中世文学講読A・B 小林  強
授業目標:  古典文学の作品が、どのようなプロセスを経て現代に伝来したのかを理解することにより、現在様々な形で提供されている各作品の本文が、必ずしも唯一無二の絶対的な存在ではないことを認識した上で、更に、実際に和歌の本文に異同が生じている場合の調査方法を会得する。
科目内容:  高等学校までの解釈(口語訳)中心の古文の学習とは異なり、より専門的な観点から、国文学の最も基礎的作業に相当する「本文研究」について、実際に、新古今集の各写本間で本文に異同が派生している和歌をサンプルとして、具体的に考察を試みる。更に、解釈面についても、新古今集の古注釈書を題材として、和歌の解釈の現代と中世・近世との相違について考えたい。なお、適宜、講義担当者が所蔵している新古今集の写本や古筆切(こひつぎれ)などの実物を参照する機会を設ける予定である。
授業計画: (前期)
1 本講義の目標について(オリエンテーション)。
2 主要参考文献の紹介及び使用方法について(図書館にて)。
3 テキスト(写本)間の本文の異同について、本文研究(伝本研究)の意義。
4 テキスト(写本)間の本文異同の派生理由について。
5 写本・版本・古筆切概説。
6 講義担当者所蔵の「伝後小松院筆新古今集切」の本文の問題点(1)。
7 講義担当者所蔵の「伝後小松院筆新古今集切」の本文の問題点(2)。
8 新古今集七番の和歌の本文の問題点(1)。
9 新古今集七番の和歌の本文の問題点(2)。
10 原出典及び他出文献の本分との比較及び出典研究の意義。
11 仮説の提示・検証及び残された問題点の確認。
12 レポート作成のマニュアル及び全体のまとめ。
(後期)
1 新古今集の注釈書についての概説。
2 新古今集の主要注釈書の調査方法(図書館にて)
3 新古今集の現代の注釈書の解釈上の対立点について。
4 新古今集の「古注」について(1)。
5 新古今集の「古注」について(2)。
6 新古今集の「新注」について。
7 新古今集入集歌を含む他の作品(自讃歌注など)の注釈書について。
8 「古注」相互間の影響関係について。
9 「古注」と「新注」、及び「新注」相互間の影響関係について。
10 「古注」と「新注」との問題意識の相違について。
11 「古注」と「新注」と現代の注釈書との問題意識の相違について。
12 レポート作成のマニュアル及び全体のまとめ。
評価方法: 前期・後期ともに学期末のレポートにより評価するが、出席状況、受講姿勢(積極性)、宿題の調査状況などの平素の努力の積み重ねを定期試験のレポートと同等に重視して評価する。
教科書: 岸上慎二他編『校訂 新古今和歌集』武蔵野書院
参考書: 島津忠夫編『新古今和歌集を学ぶ人のために』世界思想社
留意事項: 本講義の内容自体は国文学研究の最も基礎的な分野に属するものではあるが、受動的・傍観者的受講姿勢では十分な教育的成果が期待出来ない内容でもあるので、受講生各自の意欲的且つ積極的な取り組みに期待しています。