「大学授業研究プロジェクト定例会(授業実践事例報告会)」記録(第1回)

@ 開催日時:平成20年9月13日15:00〜16:40
A 開催場所:生活環境1号館別館(H3)2階プレゼンテーションルーム
B 参加人数: 29人
C 司会者氏名:齊藤文夫(FD推進委員:大学授業研究プロジェクトリーダー)
D 記録者氏名:寺島修一(FD推進委員:大学授業研究プロジェクトメンバー)

T 事業実践事例の報告者
  1. 食物栄養学科   蓬田健太郎 先生
  2. 情報メディア学科 三宅宏司  先生
U 報告に係る科目名及び受講対象
  1. 解剖生理学T・U・・・(大食1・2年)
  2. 情報と職業・・・・・・(大情2年)
V 実践報告の概要

(1)食物栄養学科 蓬田健太郎先生 「解剖生理学」

  1. 問題提起―スライドによる「大学授業の解剖学(司会:齋藤文夫)」―
    1. 大学設置の増加に伴い、新任採用教員が増加している。どのように教員の質を確保するか。
    2. ゆとり教育によって、学生の学力は低下している。ノートが取れない、話が聞けない、レポートが書けない学生たちの出現。
    3. 学生は価値観が多様化する一方で、一般的な教養が欠落しており、学ぶ喜びを喪失しつつある。
    4. 大学への社会的ニーズは高まっており、そのニーズに応える必要がある。
    5. 教員は研究業績と教育能力の双方を求められる。「研究と教育の二律背反」という問題が起きている。
  2. 授業の紹介
    1. 国家資格に合格するレベルが求められる一方で、研究できる人材もほしい。本学食物栄養学科は、「スーパー管理栄養士の養成」を目指す。
    2. 「解剖生理学」は上記の管理栄養士に必要な科目であり、基礎科目の一つ。カリキュラム全体の中での位置づけを明確にする。
    3. 予習させる工夫が必要。
    4. 講義資料をHPに載せる。資料は穴ヌキのノート版と穴を埋めた解説版を掲載し、予習させる。解説版は印刷できないように設定してある。
    5. 自信を持たせる。
    6. 身近な例を挙げる。
    7. 「書くこと」と「聞くこと」を同時進行で行えるようにする。
    8. 板書は、考え方を書く。個別事項は、HPやスライドにて詳解する。
    9. レポートの添削は時間がかかるので難しい。その場で終わらせるような工夫が要る。
  3. まとめと提言
    1. 人に教えることが、説明能力を育てる。「教えること」は「学ぶこと」である。
    2. FDには「どんな人材を育成しようとしているのか」という観点が欠かせない。その点で学部学科全体の問題であり、総合力が問われている。
    3. カリキュラムの全体像を、学生が理解していることが肝心である。
    4. 「初期演習」でモチベーションを高めてゆく。
    5. 研究活動と人材育成はつながっている。
    6. 優秀な学生を集めなければならない。入試広報はきわめて重要である。
    7. 総合大学の利点を生かすべき。専門家の連携、協力によって、教員個人ではできないことができる。特に、教養教育が重要である。
    8. 教育、研究のためのコーディネイターが必要。
    9. 「共通教育」を生涯教育につなげる、「特別学期」を資格・就職対策に特化する、などの工夫ができないか。
    10. 「全体での情報共有化」が重要である。

(2)情報メディア学科 三宅宏司先生 「情報と職業」
  1. 選択科目で、受講者数は150名。上級情報処理士にとっての必修科目。
  2. 他の科目のシラバスを踏まえて内容を考え、毎年変更を加える。
  3. 教える側にとっての常識を学生が持っていない。年々基礎的な内容が必要になってゆく。教養教育が重要である。そのため、「生活基礎論」という科目を設置した。受講者数は220名。
  4. 大人数ではベストの方策がなかなか見つからない。OHP、OHC、パワーポイントによるスライドなどを試みたが、今ではしていない。
  5. 学生とのやりとりを重視する。学生に問いかけて答えさせる。わからないところはその場ですぐに質問させる。
  6. 人の意見を聞いてそれをまとめる能力を求める。
  7. 段階的に小文、レポートを提出させる。
  8. 毎回授業終了時に小文提出、B5に10行。5回おきに中レポート、B5に1枚、30行。前半終了時と後半終了時に大レポート、B4に2枚、80行。
  9. その場で書かせて提出することにより、自分の意見が出る。
  10. 静かに、しかし、寝かせずという形でやりたい。
  11. 私語には「出て行け」と言わず、「話があるなら外で」という。
  12. シラバス、評価方法等は初回授業で説明する。レポートごとの配点など細かに伝える。
  13. MUSESの出欠は便利だが、不正の余地がある。授業終了時の小文提出はそれを補うためでもある。

