江戸時代の女性群像 西島 孜哉
授業目標:  江戸時代の文学にみられる女性の生きかたを知ることが、現代の女性としての生きかたに何らかの参考になるようにしたい。独善的な立場や排他的な思考法を捨てて、常に相対的・客観的な視点がもてるようになることを目標とする。
科目内容:  江戸時代の文学には、恋愛が多くとりあげられている。しかしそこに描かれるのは、悲劇的な様相を示す恋愛であった。それは江戸時代の封建制度が、人間の本質的な欲求の否定の上に成り立っているからであろう。恋愛感情の純粋さは、個人的・排他的なものであると同時に、普遍的で人間的なものである。江戸時代の文学は、恋愛のそのような矛盾を浮き彫りにしている。
 この講義では、西鶴・近松・秋成・春水・南北などの江戸時代の文学から、恋愛に殉じた女性達を描いた作品をとりあげる。主人公の女性達は、自分達のおかれた封建的な身分制度という閉塞社会の中で、悲劇的な運命の中にも精一杯に生きようとした。
授業計画: 1 「後は様付けてよぶ」(『好色一代男』巻五の一)
 「都をば花なき里になしにけり、吉野は死出の山にうつして」と夫である灰屋紹益を嘆じさせた京都の名妓吉野。人生の様々な障害への対処にみられる吉野の生き方とは。
2 「身は火にくばるとも」(『好色一代男』巻六の二)
 死後幾度も歌舞伎化され「又類なき御傾城の鏡」と称賛された大阪の名妓夕霧。客の真情への見事な対応とは。
3 「さす盃は百二十里」(『好色一代男』巻七の四)
 世之介は全盛の太夫高尾に逢うために江戸に下る。隙日がなく、逢うことのできない高尾のとった手段とは。
4 「姿姫路清十郎物語」(『好色五人女』巻一)
 姫路の但馬屋の娘お夏は、手代の清十郎と駆け落ちをする。捕らえられた清十郎の無事を祈るが、処刑されたことを知り、狂乱する。
5 「中段に見る暦屋物語」(『好色五人女』巻三)
 大経師の妻おさんは手代茂右衛門と密通、丹波まで逃げる。おさんをそこまで追い詰めたのは。
6 『曾根崎心中』
 九平次の悪巧みに窮地に陥れられた徳兵衛に殉じてお初は心中する。お初の可憐さは。
7 『堀川波鼓』
 下級武士彦九郎の妻お種の密通の意味は。
8 『心中天の網島』
 小春・おさんの女同士の義理。夫治兵衛の命を頼むとのおさんの手紙に対する小春の対応は。
9 「浅茅が宿」(『雨月物語』第三話)
 夫勝四郎の帰りを待ち続け、遂に死んだ宮木。七年後に漸く帰った夫に対する宮木の答えは。
10 「吉備津の釜」(『雨月物語』第六話)
 裏切られ続けた磯良の、夫正太郎への凄惨な復讐。
11 『春色梅児誉美』
 芸者米八と唐琴屋の娘お長は、なぜ丹次郎に尽くしたのか。
12 『東海道四谷怪談』
 伊右衛門の度重なる裏切りに、お岩はついに皆殺しの復讐を遂げる。血の池地獄の恐ろしさ。
評価方法: 試験期間中に筆記試験(100点満点)を実施する。
講義中にとりあげた項目の中からいくつかの問題を設定する。その中から3項目を選び、自己の考え・学習の成果を加えての論述形式。
教科書: 西島孜哉編『近世文学の女性像』世界思想社
参考書: 古典文学の注釈書類が多く刊行されているので、図書館等で参照してほしい。
留意事項: (この講義を契機に)多くの日本文学作品に接してほしい。日本の古典文学は、世界に誇ることができる独自の伝統文化であり、日本人の思想や美意識を形成している。国際的な日本人としての必須の教養である。
質問・意見等はatsuya@mwu.mukogawa-u.ac.jpまで。