日曜日の新聞は一面、社会面、それから読書欄という順で紙面をめくる。ニュースがないときには読書欄が真っ先という朝もある。2012年3月18日の朝日新聞「著者に会いたい」というコーナーが飛び込んできた。『みんなでつくろう学校図書館』。著者は北海道の札幌南高校で司書をしている成田康子さん。56歳である。ネット販売の「Amazon」から夕方には届いた。パソコンで注文してからざっと8時間である。読み終えたのは2時間後。「愛と勇気」のために準備していた2冊は次回以降に回せばいい。テーマは新鮮なほどいい。
「人がたくさんいる図書館にしたい」。成田さんの思いは、その一言に凝縮されている。高校、大学と違っても「学生に来てほしい」という思いは私も同じである。本好きの生徒たちがたくさん登場してくる。成田さんの「奮闘記」と思って読み始めたのだが、文章が読みやすいし、具体的である。キラキラと輝く言葉があちこちにある。高校の図書館が生き生きと描かれる。わが大学の学生にも知らせたい、聞かせたい。
「図書館は使う人によってつくられていきます。図書館は人が出入りすることで輝きます。そしてあなたも輝くのです」
成田さんはこうして、さまざまな工夫と知恵を絞って、図書館を変えてゆく。
「毎日発行される新聞。みなさんは読んでいますか。自分の家では購読していない新聞が図書館にある場合もあります。気になる記事が他の新聞ではどのように書かれているか、もっと詳しく知りたい、と何紙も読む。朝早く図書館の新聞を見てから教室に行く、社説とコラムだけは目を通す」
札幌南高校の図書館は午前7時に開く。生徒たちは新聞を読む。授業の前に読みたいからやってくる。雑誌も手にする。いちばん新しい情報に触れるためだ。
この高校の図書館には様々な椅子がある。その日の気分で椅子を選ぶ。1人掛けのソファー、友達と読むときのための2人掛け。ベンチにも人気がある。横に寝転がって本をめくる生徒もいるという。
「好みの椅子に座って自分の好きな過ごし方や読み方をする……。読む本、読むはやさ、読む格好もあなた次第です」
「なぜ読まなかったのかというと、部活動で忙しかったこと、入ったことのない図書館に1人で入りにくかったこと、勉強しているであろう3年生への心配などがあったためです。でも実のところ1回行ってみればそんな心配は無用です。あんまり深く考えずにとりあえず行って、気に入った表紙の本を手に取ってみればいいです」
札幌の高校図書館の挑戦、生徒たちの意欲。大学だって同じことはいくらでもできる。武庫川にも人気作家の湊かなえさんや俳句界のリーダー宇多喜代子さんたち先輩の作品を集めたコーナーもあるし、もうすぐすれば話題の女性作家の本を集めた書架も作る。本を読んでみようという「読活プロジェクト」も始まったばかりだ。「楽しくなきゃ、図書館じゃない」。その思いを札幌南高校は実現している。
成田さんだけではない。図書館に駆け込んでくる生徒たち、そして手に取ってもらえる本がこの物語の主人公である。小さなアイデアが次々と生かされる。自分たちの居場所にしたいと、みなが懸命に考える。1年生を対象にしたオリエンテーションは生徒たちの仕事だ。2人の生徒が図書館にあるいちばん大きい本を掲げる。1人が一番小さい本をポケットから取り出す。そして、お奨めの1冊を紹介する。『三国志』『これ、誰がデザインしたの?』『Number』。伝える力も養える。
図書局員(図書委員)たちはポップもつくる。
『夜のピクニック』(恩田陸著、新潮社)は「勇気を出して言ってみて。その思い、きっと届くはず」
『A2Z』(山田詠美著、講談社)は「本物の恋愛が詰まっています。痛いくらい伝わる小説です」
『西の善き魔女』(荻原規子著、中央公論新社)なら「宝石のように美しい世界観 あちらこちらにちりばめられた 素敵な言葉たちが光る」
これにも生徒の声。「本を読んでも、感想文を書かなくてはいけないと思うと少し重い気持ちになります。読んだあとのもやもやした感覚をそのままとっておきたいので、ポップはその点がいい」。確かにそうだ。
こんなアイデアが図書館に満ち満ちている。読んでいるだけで行きたくなる。武庫女の図書館も、「楽しい図書館」にしたい。そのためにはどうすれば、どんな知恵を。4月。新しい仲間がキャンパスに溢れている。図書館で過ごす時間がどれだけ楽しくなるか、一緒に考えてください。
成田さんはこう結んでいる。
「私はいつも図書館を後にする生徒の背にことばをかけています。そのことばをあなたに贈ってしめくくりにしましょう」
「―またおいでね」
『みんなでつくろう学校図書館』は岩波ジュニア新書。奥付によれば成田さんは札幌月寒高校、大麻高校を経て、2010年から札幌南高校。学校司書のキャリア29年。現在、北海道高等学校文化連盟図書専門部事務局長。