の両面から種々の検討がなされた。
 建築材としての膜は保守及び材料保護のためテフロン加工による表面処理が通常施される。汚れ難さや白さを確保するため,テフロン加工を十分に行えば天井膜のガラス繊維の間の通気性がなくなる。通気性は高音域での吸音効果に影響する。そのため,天井膜の通気性を保ちつつ,いかにテフロン加工の特性を確保するか,テフロン加工の試作とその音響実験を繰り返しながら,両者を共に満足するコーティングの度合いとそのときの吸音特性を検討した。
 膜を表面に持つ吸音構造体では,膜の通気性がその音響を決定する大きな要因であることは経験的に知られている。しかしながら,従来の膜振動理論による解析ではこの通気性は考慮されてこなかった。今回開発された解析手法では,この膜の持つ通気性を流れ抵抗という形で新たに導入している。理論の詳細,実測値との比較検討及び数値実験による検討については文献1)〜5)を参照されたい。

 検討対象となった膜の物性値を表−1に示す。これらは二重膜構造建築の内膜として開発されたものである。基本的には3種類の膜(F-I,F-II,F-IIIとする)が用意され,さらに F-Iをベースに表面のテフロン加工コーティングを少なめにし,通気性を良くしたF-Is,及び,F-IIをベースに更に何回かのコーティングを行い,通気量をほぼ 0 としたF-IIsが特別に用意された。実験は膜の流れ抵抗の測定,及び,膜と吸音層,空気層からなる吸音構造体の吸音特性の2項目であった。
 流れ抵抗の測定に際しては,音の粒子速度に対応するかなり低速度の定常流による測定が必要となる。この流れの速度によって生じる圧力差はほんの僅かであり,それを感知する高感度のマノメータを備えた流れ抵抗測定装置を新たに作製し測定が行われた。結果を表−1に示す。 

    表−1 膜試料の物性値
面密度[kg/_] 厚み[mm] 流れ抵抗[mks-rayl/m]
F-I 0.484 0.4 1.7×106
F-II 0.302 0.25 1.3×106
F-III 0.223 0.24 1.0×106
F-Is 0.388 0.33 8.4×106
F-IIs 0.385 0.26

 膜を表面に持つ吸音構造体として,膜の背後に50mmのグラスウールと 300mmの空気層を持つ試料に対する,残響室法吸音率の測定結果を図−3に示す。
 以上,膜吸音構造体に関する理論,実測両面からの検討により,以下の結論が引き出された。(1) 膜の密度は常識的な範囲であればほとんど影響しない。 (2) 張力については,一般の膜材料で通常の使用状態であればその影響は無視できる。しかしながら極端に薄い膜を強い張力で張った場合には多少の注意が必要と思われる。(3) 膜の通気量は結果に大きく影響する。膜としては F-I, F-Is, F-III が音響的に良好と思われ,膜らしい白さを備えているという視覚的な問題を考慮してF-I を採用する。 (4) 膜の背後のグラスウールは必要不可欠であり,その際,密度は30〜40kg/m
_,厚みは40mm以上,背後空気層は30cm以上が望ましい。(5) 膜とグラスウールの間の隙間はできる限り少なくする。これらの結論のもとに採用された天井膜構造の詳細を図−4に示す。

5.3 サンドーム福井の室内音響特性

 竣工後,ドーム内の実際の音響状態を把握するため各種音響指標についての測定が行われた。詳細は既に発表されており(参考文献 6),7)参照),ここではその概略を紹介する。残響時間を除くほとんどの指標は,電気音響設備を使用しない生のホールに適用されるべきものであることはまずもって念頭においておくべきであろう。測定は1,2階,計6000席の可動席を設置した状態と収納した状態の2形態で行われた。
 音の聴取レベルの場所による分布を示す指標としてのStrengthGによる音圧レベル分布では,座席ありの状態で倍距離3.7dB,なしの状態で1.8dB の減衰直線上にのり,ほぼ距離に伴う減衰という大空間音場の特徴が現れた結果となった。なお減衰レベルの違いは一階側壁の影響がいかに大きいかを示す結果と思われる。
 残響時間(500Hz)は座席ありで1.7秒〜2.1秒と場所による変動があり,その平均値は1.9秒であった。またその周波数特性はほとんど平坦であり,本ドームの使用目的を考えた場合ほぼ理想的な残響特性が得られているものと思われる。なお初期減衰時間(EDT) の結果から判断すれば,実際の残響時間よりも多少長めの残響感となっている可能性がある。
 スピーチ等の明瞭度に対する指標としてのD値の結果によれば,座席ありのときほぼドーム全体で85〜90%の音節明瞭度が得られ,座席をなくすと明瞭度が低下する結果となった。
 音場内の到来反射音の指向性に関し超指向性マイクロホンによる実測結果から,ドーム中央に音源がある場合には特定の方向からの強い音エネルギーの集中が見られた。インパルス応答波形等の結果も併せ総合的に考えたとき,音源あるいは受音位置をホール中央に設定する場合には特別の注意が必要かと思われる。


