第4回「大学授業研究会」の記録

開催日時:平成20年11月12日17:30〜19:30
開催場所:H3-204    参加人数:41名
司会者氏名:山田慎人(英文)記録者氏名:松本裕史(健康)

授業実践事例の報告者

  1. 心理・社会福祉学科 小花和 W. 尚子 「心理学英語文献講読T」
  2. 建築学科      福本 早苗   「建築材料実験」

◆授業報告の概要

心理・社会福祉学科 小花和 W. 尚子 「心理学英語文献講読T

1) 受講生
2年生 心理コース 約110〜120名 対象
少人数クラス 40名程度に分ける
2) 授業目標
心理学英語文献講読に慣れる、読み方を知る、読む力をつける
3) 授業方法
  1. 第1回目授業でプレイスメントテストを実施し、レベル別に少人数3グループ(ベーシック、スタンダード、アドバンス)を編成
  2. 3名の教員が3グループを対象にオムニバス形式で授業を行い、それぞれの手法で長文内容を理解させる   
    • すでに1年次に学習済みの基礎理論に関する内容の英文テキストを使用   
    • 各教員が、小レポート、小テストを実施
  3. 最終授業でまとめテストを実施し、英文講読の能力向上を評価
4) プレイスメントテストおよびまとめテストの結果
  1. プレイスメントテストでは、辞書持ち込み可とし、英語の基礎知識、長文の内容理解を問う問題を実施
  2. まとめテストでは、辞書・授業教材・ノートの持ち込み可とし、長文および専門論文の内容理解を問う問題を実施
  3. プレイスメントテストおよびまとめテストの結果を成績に反映
  4. ベーシッククラスにおける成績の伸びが目立ち、アドバンスクラスではまとめテスト結果に伸びが認められない
5) 今後の課題
  1. プレイスメントテスト   
    • 学生の実力を把握できたか   
    • グループ編成にあたって学生自身の意志・意欲の反映が可能であるか
  2. 少人数グループ編成   
    • 各グループ内の平均よりも低いレベルの学生への指導方法   
    • グループレベルにあった授業内容・進度の工夫
建築学科 福本 早苗「建築材料実験」

1) 受講生
3年生 42名 対象
2グループに分けて担当(教員1名および非常勤講師1名が1つのグループを構成している)
専任教員福本、非常勤講師長江のグループが担当した授業を今回報告する
2) 授業目標
建築材料実験における体感型授業
代表的な建築構造材料、およびそれらからなる構造部材の力学的特性について、実験を通じて理解し、 建築の設計に必要になる基礎的な知識を習得する
3) 授業方法
本物の構造材料に触れ、構造部材の質感、量感、重量感を感じとりながら、 学生自らの力を構造部材に作用させることによって、その力学的特性を自らの筋肉をとおして実感する
4) 学生アンケートの結果
  1. 自分たちで作る」と何がよかったか
  2. 自分たちで壊す」と何がよかったか

