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第54話 「MUKO BON!」(2015年6月)

 

 私たちの武庫川学院が誕生して75年になる。楽しくて読みやすい記念のムック本ができた。タイトルは学生たちが考えてくれた。『MUKO BON!』。武庫川の本、BONをフランス語にすれば「いいね、武庫女」となる。定価もちゃんとある。695円(税別)。「ISBN」も取得した。学生たちの手で作り上げた本を、本として認めてあげたかったからである。プロジェクトに加わったのは14人。文学部英語文化学科3年の角谷翔子さん(当時)は「今まで知らなかった、気づかなかった武庫女の魅力を知ることができました」と話し、文学部心理・社会福祉学科3年の本田優衣さん(当時)は「普段体験できない本の制作過程に携われ、自分から主体的に取り組むことができました」と語る。14人は図書館を支える学生スタッフ「SSLC」のメンバーでもある。全67ページのすべてに学生たちの提案が反映されている。

 学院を創ったのは公江喜市郎先生である。なぜ先生は女子教育の場を作ろうとしたのか。学生たちが先生の思いを伝えるために考えたのは漫画による一代記だった。学生総数は1万人を超えている。漫画の上手な学生もすぐに探せた。校祖の凛々しい少年時代を描いた。これなら親しみやすい歴史になる。

 学生たちのアイデアが次々と生まれた。「データ de 武庫女」にはこんな新発見が。中央キャンパスで年間に消費されるトイレットペーパーは7万2,607ロール、上甲子園、浜甲子園キャンパスを合わせると9万968ロール、全長にすれば8,187km。東京からスウェーデンに行ける距離に当たる。もちろん、こんなクイズみたいなデータだけで1冊の本ができるわけではない。

 武庫川高等女学校の1期生、書家の吉野喜美子さんら大先輩が戦争の時代を語ってくれた。学徒動員、食料不足、空襲。学生たちも、初めて知る戦争に息を飲んでメモを取り続けた。OGの中には、阪神・淡路大震災で亡くなった村田恵子さんもいる。卒業論文を書き上げた数時間後、自宅が倒壊、瓦礫に埋まった。遺された卒論を探し出した母、延子さんは「振り返ればあっという間の20年でした。街並みはきれいに整備されて、それがまた寂しい。私たちの心は風化することなく、すぐにあの日のあの時間に戻ってしまうのに」と話す。『MUKO BON!』には同窓生17万人の思いも詰まっている。

 キャンパスで発見した学生を捉えた「武庫女おしゃれスナップ」、名建築で知られる上甲子園キャンパスなどの「建物見聞録」、東京五輪を目指す「アスリートたちの全力投球」、美味しい、ヘルシーの「武庫女なグルメ」。目次を見ただけで、手に取ってみたくなる。そこには学生たちの眼差しがしっかりと息づいている。 

 もちろんプロの手も借りた。図書館の一角はワークショップの場になった。旧知の編集者、倉橋みどりさん、後輩の新聞記者である米田浩子さんたちが助けてくれた。学生たちは取材や原稿作成、イラスト、写真、デザインと本になるまでのプロセスを学んだ。図書館の役割。また一つ、教えてもらった。わたしたちが作った本が蔵書に加わった。

    

 

            
           『MUKO BON!』 (武庫川女子大学出版部)