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第10話 「本と図書館の歴史−ラクダの移動図書館から電子書籍まで−」(2011年3月)

 館長室で読んでいると、児童書なのに、物語でもないのに、心が浮き立ってくる。古代のアレクサンドリアから電子書籍まで、数千年の時空を生きてきた本と図書館に喝采を贈りたくなる。宝石のような事実が次々と現れ、語りかける。「図書館はすごい」と、いつしか胸が熱くなる。

 カナダのハミルトン公共図書館で司書として働く著者のモーリン・サワさんも、きっと本に囲まれながら、同じ思いで執筆したに違いない。鉄鋼王のアンドリュー・カーネギー(1835-1919)の言葉が紹介されている。「図書館は向上心に燃える人に手を差しのべ、世界最高の宝、つまり書物につまった宝への道を開いてくれる」。カーネギーは財産のほぼ80パーセントにあたる約30億ドルを寄付して世界に2,811館の公共図書館を建てたというのだ。

 この本は勇気を与えてくれる歴史や言葉に満ちている。

 紀元前4世紀にできたエジプトのアレクサンドリア図書館。その頃の蔵書数は40万、存在が知られた巻子本のすべてを所蔵した。ナイルに育つアシからつくるパピルス紙の巻物だった。宇宙の中心は地球ではなくて太陽であると主張したアリスタルコス、あのアルキメデスもこの図書館で学んだのだろう。最古の図書館はさらに1,400年もさかのぼる。古代帝国のバビロニアの王、ハンムラビが作ったボルシェッパ図書館は粘土や石に刻んだ書字板を収めた。世界最初の成文法であるハンムラビ法典も図書館の一角にあったのではと想像するだけでも楽しくなる。

 いつの時代にも本を大切にする人がいる。ペルシャの宰相は膨大な書物を運ぶのにラクダを使ったという。その数は500頭。書物がアルファベット順に並ぶようにラクダの隊列を訓練したそうだ。移動図書館の始まりである。いまも、アフリカのケニア北部では識字率の低い村にラクダが本を運んでいる。ラクダだけではない。南アフリカのジンバブエでは太陽電池パネルやバッテリーパックを装備し、書籍も背にしたロバがファクス、Eメール、インターネットのサービスを届けているのだ。「ロバの図書館」である。

 15世紀半ば、ドイツのグーテンベルクが発明した印刷技術は本の歴史に黄金時代をもたらし、ルネッサンス時代に入ると、多くの都市に誕生した大学に図書館が備わり、イタリアのメディチ家のように裕福な権力者が個人の図書館を建てはじめる。オックスフォードからハーバードへとつながる大学図書館の果たす役割、民主主義と図書館、カーネギーの思いへとたどってゆく。

 12歳から働き始め巨大な財を成したカーネギーは職業学校と実習生用図書館で数少ない蔵書を読みあさった。1901年、引退すると生涯を図書館などの公共施設の建築に捧げる。「一般大衆の向上をはかる最高の手段として、私は図書館を選ぶ。なぜなら図書館は――自ら助ける者を助けるのだから」という言葉を残す。小さな図書館が人生をどれだけ豊かにしてくれたかを、彼は忘れなかった。アメリカには3,500ものカーネギーによる図書館が生まれ、小さな町では必ずランドマークになった。

 そして電子図書館の時代。2002年、新しいアレクサンドリア図書館が、同じ場所にできた。蔵書数は20万冊とかつての半数だが、いま存在するウェブサイト上の資料をすべて維持管理する国際電子図書館を目指す。ウガンダの田舎で子供たちは電子図書館が巡回してくると『ピーター・ラビット』など著作権の切れた(パブリック・ドメイン)本を何十冊もコピーする。インドでも図書館バスが走り、村の人々がインターネットを通して1万冊以上の電子書籍を利用できる。図書館も本も、大きな変化の時代に入った。

 そんな歴史が柔らかく、温かいイラストと魅力的な「コラム」に助けられ、物語のように迫ってくる。刺激的な70ページだ。心に決めたことがある。カーネギーの伝記を読んでみよう。アレクサンドリアの図書館を訪ねてみよう。

 夢をもらった。

 イラストはビル・スレイヴィン、訳は宮本陽子、小谷正子。西村書店刊。中央図書館で現在受入手続中。また、カーネギーの伝記は文庫本が中央図書館の地階にある。

<右>『本と図書館の歴史』【受入予定です】
<左>『鉄鋼王カーネギー自伝』(角川文庫)【地階文庫(日本), 080||KA||E150, 0142343】