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第26話 映画「図書館戦争」−革命のつばさ(2012年7月)

 原作の有川浩さんは「阪急電車」で取り上げたし、先月も映画が主人公だったので、多少のためらいはあったが、映画のタイトルに「図書館」という三文字が加わることなんて滅多にない。梅田のシネコンに駆け込んだ。平日だからか、年配の観客が多いのに驚いた。シリーズが270万部にもなるベストセラーである。昨年、「ジャーナリズムとキャリア」という私の授業で「言論の自由について考えたことがありますか」という難問を出したことがある。数人の学生が「図書館戦争」を軸にし、「検閲と言論」というテーマに触れていた。馴染みのないはずの「検閲」が劇画を介して、彼女たちの世界に通じていることを知った。

 もちろん、アニメ「図書館戦争」のテーマも、「検閲」である。わたしたちの日本国憲法第21条一項には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」とあり、二項で「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められている。戦争に消えた多くの命と引き換えに得た大切な権利を奪うのが「検閲」だ。「検閲」が再びよみがえる。

 「メディア良化法」という法律の下で、検閲を行う「メディア良化委員会」、対立するのが図書隊。図書館法第4章で「図書館の自由が侵される時、われわれは団結して、あくまで自由を守る」とうたう自衛組織だ。どちらも武器使用が認められている。図書隊員は「特等図書監」から「三等図書士」まで十一の階級で構成され、通常の図書館業務を行う「図書館員」、防衛を担当する「防衛員」、そして後方支援員から成っている。

 ヒロインは笠原郁。図書士長で女性初の図書特殊部隊員。抜群の身体能力を誇る。その上官は堂上篤。二等図書正、特殊部隊班長。互いに淡い恋心を抱いている。

 物語はシンプルだ。現代を象徴する出来事から始まる。福井県の敦賀原発を武装テロリストが襲撃した。この事件は小説「原発危機」と酷似していた。メディア良化委員会は、著者である作家、当麻蔵人を危険人物として、その執筆権をはく奪しようとする。委員会の狙いは明白だ。これを機に「作家狩り」を始めようとしているのだ。防がなくてはならない。委員会側と関東図書館基地との激しい攻防が始まる。郁の一言が、方向を決める。「表現の自由を認められないのなら亡命しちゃえばいいのに」。当麻を郁と堂上の二人で警護し、大使館に連れて行こうとするが、各国の大使館はすでに委員会側によって封鎖され近づけない。堂上は足に銃弾を受けて倒れる。大阪にある総領事館なら逃げ込め、亡命することができるかもわからない。負傷した堂上は大阪行を命じる。郁は別れのキスをして、大阪に向かう。御堂筋でのカーチェイス、銃撃戦。道頓堀や新世界の風景。こてこての大阪のおばちゃんまで登場する。迫力のある映像が続く。覚悟を決めた郁は封鎖されたアメリカ総領事館に向かって車で突入する。激しい銃撃を受け、蛇行しながら車は近づこうとするが、直前で制圧される。倒れる郁。そのとき英国総領事館の車が現れ、当麻を助け出し、亡命を認める。気を失う郁。関東基地隊が駆けつけ、委員会を排除して郁を助ける。この亡命劇を海外メディアが大きく報道。世論は変化して、政治も法改正に動く。メディア良化委員会の存在は次第に消えてゆく。二人の活躍が「言論の自由」を守ったのである。

 この映画の魅力はどこにあるのだろう。
言論とか、検閲とか、日ごろ使わない言葉に現実感を持たせる。それを死守するために図書隊員たちは命をかける。一冊の本を守ろうとする。それが民主主義の根幹であることを教えてくれる。あの戦争の時代にあった「検閲」がどれだけの命を奪うことになったのか。現代史を学ぶアニメでもある。有川浩さんはラブストーリーが上手い。愛することと、守ることの大切さを重ね合わせるから不思議な物語になる。

 戦争中に図書館が果たした役割については議論がある。ドイツの図書館は権力に迎合して、反ナチスの作家や学者による著作を積極的に調べ、通報し、書籍を焼いた。その歴史を考えると、重い警告を発するアニメである。図書館員が武器を手に戦う。もちろん空想の世界だが、「本を守る」という心はわたしたちにも伝わってくる。勇気をもらう。

 監督は浜名孝行。声の出演は井上麻里奈(笠原郁)前野智昭(堂上篤)ら。原作の有川浩さんは『県庁おもてなし課』『フリーター、家を買う。』『ストーリー・セラー』『阪急電車』などで知られる女流人気作家。
 「図書館戦争」は中央図書館の地階に角川文庫でシリーズ第1〜6巻まで、薬学分館の2階にシリーズ第1巻『図書館戦争』がある。

                    

    <右>『別冊図書館戦争1』(角川文庫 . 図書館戦争シリーズ:5)【地階, 080||KA||16921, 2079288】
    <左>『図書館内乱』(角川文庫 . 図書館戦争シリーズ:2)【地階, 080||KA||16778, 2079195】