天然医薬品化学 石黒 京子
授業目標:  天然由来の局方収載医薬品や重要生薬に含有される化学成分についての知識を深める。
科目内容:  現在、世に送り出されている数多くの優れた医薬品は、いきなり合成されたものでなく、ほとんどの場合、昔から薬として伝承されてきた自然界の草根木皮(生薬)からその基本となる化合物(リード化合物)を取り出し、その化学構造と薬効に関する知見を考え合わせて合成化学者により創られたものである。その代表的な例はアヘンより得られたモルヒネをリード化合物とする多くの合成鎮痛薬である。現在までに天然より得られた薬効成分をリード化合物とする合成医薬品は膨大であるが、すべての化合物は生体内でいくつかの反応経路(生合成経路)により合成されていることから、その構造上の類似性に基づいて、いくつかの化合物群に分類することができる。そこでこの生合成のルールについて理解を促し、複雑多岐な天然物を分類し、それぞれの性質や、構造上の特徴を解説する。
授業計画: 1 天然物と医薬品および医薬品開発のプロセス
2 生合成:植物成分は、一次代謝産物(生命維持、成長に不可欠の物質で、すべての植物に普遍的に存在する化合物類)と、二次代謝産物(個々には特有の生理活性を持つが、生命維持に直接関係のない化合物類)に分けられている。しかしこれら植物成分はすべて元をたどれば、光合成により炭素ガスと水から作られたグルコースを源とし、そこから三つの主要な経路(酢酸−マロン酸経路、メバロン酸経路、シキミ酸経路)を経て作られたもの、あるいは根から吸収される窒素酸化物に由来するアンモニアにより作られたアミノ酸の誘導体である。この炭素の主要代謝経路を概略図を用いて説明する。
3 各論を説明するにあたっての基本的事項:複雑な構造式を書くときの約束や、成分の分類における原則
4 以下の化合物群(主に二次代謝産物)の生合成、定義、分類およびそれを含有する局方生薬について
 (1) 酢酸−マロン酸経路により作られる化合物群
   脂肪酸関連化合物、脂肪族および芳香族ポリケチド
 (2) メバロン酸経路により作られる化合物群
   テルベノイド、ステロイド、サポニン、カロチノイド
 (3) シキミ酸および複合経路により作られる化合物群
   フェニルプロパノイド、フラボノイド、タンニン
 (4) アミノ酸より作られる化合物群
   アルカロイド、その他
 (5) 天然物由来の日本薬局方収載医薬品
評価方法: 試験期間中に筆記試験(100点満点)を実施する。
教科書: 川崎敏男 西岡五夫編『天然薬物化学』