「大学授業研究プロジェクト定例会(授業実践事例報告会)」記録(第2回)

@ 開催日時:平成20年10月1日17:00〜18:30
A 開催場所:生活環境1号館別館2階プレゼンテーションルーム
B 参加人数:39名
C 司会者氏名:寺島修一 FD推進委員
D 記録者氏名:山田慎人 FD推進委員

T 授業実践事例の報告者及び報告に係る科目名
  1. 健康スポーツ科学科 中西匠先生・・・・「保健体育科指導法I・U」
  2. 健康生命薬科学科  篠塚和正先生・・・「生命実験薬科学」
U 実践報告の概要

1 中西匠先生・・・・「保健体育科指導法I・U」

  1. 科目の位置づけ
    1. 「保健体育科指導法」はT〜Zまである。同様の内容の授業をこれ程数多く実施している大学はあまりない。
    2. TとUでは基礎を扱い、V以降では器械運動、陸上、球技、ダンス等具体的な運動種目をそれぞれ扱う。
    3. Tは1年後期に開講。1クラス約100人。教室で保健体育の授業の目的や内容、方法、評価について全体的に学び、 体系的な知識を身につける。
    4. Uは2年前期に開講。具体的な方法論を実践的に学ぶ。教室での説明、グランドでの模擬授業、再び教室での復習 というサイクルを繰り返す。最後の数回は、学生による模擬授業とその反省会を行う。
    5. 学生は、多種多様である。1年次には、これらの学生に動機付けを与え、学生から教える側に立つというモードの切り替えが 必要になる。この<モードの切り替え>を「保健体育科指導法T・U」で行う。
  2. 授業でのさまざまな試み
    1. ミニレポートと授業通信  
      1. 学生に各授業のミニレポートを書かせ、代表的な例を授業通信に載せて配布し、 教師と学生のコミュニケーションをはかる。
      2. 授業通信は、学生間の交流を効率的に実現する道具としても便利である。学生は、お互いのレポートを読むことで、 他の学生が何を考えているのかがわかる。実際に、授業通信は配った瞬間に教室が静かになる。
    2. 評価論の延長として「答案と模範解答」を返却する  
      1. 「保健体育科指導法T」(1年後期)の答案と模範解答を2年前期の「保健体育科指導法U」の最初に配布し、 「保健体育科指導法T」の学習の成果と課題をフィードバックするとともに、Uへのステップアップにつなげている。
    3. 授業評価アンケートの活用  
      1. 教員が自分のモチベーションを上げるためにアンケートを使う。「熱い」授業を行うように心掛け、 それが生徒に伝わっている かをアンケートで確認する。
      2. 授業アンケートの記述に関しては、「とにかく楽しい」という意見には問題がある。教え方を学ぶことが目的なのに、 球技などを自分で楽しんでしまい、自分が教える側の先生になることを忘れてしまっている
    4. 異質集団による授業展開」と「ファイルづくりによる学生同士の交流」  
      1. 2年生になってもお互いに馴染んでいない学生がいる。4つのグループに分けて、キャプテンを決め、 共同作業をさせてグループの中で交流を深めるという工夫をしている。グループごとにファイルを作らせ、 表紙等のデザインのコンテストをする。優勝グループには成績に5点プラスする。
    5. 理論と実践の統一 教室と体育館(グラウンド)の往復  
      1. 教室での解説(ねらいと手続きの説明)と、体育館やグラウンドでの演習を2回セットで行う。
      2. 学生の模擬授業と反省会も行う。模擬授業は1人で50分。ビデオで撮影し、後で見る。
    6. 内容を発展させるレポートとその試行  
      1. 成績評価の大部分を占めるレポートに関しては、指導方法について書かせる。レポートに書いた指導方法が有効なものか、 グループ内で学生に試させている。特に、対象となるスポーツが苦手だという学生の意見は、教え方について考える 際に参考になる。
  3. 課題
    1. 授業を始めた時点では「1年後には先生モードに入ってほしい」と考えるが、1年経っても変わらない学生は多い。
    2. 学生の模擬授業は人数が限られる。
    3. 「保健体育科指導法」T・UとV以降の連携が、今のところない。

