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第68話 「LA LA LAND」(2017年3月)

 

 サウンドトラックを聴きながら書いている。ミュージカル映画「LA LA LAND」を2度見た。いい作品である。「観るもの全てが恋に落ちる」というコピーも気に入った。ラストが切ない。「良質の切なさ」なのである。結ばれることのなかった女優とジャズピアニスト。演技も歌も踊りも一級である。それぞれが心に沁みる。多くの映画評を読んでみた。ネットで感想も拾ってみた。でも、ここに視点を当てたものは見当たらない。このラブストーリーで図書館がどれだけの役割を果たしているのかという点である。

 女優志願のミア(エマ・ストーン)とピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)がハリウッドの撮影所を歩くシーンがある。セブが「なぜ女優に」と問う。ミアは答える。「通りの向うに小さな図書館がある家で育ったの」。ネバダ州のボルダーシティである。なんの変哲もない退屈な街。ミアはこの街から出なくてはと思いながら育った。あるとき女優である叔母が現れる。彼女は図書館から古い映画を借りてきた。「2人で一日中観たわ。『赤ちゃん教育』『汚名』『カサブランカ』。世界があんなにも広いのだって初めて知ったの」。

 映画の前半に出てくるミアの部屋。壁にイングリッド・バーグマンの大きな写真が貼られているのは、少女時代の思いがあったからだ。20世紀を代表する美人女優、バーグマン。「カサブランカ」「汚名」のヒロインである。古きものへの憧れ。ミアは女優になることを夢見る。家の前に図書館がなければ、決して夢は生まれなかった。

 ミアは撮影所にあるカフェで働き、オーディションを受け続けるが壁は高く厚い。一言語っただけで「もう結構」と言われることもある。ジェームス・ディーンの「理由なき反抗」が上映されている映画館で、グリフィス天文台で過ごす2人。プラネタリウムが描く夜空にともに上ってゆくシーンが美しい。2人の愛は深まってゆくが、それぞれには夢がある。セブはジャズクラブを経営しなくてはならない。暮らしもある。本意ではなくバンドのキーボード奏者となってデビューする。ツアーが始まる。ミアは自らが書いた脚本で一人芝居に挑戦する。ミアの舞台の日、セブには撮影が入って劇場に行けなくなる。ようやく駆け付け、ミアと出会う。観客は数えるほど、「下手な女優」という声が聞こえてくる。失意のどん底のミア。事情を知らないセブの慰めがかえって空しい。夢を追いかければ、それだけ2人の心はすれ違ってゆく。ミアは故郷に帰ってしまう。

 セブの元に電話が入った。配役プロデュ―サーからだ。ミアの一人芝居を見た僅かな客の1人だった。オーディションに参加してほしいという。

 知らせなくてはならない。セブは車で約4時間、ボルダーシティの彼女の実家の前に着く。いつもデートに迎えに行ったときのサインであるクラクションを鳴らす。驚いて飛び出してくるミア。彼女は夢を断ち切ろうとしている。大学で学び直すという。「オーディションは5時半から。明日朝、8時に迎えにくる」と言い残してセブは去ろうとする。この言葉が出る。

 「なぜわたしの家がわかったの」
 「小さな図書館の前にある家だと言っていたからだよ」

 小さな図書館。ミアが女優を夢見るきっかけになったのはその図書館なのだ。セブは憶えてくれていたのだ。図書館が最後かもわからないチャンスを引き寄せてくれたのだ。そう、やはり夢を諦めるわけにはいかない。次の日の朝、迎えに来たセブの車でロスに戻る。

 「自由に語ってください」。オーディションでそう言われたミアは、涙を溢れさせながら、その叔母の人生を語り、歌うのだった。

 どうか乾杯を 夢追い人に たとえ愚かに見えても
 どうか乾杯を 心の痛みに
 どうか乾杯を 厄介な私たちに

 5年後、ミアは女優になっている。夫と幼い娘がいる。ある夜、夫と出かけたがフリーウェイは大渋滞、途中で降りて食事を採ることになる。街にはミアが主演する映画のポスターが貼られている。夫はジャズが好きだというミアのためにジャズバーに。入口に立ったミアが驚愕する。その店の名は「セブズ」。2人が愛し合っていたときにミアが決めた名前だ。そして、薄暗い照明の中、気付き、見つめ合う。テーマが流れる。映像は2人の思いが交錯するシーンになる。そこではセブとミア、結婚して男の子もいる。幸せな家庭が描かれる。お互いに夢は叶えたのだ。現実に戻る。夫とともに店を出ようとするミア。振り返る。再び目を合わせ、かすかに微笑む。言葉はないが、「愛」は確かめた。

 [文中のセリフや歌詞は映画『LA LA LAND』(ギャガ/ポニーキャニオン配給、2016年)より引用]

 映画では一瞬、図書館のプレートが浮かぶ。「デル・プラド図書館」とあるが、架空の図書館だという。でも地元紙によると、実在の図書館では、スタッフが「LA LA LAND」のTシャツを作って喜んでいるという。
 監督は衝撃的でもあった映画「セッション」のデイミアン・チャゼル。作曲は「セッション」と同じ、ジャスティン・ハーウィッツ。2017年度アカデミー賞では主演女優賞(エマ・ストーン)、監督賞、作曲賞など最多6部門賞を受賞した。
 「LA LA LAND」はロサンゼルス、主にハリウッド地域の愛称。「陶酔し、ハイになる状態や夢の国」をも意味する。

           
              (映画「LA LA LAND」公式ホームページより)
                     http://gaga.ne.jp/lalaland/