第5回「大学授業研究会」の記録

開催日時:平成20年12月17日 16時30分〜17時45分
開催場所:H3-204(プレゼンテーションルーム)  参加人数: 36 人
司会者氏名:(健康) 松本 裕史  記録者氏名:大井 史江

授業実践事例の報告者 (1)学科:教育
氏名:高井 弘弥 准教授
(2) 学科:環境
氏名:大坪 明 教授
報告に係る科目名 (1)軽度発達障害児指導法の研究 (2)建築一般構造U
実践報告の概要 ■受講対象
教育実習済みの4年生で発達障害児と関わった経験があり、障害児指導法などの授業履修済み。特別支援教育関連の職種希望。選択科目
■授業目標
特別支援教育に対して
・ 計画作成ができるようになる。
・ケース検討会議で発表できる
・コーディネーターに近い立場で意見が述べられる。
■授業概要
開始時に討論するケースが与えられ、毎回異なるグループでカンファレンスを行い、その後グループの代表がカンファレンスの結果を報告、講師が講評。グループごとにカンファレンスの記録を提出。
■学生たちの反応
話し合いで物事を多面的に見る必要性を学び、自分の考えを言う・人の話を聞くことができるようになった。
大学生の学習動機と授業評価の概要は別紙に記載
■受講対象・・・・3年生
■授業目標
様々な構造システムを直感的に理解できる。
■授業概要
1.古代からの建築物の実例の提示
鉄筋コンクリート造の出現
シェル構造、折板構造、吊構造
等の実例を図解や写真をまじえて説明。折り紙など身近な材料を用いて構造の考え方を感覚的に理解させる。
2.ネットによる学習システム「構法百科」の開発と利用
・自学自習できることを目的として開発。学生達が建物の形態・設備・構造を学べるように配慮。
■学生たちの反応
アンケートでは楽しかった、理解できた、設計に役立つなど好評。
また、設計演習のように全ての知識を総動員して各自で異なる解答を出す授業への応用を目指す。すでに完成した作品にも授業の知識を利用した、構造が特徴的なものも多々見られる。
自由討議の概要 別紙に記載(p.2〜4) 別紙に記載(p.2〜4)

高井先生より授業報告と共に、「大学生の学習動機と授業評価の概要」という調査発表がなされた。
以下、その概要を報告する

<概要>
◆調査の目的
  • 大学生の学習動機の因子構造の調査
  • 学習動機の因子と授業評価で重視する項目との関連検討
◆方法
  • 調査対象は「障害児の教育」の受講生。
  • 質問構成は、大学で学ぶ動機27項目
授業評価で重視する8項目 それぞれ4件法で回答を求めた。
◆ 結果
第1因子「向上心」志向、第2因子「楽しみ」志向、第3因子「モラトリアム」志向、第4因子「学歴・資格」志向 以上四つの因子抽出
◆考察
「向上心」志向:内容のわかりやすさ重視 
開始・終了時間が守られているかどうかは重視しない。
「楽しみ」志向:開始・終了時間が守られているかどうか重視
「モラトリアム」志向:内容の理解しやすさ、内容への興味関心、授業のまとまり、先生の熱意、先生の声の大きさ・話し方、教材・進め方の工夫を重視していない。
◆結論 
@「向上心」の強い学生が満足する授業では、「授業内容の理解しやすさ」を挙げる向が強い
A 授業改善により授業の満足度を高めるよりも、「楽しみ」志向や「モラトリアム」志向の学生を「向上心」の強い学生へと育てる方が効果があるのではないか。

