劇団四季のミュージカル「美女と野獣」第2幕。
深く暗い森にたたずむ古城。その主である野獣が美しい娘、ベルを誘う。ベルは本が好きでたまらない。本を手から離さないで、いつも物語の世界に思いを馳せる。
さあ、目を開けてごらん。カーテンが開くと、そこには美しい図書館が現れた。ベルは息を飲む。
「信じられない!今までにこんなにたくさんの本を見たことないわ!」
「これ、君のものだ」
からだ全体で嬉しさをを表現するベル。踊るように次から次へと本の山を見てゆく。一冊の本を取り出す。「アーサー王」だ。前に読んだことのあるベルは野獣にどうぞ先に読んでいいわと語りかける。でも野獣には読めない。ベルは「あら、実はこの本は朗読するのにぴったりなの。ここへ来て、傍に座って」と読み始める。その声が野獣の心にしみてゆく。そして言う。
「本がこんなに面白いなんて。(本は)ぼくをどこかに連れ去ってくれる。しばし忘れさせてくれる」。優しさを失ったため魔法をかけられ野獣になったその身の辛さを忘れるという。朗読が進むにつれ表情が和んでゆく。村人から変わり者といい続けられてきたベルには野獣の気持ちが良くわかる。目が合う。絆が生まれる。やがて愛につながる。そんなシーンだった。
5回目の「美女と野獣」だったが、初めてこの図書館の場面が果たす役割に気付いた。この物語のもう一人の主人公は「本」だと。本が人を変えてゆく、本が人と人を結んでゆく。私のゼミの学生からメールが来た。作家の重松清さんから聞いた話だという。
「本を読んでください。そうすれば本は読み継がれます。そしてまた、だれかの希望になります。あなたのために、だれかのために本を読んでください」。
その学生は「誰かのために本を読むなど考えたことがなかったのでとても印象的な言葉でした。本ってやっぱり素晴らしいです」とも加えていた。
6月から月1回の更新予定でコラムを掲載する。
魔法が解けて凛とした王子に戻り、ベルと結ばれる「美女と野獣」。フィナーレでスタンディングオベイションをしながら考えたタイトルは「愛と勇気の 図書館物語」だった。
文学、映画、舞台のなかに登場する図書館、そしてそこから生まれる心やさしいドラマを取り上げてみたい。
今回登場する「アーサー王」はヨーロッパ最大の伝説とされる中世騎士道物語である。わたしたちの図書館にも英語版と訳本がそろっている。
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