日本の名文・名場面 −近代文学から− | 辰巳 都志 |
授業目標 | 読書離れが激しい昨今、日本の近代小説の中から珠玉の作品をとりあげ、文学的教養を身につける。 |
科目内容 | 近代小説の中から、名文または名場面を取り上げ、それらがなぜ名作とされているかを考える。 |
授業計画 |
樋口一葉『たけくらべ』 廓のある大音寺前で生活している家庭は、大なり小なり廓に寄生して生きている。町の子供たちは表町組と横町組に分かれ、仲が悪くて何かにつけて競い合っていた。表町組の女王格である美登利は密かに信如が好きだった。が、その彼が横町組に入ったと聞く。思春期の子供たちが大人になっていく悲劇を描いた、一葉の最高傑作。 夏目漱石『こころ』 鎌倉の海で知りあった男に興味を惹かれた「私」は、その人を先生と呼んで、彼の家に出入りするようになる。「先生」には謎めいた言動が多い。大学を卒業した私は父の病気をきっかけに郷里に帰るが、先生から遺書めいたものが届き、危篤状態になった父を兄に託して、「先生」のもとに急ぐ。その汽車の中で読む先生の「遺書」には驚くべき過去が語られていた。 森鴎外『雁』 無縁坂のほとりに住んでいるお玉は、高利貸し末造の妾だった。お玉は毎日散歩で家の前を通る医学生岡田といつしか会釈する間柄に。二人は急速接近するかに見えたが・・・。 泉鏡花『高野聖』 旅先で高僧と知りあった書生は、その高僧が若かったころ山中で不思議な女と出会い希有な経験をしたことを聞かされる。 幸田露伴『五重塔』 のっそり十兵衛と異名を取り、動作が緩慢で他人からは馬鹿にされているが、大工の腕は確かで、寺の五重塔を自分で建てたいと切望し、なしとげる男の話。おとこぎあふれる職人の世界を見事に書いた傑作。 谷崎潤一郎『春琴抄』 大阪道修町の薬問屋の次女・琴は九歳の時から盲目。彼女を慕う丁稚の佐助は、念願かなって琴の世話を一手に引き受けることになる。身を捨て献身的に仕える佐助に対し、琴の仕打ちは非情だった。だが、37歳のとき春琴に災難が襲い、佐助は決断を迫られることになる。 芥川龍之介『藪の中』 山城から丹波に向かう山の中で、山賊にだまされた夫は杉にしばられ、その目の前で妻が犯された。その後、夫は死体で発見される。誰が夫を殺したのか?捕まった山賊、探し出された妻、そして黄泉の世界から巫女に降りてきた夫。三人の証言はみな食い違っていた。 有島武郎『或る女』 早月葉子は、婚約者の待つアメリカに急ぐ船中、一等航海士の倉地三吉と激しい恋に落ちる。ついにアメリカで下船を拒んで日本に帰り倉地と同棲。だが妻子ある倉地への猜疑に苦しめられ衰弱。二人はぎりぎりまで追いつめられていく。日本の恋愛小説の最高傑作。 太宰治『斜陽』 没落貴族の娘、かず子は流行作家上原の子供を産みたいと上京。念願の妊娠を果たすが・・・。太宰の実体験をもとに描かれ「斜陽族」という流行語を生んだ。 志賀直哉『暗夜行路』 時任謙作は幼児期から、自分だけが父から愛されず、祖父に引き取られて育ったことが不信で不満だった。婚約が理不尽にも破棄されたときに、兄から驚くべき出生の秘密があかされた。自暴自棄になった謙作は、それでもようやく愛するに足る女性に出会い、結婚。しかしその妻直子が犯した「罪」をどうしても許すことのできない謙作は…。 川端康成『伊豆の踊子』 孤児根性でねじれている、という思いの「私」は伊豆の旅で旅芸人の一行と一緒になる。中でも薫という十四歳の少女に淡い恋心をいだくが、旅はやがて終わりに近づく。 三島由紀夫『金閣寺』 昭和25年、金閣寺が放火され、全焼した。三島はこの実話をもとに、小説を書いた。吃音というコンプレックスを持つ私は、若狹の田舎から金閣寺の和尚のもとに引き取られ大学に通う。そして愛する金閣を焼かねばならぬ、という観念の極みに行き着く。 |
評価方法 | 期間内試験による。 |
教 科 書 | 当分プリント授業(後期はテキスト発売の予定) |