◆ 自由討議の概要

小花和先生
  • 具体的にどういう予習復習をやられているのか?
    → それぞれの教員で課題は若干異なるが、初回のプレイスメントテストで次の週までにやってくる課題を出す。 私は内容の要旨をまとめてくるように指示する。
  • (出席者の発言)課題で1コマやるということか?復習は?
    → 適宜、小テストをする。 課題(予習)⇒(授業)⇒小テスト(復習)   
  • 一般的に能力別クラス編成をしても、レベルの低いクラスでは成績の伸びがよく, レベルの高いクラスでは成績が伸びないことが知られている。そのため,最終的には能力別にしなくても一緒ではないのか という議論に関して考えはあるか?
    →  能力別に分けたときに得点がフラットにならないようなプレイスメントテストができないかが1つ、そして、 テストの得点を全体的にあげるために、半期の間、クラスを固定せずに入れ替えるのが1つ、教材の工夫ができないか、 たとえば専門用語集などが考えられる。
  • 3つのレベルに分けているが教材は違うのか?
    → 全く同じ教材であるが、進度と押さえていくポイントは違う。
  • (出席者の発言)教材の内容が専門的であるが、学生にはその予備知識は充分あるのか?「英文を読む聞く能力」には、 記述内容を予測する能力が影響する。専門分野の文献の語彙レベルは高くはないのか?入学後1年間、英語に触れずに 2年生で講読をしているが、学生の語彙力等は問題にならないのか?語彙力不足の対策法についてはどのように考慮しているか?
    → 学生の語彙レベルは低いと思われる。電子辞書を使用しても、1つの単語の意味しか見ない。なぜ、2番目3番目の単語の意味を 見ないのかわからない。今はとにかく辞書をひく習慣を付けさせている。受験英語の域を出て「できるかも」というイリュージョンを 作りたいという思惑はある。
    → 電子辞書の使用との関連で、翻訳機のことが話題に上った。使用可能派と使用否定派との意見が出された。英語力向上を主目的と 考えれば、翻訳機の使用には否定的となり、内容理解力向上を主目的と考えれば、翻訳の精度に問題がなければ、翻訳機使用も可能となる と推測される。要するに、英語自体を学ばせる「英語教育」と英語で表記された心理学文献を読ませる「英語教育」とは、同じ 「英語教育」という側面を有するものの、本来的には異なる教育活動なのではないのか。したがって、この違いを考慮した上で、 議論しないと生産的議論はできないこととなろう。つまり、英語自体を学ばせる「英語教育」と英語で表記された心理学文献を読ませる 「英語教育」と、相互に補い合う関係に立つとき、生産性を獲得できる。さらには、上記二様の[英語教育]に、共通教育による [英語教育]も加えることができる。
福本先生
  • これ1回だけやっていれば、大丈夫なのか、それとも要所に体感させることが必要か?
    → 構造部材のさまざまな挙動のうち、今回は鉄筋コンクリート梁の曲げ試験について報告したが、 それ以外の挙動についても体感型の対応を実施している。今後、実験装置の改良も含め、幅広く対応していきたい。
  • 建設現場に学生を連れて行って体感させるという方法は取っていないのか
    → 今回の報告は、「建築材料実験」授業についてである。これとは異なる観点からの教育を目的として 建設現場に学生を連れていくことはある。
  • グループ実習でさぼる学生はいないか?それに対する工夫はしているか?
    → そのような懸念があったが、私が考える以上に学生は積極的であった。学生はすべての作業に参画することを 希望し、時間的制約などである作業を体験できなかった学生からはアンケートで、「次回、体験したい」旨の報告があった。
  • 実験が終わった試験体はどうしているのか?
    → オープンキャンパス等で来館者にご覧いただければとの配慮もあり、現在のところは実験室に保存している。 いずれ廃棄せざるをえなくなるであろう。
  • 実験データを比較検討する時間はあるのか?
    → 残念ながら比較する時間がない。授業時間をオーバーすることが多いのが実状である。考察を十分に行うことは極めて重要であるが、 まずは、体感型授業を確実に実施することに主眼をおいた。構造材料に対する正しい理解とセンスを身に付けるためには体感が大事だと 考えている。
〜小花和先生及び福本先生の授業事例報告を受けて〜

今回の授業実践事例報告は、心理学と建築学からの報告ということで、異色の取り合わせでした。両報告ともに、それぞれの学術分野の特色を反映した、熱心な授業の紹介でした。

 建築学科福本先生の「建築材料実験」では、「代表的な建築構造材料、およびそれらからなる構造部材の力学的特性について、 実験を通じて理解し、建築の設計に必要になる基礎的な知識を習得する」ことを目的とされております。特徴的事項としては、 「建築材料実験における体感型授業」である点を指摘できます。この度の授業事例については、日本建築学会の第9回建築教育シンポジウムで 報告予定とのことでした。建設業界の変革、建築士資格の国際化、JABEE認定制度導入への取り組みなどへの対応として、将来の活躍を期待する 若いアーキテクトの養成プログラムに「体感型授業」を組み込むことは、挑戦的試みとして、注目を集めることが予想されます。

 心理・社会福祉学科の小花和先生の「心理学英語文献講読T」では、「心理学英語文献講読に慣れる、読み方を知る、読む力をつける」 ことが目的として設定されております。さらに、見事な実証的検証がなされ、英語授業法の改善に際しても示唆するところの多い、授業事例であったと いえます。質疑応答では、英文読解指導法として、全訳型・意訳型・段落ごとの要訳型などの適正さが論じられるとともに、高校英語授業あるいは 受験英語と大学英語授業との不連続性の問題が、語る者の年代や専攻を超えて議論されました。英文学科の先生方も参加されており、活発な議論が 展開されかけました。時間の都合上、「さらなる論争は後ほど」ということになりました。そこで、未完成の事例報告ではありますが、このような形で ご報告させていただき、皆様の今後の生産的論議に供したいと願っています。

 ところで、上記の議論の傾向とは別に、「心理・社会福祉学科で、英文の心理学文献を講読させる目的はどこにあるのか」という 質問が最後に出されました。上記の議論が、心理学文献を素材としつつも、英語教授法に焦点が向けられていたのに対して、この問いは、 「心理学を教授する上で、何故に英文の心理学文献を使用するのか」、その目的や理由を問う内容でした。

この問いは、察するに、「心理・社会福祉学科の教育目標との関連性を問う」ものでもありました。つまり、心理・社会福祉学科の教育目標から、 どのような論理過程を経て、「心理学文献講読T」という授業が構成されることになっているのか、説明を求めるものでした。

@心理学の国際化が進行していて、もはや英語の文献を読めないようでは、心理学を学べなくなってきているということでしょうか?Aまして、 大学院へ進学するためには絶対条件となっているということなのでしょうか?それとも、B心理学を学習する上で、英語文献講読が「特別の効果」 を有しているのでしょうか?

