「ハーバード白熱教室」に魅了された。日曜日の夕方6時からのNHK教育テレビ。息をつかせぬ論旨の展開、マイケル・サンデル教授の「正義論」が古色漂う階段教室を埋めた学生たちに、確かに届いている。手を挙げて意見を述べる若者の闊達さ、明快さ。同じ教壇に立つ身には、しびれるような感覚を憶える。これはドラマだ。教授と学生が主人公の緊迫した舞台である。瞬く間に時が過ぎてゆく。
約1時間、学生たちの向こうに、オリバーの顔が浮かんでくる。ハーバード大を舞台にした映画「ある愛の詩」の主人公である青年の、聡明で、凛とした横顔だ。オリバーとジェニーの、短いが愛に満ち満ちた日々と別れ。若者らしく、それでいて知的な会話。40年前の映画の世界が、今の階段教室にも生きていると思った。
二人の出会いは図書館である。ハーバードのオリバーは名門女子大、ラドクリフの図書館に本を借りにゆく。バイトをしている音楽専攻のジェニーがいた。背景には重厚な木のつくりの書架。革の背表紙が並ぶ。ユーモア溢れる小気味良いやりとり。図書館が登場するのはこのワンカットだけで、およそ50秒である。ボストンの大富豪の息子、オリバーとイタリア移民の娘のジェニー。でも図書館では、本の前では誰でも同じである。そう暗示するための出会いの場に違いない。やがて恋に落ちる。寮で一夜を過ごした二人。ソファーに寝そべり、体を絡ませながら、それぞれに本を読んでいる。ジェニーはページに目を落としたままつぶやくように語る。「アイ・ラブ・ユウ」。愛を告げる時にも、本がある。結婚、貧しい暮らし。オリバーは父に決して援助を求めない。ロースクールに進み、弁護士になる。ジェニーも音楽の教師を目指すが、幸せの時間は短い。ジェニーが白血病で余命わずかと知らされる。妻は25歳で逝く。事情を知って駆けつけた父と病院で会う。
「ジェニーは死にました」
「残念だ」。和解することのない父との会話は短い。オリバーは言う。
「愛。愛とは決して後悔しないことです」。夫婦げんかのあと泣きながらジェニーが言った「やめて、愛とは決して後悔しないことなのよ」という言葉を父に返したのだ。フランシス・レイの名曲が蘇る。1970年代に青春を過ごした、わたしたちにも染み入るセリフとピアノだった。新聞記者として取材で初めてニューヨークを訪れたとき、真っ先にセントラルパークに寄り、オリバーと同じようにスケートリンクのベンチで過ごしたことをよく憶えている。
原題は『LOVE STORY』。シーガル・エリック作。英文は3階と地階文庫(外国)、訳本は地階文庫(日本)にある。2階AVには主題曲のCDが。ライアン・オニールがオリバーを、アリ・マックグローがジェニーを演じた。