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第30話 恋の正しい方法は本にも設計図にも載っていない(2012年11月)

 またまた図書館司書の物語である。主人公は、しょこたんこと中川翔子さんが演じる野田泉。これまた恋に臆病な女性だ。司書はいつも恋に踏み出せない。まさに「予定調和」のストーリーだが、「しょこたん」は司書が良く似合う。合コンで米谷禰龍(ネル)という若者と出会う。親友に誘われて加わったものの泉は弾まない。俯いている。「辛いの」と、親友の袖を引く。「読みかけの本があって続きを読みたいのです」ともいう。友人は「いつでも読めるでしょう」と取り合わないが、泉は席を外す。ネルが近寄り、泉の仕事を当てようかと語りかける。「図書館の仕事」。びっくりする。逆に「俺の仕事は」と聞かれ、泉は重い口を開く。「建築家」。驚くネル。ここで早くもタイトルの意味とあらすじが分かる。司書は「本」、建築家は「設計図」。二人の恋が始まるに違いないと。
 泉が働いている図書館。東京・上野公園にある「国際子ども図書館」で撮影された。明治39年に帝国図書館として建てられ、安藤忠雄さんの設計で再生した歴史ある建物だ。明治洋風建築の代表作といわれる風格をそのまま残している。一階の「子どものへや」で、泉が絵本を子供たちに読み聞かせている場面がある。円形の大きな書架。そのなかにやはり円形のテーブル。空間は柔らかで温かい。
 ネルがやってくる。建築関係の本を借りるためにカウンターで、泉と目を合わせる。「俺、本当に建築家でまだ二級。初対面で俺の職業を当てたのは泉ちゃんが初めて」。良くしゃべる。それも軽い。毎日のように、図書館に現れて、つきまとう。泉の決めセリフ。「本のことなら聞いてください」「それ以外のおしゃべりは禁止」。ネルは、めげない。
 ある日勤務を終えた泉のそばに車が近寄る。ネルだ。「世界最高の図書館に行こう」と声をかける。長いドライブ。ネルは「図書館をつくるのが夢」と熱い。図書館、図書館。その言葉に心が緩んでくる。着いたのは山の中。なにもない。森を抜ける風と水の音、杉木立。たたずむとあたりは書架にかわり、木々が本になってゆく。夕暮の一瞬、魔法の時間が始まる。泉とネル、目をつむると手に本。ふたりはその本のページをめくってゆく。「本の中にいると安心するのです」と思う泉には、かけがえのない時間になってゆく。ネルは勉強のためにスペインに留学するという。ガウディに魅かれている。一緒に来てくれれば楽しいだろうな、とネル。泉に初めて恋の予感がする。
 ケータイ音楽ドラマ「DOR@MO」(ドラモ)として制作され、ファンからのリクエストで劇場公開された映像だから、時間も1時間7分と短く、展開は早い。二時間を超える映画を見慣れていると、こんなに早く物語が進んでいいのかと心配になる。
 予想通り急展開する。ネルが泉に近づいたのは彼の友人との賭けからだったと親友が知る。彼女は泉の心をふみにじったネルに話す。泉が大好きだった男が会うためにやってくる途中、事故で死んだ。それ以来、恋を避けてきた泉がようやく人を愛するようになれたのに、と号泣しながら語り、泉にも告げる。ネルを思いながらも心を閉ざそうとする泉。
 ネルはマンションを訪ねてくるがドアは開かない。「俺を嫌いになってもいい。けどあの森を嫌いにならないで」と叫んで姿を消す。ドアの外には二枚の絵。彼が作ろうとする図書館とそこでカウンターに立つ泉。まるで本の妖精だ。部屋に飾りながら、前に進もう。未来は楽しいかもわからない。そう決意する。成田空港。旅立つネルに近づいてゆく。「いい忘れたことがあるの。わたし、ネルのことが好きよ」。くちびるを合せる二人。流れる主題歌。しょこたんの初めてのキスシーンとして話題になったそうだ。
 最後のセリフ。「どんな本も人が書いた。その遺伝子を受け継ぎながら今度は私が物語を紡ぐ」。図書館の庭で、イヤホーンをしてスペイン語を学ぶ泉の姿が重なる。恋の成就は間違いない。
 シンプルな物語だが、本と図書館が繰り返し登場する。そこに寄せる思いが詰まっている。それだけあれば十分だ。

 

 2010年10月公開。中川翔子が歌う「千の言葉と二人の秘密」がモチーフ。相手役のネルは 鈴木裕樹、監督は「真夏のオリオン」の篠原哲雄。