薬物代謝論 吉田 雄三
授業目標  医薬品の有効・安全な使用に責任を負う薬剤師は、医薬品の有効性と安全性に多大な影響を与える薬物代謝について十分に認識を持つことが要求される。この授業では、医療薬学の基礎として、薬物代謝とその生化学、分子生物学的な機構の基本事項を説明できるようになることを目標とする。
科目内容  医薬品は様々な体内変化(代謝)を受ける。薬物代謝反応は医薬品の薬理作用や毒性を変化させ、排泄を促す役割を持つ。したがって、薬物同士の相互作用や患者の遺伝的要因による薬物代謝能力の違いなどは、医薬品の有効性や安全性に重大かつ複雑な影響を及ぼす。この科目では、薬物代謝反応に関する諸問題を以下の授業計画にしたがって学ぶ。
授業計画 1 薬物代謝の意義〜薬物の体内動態と薬物代謝
 薬物の吸収から排泄に至る体内動態を概観し、薬物の体内動態におけるクリアランスという概念と薬物代謝の関係について学ぶ。この項目の学習で、薬物の体内動態における代謝の意義を説明できるようになる。
2 薬物代謝反応と薬物代謝酵素
 薬物代謝反応には、酸化、還元、加水分解、抱合という4種類の形式がある。この項目では、反応形式毎に、それぞれに属する反応の種類と特徴、触媒する主な酵素群(P450を中心とする酸化還元酵素、エステラーゼなどの加水分解酵素、抱合に関与する転移酵素など)の性質と反応機構について学ぶ。この項目の学習で、薬物代謝に関する生化学的機構の基本事項について説明できるようになる。
3 薬物の薬効・毒性を増す薬物代謝と化学発癌
 薬物代謝が薬物の毒性を増したり、発癌物質を活性化したりすることで、生命維持に対して負の役割を演じている例について学ぶ。この項目の学習で、薬物代謝酵素系が生命に対して不都合な影響を与えることもあることが説明できるようになる。
4 薬物代謝の誘導、阻害と薬物相互作用
 薬物や環境物質による薬物代謝の誘導(酵素レベルが上昇する現象)と併用した薬物や食品成分による薬物代謝の阻害の機構とそれらが医薬品の血中濃度に及ぼす影響について学ぶ。この項目の学習で、代謝が薬物相互作用や薬物と食品成分の相互作用に大きく関わっていることを説明できるようになる。
5 生理的要因による薬物代謝能の変動
 薬物代謝能が性や年齢の違いや病態、栄養状態によって影響を受けることを学ぶ。この項目の学習で、医薬品の効果と安全性に患者個人の生理的・病理的な要因が関係することを説明できるようになる。
6 薬物代謝酵素の遺伝学
 ヒトの薬物代謝酵素に見られる遺伝的多型を知り、それらが薬物代謝機能に影響をして、医薬品に対する感受性の個体差の要因となっていることを学ぶ。この項目の学習で、薬物代謝酵素の遺伝的多型が説明でき、それが患者個人に適した薬物療法を考えるうえで重要であることが説明できるようになる。
 この項目と4,5項目で学んだことを総合して、有効で安全な医薬品の開発(創薬)と医薬品の有効・安全な使用には薬物代謝に関する知識が必須であることを説明できるようになる。
評価方法 履修規程に定められた定期試験(100点満点)ならびに再試験(80点満点)によって評価する。
教 科 書 加藤・鎌滝『薬物代謝学』第2版 東京化学同人
参 考 書 加藤・鎌滝『薬物代謝の比較生化学』清至書院、佐藤・大村『薬物代謝の酵素系』講談社
留意事項 薬物代謝は薬物の体内動態に密接に関係するので、薬物の体内動態を扱っている「生物薬剤学」「臨床薬物動態学」との関連性に留意して学習することが必要である。また、薬物代謝に関する知識は、食品成分や毒物の代謝に関連して衛生薬学にも不可欠な知識となることに留意すること。

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