上記の問いに対する、小花和先生からの明解なご回答を掲載します。

心理・社会福祉学科「心理学英語文献講読T」主担当小花和W.尚子先生の回答

第4回大学授業実践事例報告では、心理・社会福祉学科の心理コースにおいて試行錯誤を重ねている「心理学英語文献講読T」の授業実践について、担当教員の代表として報告させていただきました。学科を超えて、学内のさまざまな分野の専門家から、英語教育、成績評価法などについてご意見をいただき、今後の課題へ取り組むヒントを得ることができました。たいへん貴重な機会をいただき感謝申し上げます。

質疑応答の最後には、「心理・社会福祉学科で、英文の心理学文献を講読させる目的はどこにあるのか」という、非常に基本的ですが、 学科の教育目標にもかかわる重要な質問をいただきました。紙面をお借りしてお答えしたいと思います。

心理・社会福祉学科心理コースでは、4年次の1年間を通じて完成させる卒業論文を「最終的な学習目標」として、1年次から授業を配置しています。 一人一人の学生が自身の力によって1本の論文を完成させるために、2年次から、基礎的理論から応用的理論へと講義科目を展開させるだけでなく、 論文作成に必要なストラテジーを実践的に学習する演習科目を、互いに連携させながら段階的に配置しています。「心理学英語文献講読T」は、 そうした演習科目の1つです。

現在の心理学では、優れた論文の多くが英文で発表されており、日本語の心理学専門書にも、多くの英語論文が引用されています。卒業論文のテーマ によっては、必ずしも英語文献を読む必要はありませんが、学生が自分のテーマに関連する文献を引用する際に日本語でも英語でも文献を読めることが、 完成された卒業論文の質を大きく左右します。また、心理学の専攻を置く多くの大学院が、入学試験において英語の試験を実施していますが、 これもまた同様の理由からです。「心理学の英語文献が読める程度の英語の実力」がなければ、質の高い修士論文を完成させることはできません。 「英語の実力をつける」だけであれば、心理学の英語文献にこだわる必要はないかもしれません。しかし、こうした卒業論文や修士論文に必要となる 英語文献講読にとって、一般的な英語の読解力だけでは十分ではないことがあります。

第1に一般的な辞書には載っていない専門用語の理解が必要ですし、第2に、心理学に限らず科学分野の学術論文に共通する独自の記載規則の理解が 必要です。専門用語や基礎的な読解力は英語の授業で習得し、学術論文に共通する独自の記載規則は日本語文献で学ぶ、という方法も考えられますが、 卒業論文作成に向けたプロセスの1つとして、英語文献を講読することが必要であることを実感する上では、心理学の優れた英語文献そのものを教材 として使用することが最も効果的であると考えられます。

ところで、心理コースにおいて、「卒業論文を最終的な学習目標とする」背景には、大きく2つの教育目標があります。

@1つは、学生に1年次から「明確な学習目標」を与え、4年次までの「長期的な学習計画」を考えさせることです。
Aもう1つは、論文テーマに関連する文献を探す、データ採取の方法を工夫する、データ分析を重ねる、といった実際的な作業や、文献を読む、自分の考えを理論立てる、文章化するなどの作業過程で、集中力や忍耐力、交渉力、分析力、読解力、理論的思考、さらには自分と向き合う力など、いずれは社会人として要求される力を養うことです。

学習目標からすれば、「英文の心理学文献を講読させる」目的は、第一義的には、卒業論文作成に向けたストラテジックな能力の一つを育成すること です。しかしまた、「大学生の教養として最低限必要な英文講読力」を身につけ、願わくば、「社会人として要求される英語の実力を養う」という教育 目標も、当然ながら含んでいます。

事例報告でも発表させていただいたように、この授業にはまだ課題が山積みされています。今後も学生の英文講読の実力育成に向けて試行錯誤を 続けたいと考えています。

以上

4 小花和先生、お忙しい中、ご回答下さり誠にありがとうございました。先生のお考えが、よく理解できたように思います。ただ、【説明の仕方】として少々気になる点がありましたので、<心理・社会福祉学科の教育目標>を調べてみました。「人々の幸せや明るい社会の実現に向けて、日々実践できる認定心理士、社会福祉士及び精神保健福祉士を養成することを目的とする。」とされています。特に、前者の「人々の幸せや明るい社会の実現に向けて、日々実践できる認定心理士」の養成が、<心理コースの目的>と解されます。とすると、このように規定されている人材養成の目的から、 心理コースにおいて「卒業論文を最終的な学習目標とする」理由及び「心理学英語文献講読T」開設趣旨も説明される必要が出てくるように思われます。この問題は、本質的には、単に【説明の仕方】というより、【学科教育目標と開設授業目標との関連付けに係る、授業設計上の方法意識の有り様】に起因するように推察されます。つまり、授業シラバスを作成する際の、授業設計法の問題です。

このように「各学科における授業事例紹介」を通して、各学科の授業を問う姿勢もまた、見えてきました。授業そのものの工夫や改善方法は大変参考になりますが、さらに、その背後にあって共通の学科教育目標の実現へ向けて「個々の授業改善を繋ぎ合わす」、そのような学科教育力の形成こそ、 <究極的FDの目標と思われます。 前原

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