6. 結語

 サンドーム福井の大空間の設計と施工を例にテフロン加工ガラス繊維布天井膜の新しい利用について詳述し以下のことを明らかにした。

1) 天井膜による,自由な形態形成の可能性を示した。従来の工法では不可能な複雑な形態のドームのスペースフレームや屋根ユニットに,自由に適合する可能性のあることを具体的に示した。

2) 天井膜のこの自由な形態形成の可能性はまた,意匠的に有効であることを明らかにした。平らで無機的な夜空のような従来の天井のデザインではなく,流れるような,あるいは立体幾何学的な自由で豊かな上部空間の表現の可能性を広げることを示した。

3) 天井膜による自由で複雑な形態形成のための,新しい工法を開発した。(1) 必要な幾何学的形状に裁断,接合された天井膜をロープレーシング,インシュロックタイによって,膜面のタテ,ヨコにプレストレスを導入しながら正確に張る方法を開発した。(2) 天上膜を固定するための2次部材や下地金物,鋳鋼ジョイントへの,押さえ金物による天井膜の固定方法,インシュロックタイによる天井膜の固定方法などを開発した。(3) 音響上必要なグラスウールを天井膜のすぐ背後に敷き並べるために,新しい工法を開発した。すなわち天井膜による逆四角錐の形成に利用したスペースフレームの斜材に添わせた2次部材を併用して,ワイヤーの導入張力を管理しながら張り,これに特殊金物によってグラスウールを連続的に固定した。

4) 音響的に大変効果的な天井膜の利用方法を開発した。(1) 逆四角錐の音響的に有効な拡散体を多様な形状で,多数,効率的に作成できることを実証した。(2) 膜を表面にもつ吸音体構造として,天井膜の振動,通気性,さらに背景の吸音材や空気層による吸音性能を理論的,実験的に解明した。それにもとづいて実際に施工し,施工後のドームの音響特性の測定により,ドームの優れた音響特性を明らかにした。(3) 膜の通気性を流れ抵抗という形で理論化し,高感度のマノメータを備えた流れ抵抗測定装置を開発し,それを用いた実験により検証した。そして膜の通気性と吸音性の関連を理論的かつ実践的に明らかにした。

 以上,構造計画,音響計画,機能計画,意匠などにおける創造的な空間構成を,科学的に理論化し,実験によって検証すると同時に,一方では,各計画が設計当初から施工まで互いに渾然一体となって統合的に進められ,その結果新しい天井膜の利用方法を完成したことを報告した。


参考文献 

1) 高橋,阪上,森本, 「膜の吸音に関する実験的検討」 日本音響 学会講演論文集, 823-824(1993).

2) 濱田,高橋,阪上,森本, 「膜及び板の音響性状における通気性 の影響」 日本音響学会講演論文集, 885-886(1994).

3) 清元,高橋,阪上,森本, 「通気性を有する膜からなる吸音構造 体の吸音特性」 日本音響学会講演論文集, 887-888(1994).

4) 高橋,阪上,森本, 「通気性を有する膜の音響特性」 膜構造研 究論文集'94, 111-118(1994).

5) D.Takahashi, K.Sakagami and M.Morimoto,

 "Acoustic properties of permeable membranes," J.Acoust. Soc. Am., 99(5), 3003-3009(1996).

6) 吉村,高橋,「サンドーム福井の音響計画」 日本音響学会講演  論文集, 925-926(1995).

7) 高橋,「サンドーム福井の室内音響特性について」 日本音響  学会,建築音響研究会資料, AA96-18(1996).

8) サンドーム福井(福井県産業振興施設),「新建築」第70巻8号(1995年8月号), pp.161-166, pp.244-245, 新建築社, 1995

9) サンドーム福井,「日経アーキテクチュア」,No.526号(1995年7月17日号),pp.122-127, 日経BP社

10) 岡崎甚幸:雪国のドーム:サンドーム福井, 建築東京, Vol.31, No.370 1995,(1995年8月号), 東京建築士会, 1995

11) 岡崎甚幸:サンドーム福井の計画, 月刊体育施設, 第24巻7号,(1995年6月号), pp.16-20, (株)体育施設出版, 1995

12) 川口衞,望月利男,他:サンドーム福井の構造設計と施工(4),鉄鋼技術,1995年5月号,pp.27-3


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