<自由討議の概要>
高井先生
  • 報告の授業が選択科目ということであるが、受講していない学生はなぜ受講しないのか。
    → 特別支援教育の免許をとってないからである。
  • 授業内容の理解しやすさ、「わかる」をどのように捉えているのか。学生の認識の深化をどのように捉えたらよいのか。
    → 自分で(理解や認識)深めるということは、教育実習に出て実際の場面を体験したことが大きく影響している。実習までの授業は詰め込み式になるかもしれないが、2,3年対象の授業では実習に向かう動機付けができればよいと思う。
  • 報告の授業は、「単なる知的技術の習得」を目的とする科目というより、特別支援学校教職課程の1選択科目の履修者は、同時に主免許教職課程の履修者でもあることを考慮すると、当該授業の前提には、全人格的変容をもたらすことすらある教育実習との係わりを無視できない要素が多く潜在している。従って、より重要な観点から言えば、「特別支援学校教員養成のプログラムを戦略的にどのように作っていくのか」という基本的課題が、個別授業の前提に横たわっている。去る12月13日の課程認定大学実地視察に際しても、科目配列等との関連性で、そのことが問われた。この点、特別支援学校教職課程の担当者として、どのようにお考えですか。
    → 報告授業は発達支援の授業(とタイミングが)合ったので効果があったが、カリキュラム変更に伴い来年は授業がなくなる。
  • 2つ質問がある。
    @ ケース検討会議はワークショップだと思えばよいのか。学生に自由に進めさせているのか。それともルールを定めているのか。検討会議の様子を教えて欲しい。
    A アンケートの分析について、「向上心」志向の学生の割合はどの程度か。
    → @ 小学校の検討会議では事例をあげ、コーディネーターの先生や専門家を交えできるだけ早く結論を出すのがルールである。先生方は忙しいので一人ひとりの意見を聞きながら、その場で結論を出すようにしなさいと指導する。
    → A 学生たち1人1人の向上心の高さを測定しているのではないので、絶対的な向上心の高さはわからない。「向上心」志向の学生がどうしたら増えるかは今後の課題としたい。
  • 前原先生)向上心の有無について分かりにくい。学生たちの興味と授業内容が合致すると向上心が見られると感じるかもしれない。したがって、【向上心】そのものが、普遍的に学生の中に存在しているなどとは言えない事項である。
    ところで、最初のところで、シラバスに関する高井先生のお考えも聞けた。シラバスには回数ごとに内容を書くように言われている。シラバスについてどのようにFDするのか今後の課題としても、この報告は意味がある。
  • シラバスの記述については、高井先生はカテゴリーごとの記載、前原先生は回ごとの記載をしているが、文科省はどこまで要求しているのか。
  • 本日の高井先生の授業については、大学設置基準から規定されてくる「教務のベクトル」と教育職員免許法等から規定されてくる「教職課程認定のベクトル」との2つの方向から規定されると考える。文科省への課程認定申請書類には、シラバス添付も要求されている。作成要項(手引き)には、15回が例示されている。課程認定では、授業内容も認定要件となる。そのように見てくれば、(本日報告の授業シラバス記載方法では)、「形式的に違反している」と捉えられるおそれもある。教員免許法施行規則第6条表に規定されている「含む事項」についても、必修科目については特に、授業内容に記載することは当然のことと解される。【註@A】
  • 上記の件につき、大学教育基準協会の評価委員として補足説明する。シラバスには回ごとの記載が必要となる。
  • 大学でどの授業についても言えることだが、実際の授業では、シラバス通りに進まないこともあるかもしれない。しかし、シラバス冒頭に記載されている「授業目的」については、その考え方は(学生と教員で最小限)共有されなければならない。 授業の軌道修正はあるにしても、その修正方向は【授業目的】に収斂すべきである。
  • 向上心が強い学生をいかに育てるか。食物学科では管理栄養士を意識させる教育、教育学科であれば先生になることを意識させることが必要ではないか。専門分野への導入段階でいかに学生の意識を高めるかが重要と考える。
    → 理系的専門職、文系的専門職という違いはあるかもしれないが、「最初から教職目指してまっしぐらより、途中で回り道をしたり悩んだりしたほうが打たれ強い学生になる」と考える。
    (前原先生)→これは「結果論的後からの解釈」であって、後述するように、教職課程の授業科目が、全ての受講者の将来に対して、実際にどのように機能するかについては、その時々の受講段階においては確定し難い事象である。同じ理由から、高井先生がおっしゃるように「最初から教職目指してまっしぐらより、途中で回り道をしたり悩んだりしたほうが打たれ強い学生になる」と、誰が確定できるのであろう。現実的には、学生個々人自身の生育環境や成長状況と本学での一般的学修状況、特に教職課程教育との総体的相関関係によるのではないだろうか。だから、初期の段階から、丁寧に方向付けを行うよう、本学では「初期演習」を長らく卒業必修として課してきているし、教職課程について言えば、教職導入科目として「教職への道」が必修化されているのである。
    従って、教職課程を開設し、教員免許の授与要件を「可能な限り」実質的に保証するという「課程認定大学として教育的責任を遂行する立場」からは、以下の事項が必要となる。
    1. 我が国の教職課程認定制度を遵守すること。 
    2. 当該免許の授与に相応しいカリキュラムを組織的に合目的的に構築すること。
    3. 1.及び2.に基づき、担当教員個々人が、平素の授業等を通して、より効果的な教員養成機能を発揮すること。
    4. 教職課程を置く大学全体が、養成機能を直接・間接に支援する指導体制を構築すること。