W 自由討議の概要
  1. 聞くこと、考えること、書くことなどを今の学生は同時にこなすことができない。それに対処するにはどのような方法があるか。 「聞く時間」と「書く時間」を分ける方法もあるのではないか。
  2. 「聞きながら、考えながら書くこと」ができないと社会で対応できないと考える。
    単一の能力を個別的に(分割的に)身につけるのではなく、<総合的な教養>を得られるのが大学である。そのために「人材育成に必要なカリキュラム」 を作成しなければならない。高校の内容も踏まえる必要がある。大学教員には、今日的な学生に対応する実践的指導力が厳しく問われている。

    →上記に1)と2)の見解は、一見、対立する見解のように見えるが、むしろ、連続的・相互補完的問題の両側面を構成している。つまり、 1.の見解は、今日の学生の一般的傾向の問題的側面に焦点を当てた、指導方法に係る見解である。一方、2.の見解は、1.と問題状況を 共有しつつも、学生指導の方向性(目標)に焦点を当てた、理念に係る見解と言える。
    よって、両見解は、対立矛盾する見解と言うより、むしろ連続的・相互補完的問題の両側面と解される。授業の実際場面では、 「授業科目の特性」や「受講学生の学力実態」「学年」等によっても、指導方法は異なってくることが予想される。したがって、1.→2.へ 如何にして、ステップ・アップさせていくか、学科教授集団の実践的課題と言えよう。
  3. レポート指導の方法として、本に書いてあること、思ったことをまずはそのまま書かせ、いったん書いてから 直させることをしている。
  4. レポートの添削はどうしているか?
    →A.「添削せずに採点だけして返却し、自分で直して再提出させる。」
     B.「2週間に1度、添削・コメントをつけていたが、時間を取られて現実的でない。その場でチェックできる仕方に変更した。 ただし、コメントを期待する学生もいる。」
  5. 学力が二極化し、「学び方や学ぶ喜びを知らない」学生が増えている。初年次教育は少人数で関心を掘り起こす形が 望ましいが、そのためには教員負担の増大が避けられず、複数教員によるオムニバス形式が必至となる。山口大学・三重大学など 国立大学の取り組み事例が注目される。
  6. 学生から出される「それを学んで何になるのか」という<問い>には、うかつに答えられない。「学ぶことの喜びは学ぶ 過程の中に発見される」もので、それを事前に伝えるのは難しい。結果に性急な学生にどう応えていくかが課題になる。内田樹『下流志向』は、 消費に慣れて等価交換を要求する今の学生気質を説明していて参考になる。
    →確かに、「学ぶことの喜び(意味)は、実際に学ぶ過程の中において発見・創造されるもの」なので、「やってみなければ分らない」のが <現実>であろう。しかし、「それを学んで何になるのか」という<問い>を発する学生たちに、「やってみなければ分らない」と、 本当のことを答えるだけでは、決して満足しないだろうし、根気を要する学習から益々離れることが予想される(佐藤学『学びから逃走する 子どもたち』)。このような学生たちが、今後増加してくることが危惧されるゆえに、まずはその初期的段階において「学ぶことの目的や意義」 について分りやすく、学習意欲をそそる「説明の仕方」を工夫することが教員に益々求められてくることとなる。→“導入教育”の必要性と 同時に、実際の学びの過程において、「学ぶ意味の創造」を個々の学習者が、あるいは学習の集団が「実感できること」→達成感や充実感を 獲得することが決定的に重要となってこよう。個に即した<学びの意味の創造力>を、如何にして日々の授業において効果的・組織的に保証 できるか、その仕掛けや方法・プログラムを、「ファカルティー」=大学教授集団において「開発する」ことは、大学授業研究の主要テーマの 一つと言える。
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