2 篠塚和正先生・・・・「生命実験薬科学」

  1. 授業の目的
    1. 受講生は1年生25名程度。必修である。目的は、学生に興味を持たせ、勉学意欲の源をつくり、 研究テーマを考える基盤を提供すること。
    2. 授業の中でいろいろな疑問が出てくることが重要。上級学年の授業でもっと勉強したい、調べたいという 「モチベーションの核」をつくる。上級学年で分からないことは、卒論で調べ、それでも分からなければ大学院で 研究を続けるという動機付けを行う。
  2. 授業の方略
    1. 「百聞は一見にしかず」という体験型講義を行っている。つまり、実際に観察、体験することにより、興味を引き出し、 理論的な理解に結びつけることを目的とする。
    2. 授業は5名の教員が共同で担当する。複数の教員がそれぞれ工夫して講義することによって、多様なアプローチが可能になる 。
    3. 授業の構成は、身近な事例、自分が当事者となりうるような事例を扱うようにする。難易度的には1年生にわかりやすい範囲 にとどめる。また、興味を引くような実験、観察、説明、展開をこころがける。疑問に思うことを、上級学年、卒論、修士課程で 解決したいという気をおこさせる。
  3. 授業の内容
    1. 総論として、最初に、生命倫理について教える。実験動物を使うことに関する倫理的な話をして、命を使って勉強している意 味について考えさせるとともに、薬学と生命について内省する機会を与える。
    2. 具体的な授業の流れとしては医薬品開発に沿った内容にしている。中でも、薬物の作用に関する授業では、中枢神経作用薬、 消化器系作用薬、循環器型作用薬等に作用部位別(用途別)にわけて説明する。
    3. 中枢神経作用薬の授業では、「薬とミステリー」というテーマで、ミステリー小説に使われる薬に関する説明から授業を始め ている。今年度は、松本清張の「彩り河」を例にとって、この小説に出てくるハロペリドールの使われ方 (小説では、崖から飛び降りさせるのに利用)を説明するとともに、その薬理作用(思考力が低下し、子供のように振舞うなど) について説明する。その上で、マウスに投与してその効果(不自然な姿勢を自由にとらせることができる)を観察させるが、 その不思議な様子に受講生は驚くと共に、より真剣に観察するようになる。化学物質が脳の機能に影響し、心も動かすことができ ることを、一面的ではあるが、その観察から疑似体験することになり、精神機能と脳内物質に関する講義に対し積極的になる受講 生が多い。
    4. 便秘薬や下痢止めなどの消化器系作用薬に関する授業では、胃腸管を自分の意識でコントロールできないこと、消化管内の脳 (壁内神経叢)が消化感機能を制御していることを説明すると共に、実際にモルモットの消化管を使ってその自動制御の有様を観 察させる。消化管は体から取り出しても生きたままその動きを観察することができ、切り取った消化管の中に食物の塊を入れると 、口から肛門の方向へ塊が移動する様子がはっきりと見える。さらに、消化管に止瀉薬(下痢止め薬)を作用させると、 投与量に応じてその運動が消失していく実験も観察させる。このようなやり方で、薬の量と作用の関係を見せることにより 薬の主作用と過量投与による副作用についても、受講生は自然に理解し、その詳細について考えるようになる。
  4. 検証:授業アンケートの結果と今後の課題
    1. アンケートの結果は全体的にある程度よい。しかし、授業前の期待は充足されたかという質問については、こちらで期待した ほど高くない。また、最大の問題は、内容の深化に努めたかという質問への解答が3程度と低いこと。
    2. 今後の課題としては、以下の4点があげられる。
      1. 担当教員間の調整を行い、全体的な整合性を高めること
      2. 受動型の授業から、より能動型、参加型の授業へ変えていく工夫をすること
      3. 年次から上級学年、修士へと学びを深めていくロードマップを提示し、深化へのアプローチを強化すること
      4. 後期から新実験講義室が稼働可能になっているので、来年度からその効果的な活用をはかること。
V 自由討議の概要<質疑応答>

1 中西匠先生・・・・「保健体育科指導法I・U」

  1. 「モードチェンジ」という考え方がいい。他者の立場に立って、役割を変える。生徒から教える立場になる時、学生が 成長する。
  2. 食いついてこない学生がいればどうするのか?
    → 身近な例で関心を引くようにしている。例えば、体育教師には、こうすればできると簡単に説明して、出来て当たり前、何でできないの、 という顔をする人が多い。これが理由で、体育教師を毛嫌いする中高生も多い。
    学生には、<出来ない人の気持ち>を理解させるために、「水泳の苦手な人が水泳の先生に同じ教え方をされたらどう思うか」、 「もし自分がピアノの先生に同じことをされたらどう思うか」と問いかけ、身近な例で理解を深め、関心を引くことを心がけている。
  3. 学生が授業を受けてその90分ですべてだと思っている傾向が強いように思う。授業を充実させた上で、 授業外で勉強させるのが難しい。どういう工夫をしているのか?
    → 部活動、アルバイトが忙しいというのが現状で、授業外で勉強させるのは難しいという悩みがある。

2 篠塚和正先生・・・・「生命実験薬科学」

  1. 授業のゴールは何か?
    → 好奇心の芽を育み、モチベーションを高めること、忙しくて勉強がルーティーンになりがちなので、 疑問点についてじっくり考える機会を与えることが目的である。
  2. 薬科学にもいろいろな理論があるだろうが、どの理論を持ってきて学生に興味を引き出させるのかが難しいのではない か?
    → その通りだ。実際、いろいろな研究室でいろいろな研究がされている。その多様な中から、本物にアプローチできる力を身につけさせ たい。
  3. この科目が導入科目であるとすれば、導入から卒論の間のさまざまな授業の位置づけはどうなっているか?
    → 導入部で研究への興味を引き出し、その後の講義や実習授業などでその興味を研究へと深めていく。3年後期の「先端研究実習」では 、レベルの高い最先端の実験を体験させるが、この一連の流れの中で、卒論のテーマを決めさせたい。
  4. 学生が授業を受けてその90分ですべてだと思っている傾向が強いように思う。授業を充実させた上で、 授業外で勉強させるのが難しい。どういう工夫をしているのか?
    → 2段階の取り組みをしている。
    @ 一般的な授業に関してだが、90分の「定期試験」を行いそれに向けて勉強させるだけでは不十分な場合が多い。次の授業では 毎回 前の授業の「復習問題」を出す。これにより、授業以外の時間帯にもその内容を見直す学生が増える。ただし、この「復習問題」が試験に出ると考 えて、そこしか勉強しなくなるおそれがあるので、問題を印刷して配ることはしない。
    A もう一つの取り組みは、先に述べたように、「生命実験薬科学」の授業を、通常の勉強と違う次元で考えさせる機会として使うことだ 。 試験の為ではなく、興味を満たす為に自分で調べるという行為に繋がるような授業にしたい。新しい実験講義室を使い、内容をさらに リニューアルして、本授業をより有効なものにしていきたい。
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