    5. 教職課程履修のプロセスにおいて、履修学生の履修状況を個別的に把握する『履修カルテ』を作成し、学生の実態に即した履修指導を展開すること。
    6. 上記5.の指導プロセスを踏まえて、本人及び保護者の意思により、また大学教員の立場より、教職以外のキャリア・プランに軌道修正したり、自己の教職適性について熟考させたりすることも重要な課題となる。
    7. 上記の教職指導体制を、本学「立学の精神」並びに「学院教育綱領」の具現化として、実践すること。
大坪先生
  • 専門ではないので基本的なことであるが「意匠」の意味を教えていただきたい。
    → 建築分野では「意匠」のほかに「構造」「設備」の専門家がいるが「意匠」の担当は「構造」「設備」の分野の知識もある程度持ちながらデザインを含め建築計画全体を統括するということである。
  • 「建築百科」は学生も参加して作成しているのか。
    → 一部の学生が参加している。
  • 「建築百科」の資料作成はボランティアか。
    → 中心的立場の明治大学が文科省から委託されている。有償である。将来的には利用者に使用料を払ってもらうことになるだろう。
  • 生活環境学科で大坪先生と共に教えている立場として言っておきたい。学生たちからもよく質問を受けるので、「建築学科、建築デザインコースの違い」をもう少しはっきりさせていかなくてはと思っている。「設計演習」についても、 生活環境学科のデザインコースではどうあるべきかはっきりさせたいと思う。
糸魚川学長先生
両先生とも共通の問題を提示してくださった。学生が入学して卒業するまでにどのような心の状態で過ごすのか。 今は、僕のような学生はいないのだろうか。僕自身は良い成績で卒業することよりも「知識より理屈を知りたい」と 思っていたので大学に入学して楽しいと思った。
高井先生のご報告から、学生たちは「楽しさ→モラトリアム→勉強したい…」のように意識が螺旋を描きながら向上心が表れるのでは・・・ と考える。今の学生は、どのような心理的螺旋を描いていくのか知りたい。
大坪先生の授業は、感性を総動員して感覚的に知識を収集して、理屈を学ぶということもあるものなのかと勉強になった。
前原先生
  • 今日的大学生像とは?
    本日の研究会の結論的キーセンテンスは、学長がおっしゃった「もう、僕みたいな大学生はいないのかな?」 という疑問文であったと思う。つまり、高等教育機関としての大学に対して、知的探究・真理探究への高い動機を持って進学し、 学問を修めるという学生は、もはや「古典的大学生像」となりつつあると言われている。と言っても、我々大学教員の多くは、 その系譜に属する学生であったといえよう。
    ところが、現実の大学生は、もはや、かつての我々の前世代あるいは同世代のような「(今では)古典的(とされる)大学生像」から、 大きく乖離しつつあるように思われる。つまり、日々の授業の中で、「教授する者」と「学修する者たち」との共有すべき前提が「 大きく異なる状況を同時に生きている」ということになる。
    さらに、この乖離現象を複雑にしている要因は、第三のファクターとしての社会的・政策的環境要因である。上記二者の乖離については、 当事者間の問題であるが、社会的・政策的環境要因との乖離は、さらに厄介である。というのは、所属学科の同僚・教員間でさえ、 事柄によってはその認識が180度異なることも多いという、<悲しい現実>があるからである。
  • 大学教育という学術的建築構造体の「構造と機能」をめぐる議論の乖離現象
    今日の大坪先生の授業のアナロジーでいえば、私たちは、大学教育という学術的建築構造体の「構造と機能」について、 大学授業事例を通して議論しているといえる。本学の専門教育や共通教育のカリキュラムの体系性や合目的性、授業科目数の削減、 授業回数やシラバスの記述方法等についてはどちらかといえば、構造的部分についての「形式的」議論である。しかし、より重要なのは、 それらの「実質的」機能的部分についての議論を、「同時に」深めることである。つまり、教授の対象である学生たちにとって、 当該の授業内容とその運営方法が、どのような意味を有しているのか、という議論である。
    現在進行中の論議は、どちらかと言えば、構造的部分についての「形式的」テーマに集中しているように推察される。来述の経緯で言えば、 【構造と機能】を同時にテーマ化する、視点が欠落しているように思われる。
  • 大学像・大学生像の変貌とFD推進の役割
    先に、「教授する者と学修する者との前提が異なる状況を生きている」と述べたが、将来的には、両者の前提は益々、その乖離の度を強めていく ように思われる。したがって、今後、より確実な教育効果を求めるならば、大学教育という学術的建築構造体の「構造と機能」について、 そのズレを創造的に乗り越える実践的努力が必要となるのである。
    この努力は、当然のことながら、大学授業の改善に留まらず、日々の授業を成り立たしめている諸前提の改善をも含むことになる。 同時にこの議論は、大学教員間のみならず、日々の授業の中で「教授する者」と「これを享受する学生たち」との間でも、 展開されなければならないだろう。
    我々FD推進委員会がこの一年来、大学授業研究会プロジェクトを筆頭に取り組んできたFD推進プロジェクトは、全て、大学教育という 学術的建築構造体の「構造と機能」について、そのズレを創造的に乗り越える実践的努力に収斂させようとするささやかな試みで あり続けている。
以上
【註@】 シラバス記載の授業回数を15回として、記述する教務的要請は、単数の換算方法について、講義の場合、 「授業1時間+授業外学習2時間」×15回=45時間をもって、1単位とする計算方法に基づくものと推察される。
【註A】 教務部からも、その旨、シラバス作成に際して依頼通知が出されている。
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