お知らせ

第11話 「朝日新聞3月22日朝刊」(2011年4月)

 東北巨大地震が起きてから自失の日々が続いている。報道の一線を指揮した16年前の阪神・淡路大震災のときと同じように涙が溢れてならない。3月22日の朝日新聞朝刊社会面で読んだ記事には嗚咽した。

 岩手県山田町の総務課職員佐々木政良さんは広報担当である。被害の様子を写真に収めなくてはならない。シャッターを切りながらも妻と2人の娘の無事を祈り続けた。役場に来た義父が言った。「みんな流された」。

 記事は淡々と綴る。

 妻は4ヵ月の次女をおぶったまま発見された。3歳の長女は祖父が見つけた。瓦礫の中に見えた、そのお気に入りの靴下を引っ張ると小さな足が出てきた。政良さんはあとを追おうと思った。しかし、母親の一言が押しとどめた。仏さんになってもおなかもすくし、のども渇く。ほったらかしにできない――。3人は一つの棺の中に体を重ねて、ゆっくりと炉の中に入っていった。火葬された3人はひとつの箱の中に一緒におさめられた。

 記事の最後は涙で見えなくなった。

 ――政良さんは3人に話しかけた。「みんなのこと、一生かけて守っていくからな」。

 そう結ばれていた。文章にこもる眼差しが優しい。そして細部に行き届く温かさ。一字一句が丹精されている。同じ新聞記者の道を歩んだものにはそれがよくわかる。だから感銘する。学生たちに読ませたかった。メールを送った。「いま、現場にいる記者やカメラマンはこころの中を涙でびしょびしょにぬらしながらペンを握っているのだと思います」「記者が遺族の方に本当に近くまで歩み寄り、大事に取材した思いが伝わりました」

 図書館には新聞も保存される。電子化された過去の新聞を読むこともできる。それは情報の集積であり、人々の喜怒哀楽の積み重ねでもある。図書館には「知」だけではない「情」も蓄えられる。

 今年1月、図書館に震災コーナーを設け、阪神・淡路大震災の数時間前に卒業論文を書き上げて亡くなった村田恵子さんの卒論や遺品である下書き、万年筆などを展示している。500冊の震災関連書籍も備えた。

 図書館には『方丈記』にかかわる資料もある。「ゆく河のながれはたえずして、しかももとの水にあらず」で始まる鴨長明の文には元暦2年(1185)都を襲った大地震が描かれている。42,300余りの命が奪われた様子が無常観とともに語られる。俳優の渡辺謙さんが朗読して被災者を励ます『雨ニモマケズ』。作者の宮沢賢治は岩手県の出身である。そのゆかりの書物も数多く所蔵している。図書館の「知」と「情」は被災した人々に共感し、自尊心を尊重する知恵に繋がってゆく。

 学生たちと話し合った。「この朝日の記事は絶望の淵にいる多くの人たちを励ますでしょうね」、そう語る彼女たちは就職活動の只中にいる。社会人になれば被災地の、そして日本の再生とどうかかわってゆくのか。それを考える役目を担いたいとも言ってくれた。

 最新1ヵ月間の新聞原紙は、中央図書館1階ブラウジングコーナー、薬学分館入口、甲子園会館分室で閲覧可能。バックナンバーは中央図書館地階集密書架にある。また、学内なら朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の記事が図書館ホームページ「情報検索」からインターネットで見ることができる。

 『方丈記』は『方丈記;発心集(新潮日本古典集成)』【3階、914.42‖KA】、『方丈記(岩波文庫)』【地階文庫(日本)、080‖IWB‖D-100-1】など、原文と注釈や現代語訳が一緒になったものが多い。

 『雨ニモマケズ』は『宮沢賢治詩集(岩波文庫)』【地階文庫(日本)、080‖IWB‖A-95】、『宮沢賢治全集(ちくま文庫)』【地階文庫(日本)、080‖CH‖2-5-3、10】などに収められている。そのほかに絵本もあり、研究書は【910.268‖MI】に集まっている。