「コロンビアの ジャングルのおくに、本をよむのが だいすきな人が すんでいました。 なまえはルイス」。この絵本はそんな語り口から始まる。南米の色鮮やかな木々が茂り、蝶が舞う。本が大好きなルイスはつぎつぎと買うので家はたちまちいっぱいになる。
「本はおかずになりゃしない」と妻のダイアナは小言ばかり。ルイスは考える。「とおい山のむこうに本が1さつもない人たちがいる。そこへ本をとどけよう」と。
数日前に読んだ新聞と重なる。東日本大震災の被災地である仙台市で、4,000冊を積んだ移動図書館が巡回しているという記事だった。はるか離れたコロンビアの平和なジャングルと比べることはできないが、「本を届けたい」という思いは変わらない。
「ルイスは、げんきな小さいろばを2とうかってきました。なまえは、アルファとベットです」。ロバの背中に乗せる本箱にはペンキで「ろばのとしょかん」と書いた。ダイアナも本を並べてくれた。ルイスと2頭のロバは山を越え、国中の小さな村を訪ね続けた。ロバに乗って本を読むルイス。あとを追うもう1頭。緑の山並みを見ながら進んでゆく。にぎやかな色のクチバシをした鳥、蝶、葉っぱの上の黄色い芋虫。太陽が照りつける。時には川を渡ろうとしないロバに「こどもたちがまっているんだぞ!」と声を出し、おいはぎには「たのむから とおしてくれ」「こどもたちが まっているんだ」といい、山を登り、山を下ってゆく。
エルトルメントの村の子供たちが駆けてくる。ルイスが本を読んであげる。終わればいよいよみんなが本を選ぶ時間だ。そして子供たちは大事そうに抱えて帰ってゆく。家に帰ったルイスはすぐには寝ないで本を取り出すと夜遅くまで読みふける。物語はこんな文で終わる。
「はるかとおい山のむこうでも、ろうそくやランプのあかりが きえませんでした。 こどもたちが、よるおそくまで、かりてきた本を よんでいるのでした」。灯りのついた小さな家がぽつん、ぽつんと。染み入るような絵が添えられている。大人なら10分もあれば読める絵と物語。28ページ。でももう一度読み返したくなる。そして、ああ、いい話だなあと繰り返し、言葉にする。
作者であるジャネット・ウインターが「これは本当の話です」と書いている。コロンビア北部のラグロリアという町に住むルイス・ソリアノさんは小学校の先生の経験がある。本の力を知っているルイスさんは2000年から2頭のロバに本を積みいくつかの村に運んでいる。70冊から始めてもう4,800冊。週末になるとロバの図書館は遠くの村に出かけてゆく。いまも続いている。
ジャネット・ウインターはアメリカの作家。伝記絵本や実話をもとにした絵本を数多く著している。『ビアトリクス・ポターのお話』『9月のバラ』『ワンガリの平和の木』など。訳は福本友美子。『としょかんライオン』『りこうすぎた王子』など訳書多数。アフリカの子どもたちに本を届ける運動もしている。『ろばのとしょかん』は2011年4月17日の産経新聞書評欄でも紹介されている。中央図書館で受入手続き中。