阪神鳴尾駅
 
1. コンセプト
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■武庫川女子大学 建築学専攻「建築設計実務」
武庫川女子大学建築学専攻の大学院修士1年、2年の授業「建築設計実務」(週5回、10単位)では、武庫川女子大学建築・都市デザインスタジオ(一級建築士事務所)を拠点として、学内外の実際のプロジェクトに参画し、新築・改築・保存・修復などの実務訓練を行っている。今回は詳細図やCG パース、模型を作成し、コストや施工方法にも配慮したディテールを検討し、外観やホーム、コンコースなどのデザインを提案した。打合せでは、作成した図面や模型を用いて学生自らがプレゼンテーションを行っている。
 
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鉄道会社との打ち合わせに参加
 
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1/10模型による施工方法の説明
 
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1/30模型による外観デザインの説明
 
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1/10模型による照明計画の検討
 
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プランクシートの表面温度測定
 
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原寸図によるスケール感の確認
 
■記号的空間 
駅舎の空間が基本的に備えるべき特質はその記号性である。記号性とは、信号機の赤や青のように、それを見たら、無意識のうちに行動するという、物と人間の関係のことである。すなわち電車を降りて、階段を見れば、無意識のままそこに進み、さらに改札口を見れば、そちらに進み、正しい出口に至ることができる特性である。階段や改札口、エスカレーター、エレベーター、標識などは駅舎の中で、信号機の赤や青のように、乗降客に対して記号としての役割を果たす。それらは他の空間に邪魔されることなく、くっきりと浮かび上がって見える必要がある。そのためには周辺の空間が眼に入らないようにすべきである。屋根を支える梁や小梁、照明や通信のための配管、広告などが記号的空間の邪魔にならないことが大切である。わが国の既存の駅舎では、これらの非記号的空間であるべきものが、まったく規制されないまま、大切な記号的空間の周辺に充満し、大変複雑な視界を形成していることが多い。
 
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下りプラットフォームより西をのぞむ
 
■プランクシートによる単純、均質な空間の構成
厚さ2.7o、波成100oの波型の鋼板であるプランクシートを、半径3mから徐々に長い半径の曲率へ変化させながら曲面加工する。これをホームの線路側の屋根面と、線路とは反対側のホーム床面の2点で支持する。この場合にこの曲面は、下地材や仕上げ材が一切不要である。壁と屋根面が一体となった曲面による空間の中に、上り、下りそれぞれのホーム階を包み込む。この空間は記号性の必要な階段などを浮び上らせるために不可欠な単純で均質な空間であり、同時に、先端技術の象徴でもある、高速走行する電車に良く調和した、流動的でダイナミックな駅舎空間ができあがる。またこの曲面はそのどこにでも標識などを吊り下げるのに十分な強度がある。
 
プランクシート
プランクシート
 
■大学のある理性的な駅舎空間
大学は研究や教育、文化を象徴する。そのための空間は、遊興的な劇場や音楽ホールのようなバロック的、感情的な空間ではなく、もっと理性的で古典的な空間である。武庫川女子大学のある駅に相応しい落ち着いた雰囲気が大切である。
 
■地域の歴史的伝統的景観をイメージできるデザイン

鳴尾は古来多くの和歌に登場する名勝の地であった。今その面影は全くないが。

西行法師「新拾遺和歌集」秋の始め鳴尾といふ所にてよめる
常よりも秋になる尾の松風は分きて身にしむ物にぞありける

隆西法師「夫木和歌抄」
浦さびて哀れなるをの泊かな松風をえて千鳥鳴くなり

大江貞重「續千載和歌集」
やゝ寒きなるをの里の秋風に波かけ衣うたぬ日もなし

慈鎮「拾玉集」
我身こそ鳴尾にたてる一つ松よくもあしくも又たぐひなし

權大納言実家「千載和歌集」
けふこそは都のかたの山のはもみえずなるをの沖に出でぬれ

源家長「續古今和歌集」
生駒山よそになるをの沖に出でゝ目にもかゝらぬ嶺のあま雲

真意法師「新後撰和歌集」
逢ふことはよそになるをの沖津波うきてみるめのよるべだになし

また広く知られた謡曲「高砂」では
高砂や この浦舟に 帆を上げて
この浦舟に帆を上げて
月もろともに 出汐の
波の淡路の島影や 遠く鳴尾の沖過ぎて
はやすみのえに 着きにけり
はやすみのえに 着きにけり

四海波静かにて 国も治まる時つ風
枝を鳴らさぬ 御代なれや
逢ひに相生の松こそ めでたかりけれ
げにや仰ぎても ことも愚かや
かかる世に住める 民とて豊かになる
君の恵みぞ ありがたき
君の恵みぞ ありがたき

 
ここでは白い浜辺に立つ松並木を吹き抜ける松風、沖を行き交う船の帆が眼に浮かぶ。駅舎のホームを覆う丸い曲面は、風を一杯はらんだ船のイメージである。
 
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南東より見る
 
阪神鳴尾駅

武庫川女子大学附属図書館所蔵  『摂津名所図会』 尼崎より須磨浦まで遊覧の風景

阪神電気鉄道株式会社

武庫川女子大学 建築・都市デザインスタジオ 一級建築士事務所

 岡ア 甚幸: 武庫川女子大学建築学科長,教授,京都大学名誉教授

 川口 衞: 法政大学名誉教授,(株)川口衞構造設計事務所 主宰

 武庫川女子大学建築学科
  杉浦 徳利
  猪股 圭佑
  森本 順子
  山口 彩

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