健康食品

01 はじめに

0022 毎日,健康的な生活を送れることは,本当に幸せなことです。ただ,いつまでも若くはありませんので,年齢を重ねるたびに体のどこかに不具合が出てきます。そんなとき,頼れるのはお医者さんであり,お薬なのですが,当然のことながら自分自身でなんとかならないのかと考えてしまいます。そこで,ついつい頼ってしまうのが,入手が簡単な「いわゆる健康食品」ではないでしょうか。

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 2015年度の健康食品の市場規模を見てみますと,なんと1兆5000億円。そのうち,安全性や有効性が証明されて,厚生労働大臣に許可された特定保健用食品(トクホ)が6300億円,安全性や有効性がよくわからない「いわゆる健康食品」が9300億円です。

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 まあ,「薬よりも健康食品でなんとか」という選択肢もわからないでもないですが,少なくとも「安全性」がはっきりしているものが良いと思いますけどね。

 ただ,ドラッグストアに行って,いざ安全で,有効な健康食品を購入しようと思っても,あまりにもたくさんの商品があって,どれが良いのか見極めが本当に難しいですよね。

 というわけで,健康食品について勉強することにしましょう。


02 健康食品の分類

 近年の健康志向の高まりに伴い,スーパーマーケット,コンビニエンスストア,薬局などには健康や美容を謳った健康食品が数多く並ぶようになりました。そして,その手軽さからか,健康食品やサプリメントと呼ばれる食品を利用している人は多いのですが,いざ購入するとなるとその選択基準はひじょうに難しいものです。錠剤のものもあればドリンク剤もあり,健康茶もあれば食品もあります。表示をみると,「健康食品」,「健康補助食品」,「機能性表示食品」,「栄養機能食品」,「特定保健用食品」など様々です。

 それでは,どのような基準で商品を選んだらよいのでしょうか。今回は,このような健康食品の種類,安全性,問題点,つきあい方について考えてみましょう。


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 「健康食品」と呼ばれる食品には,国が制度化している「特定保健用食品」,「栄養機能食品」,「機能性表示食品」などの「保健機能食品」があり,それぞれ安全性や有効性が科学的に検証され,機能性を表示することができます。一方,表示の許可,認証あるいは届出などの規制のない「いわゆる健康食品」も流通していますが,こちらは有効性や安全性を科学的に検証する必要はないため,「効くのか効かないのか,安全なのかそうでないのか」判断することができないものも数多くあります。

 安全で,一定の効果を期待して使用するのでしたら,「特定保健用食品」,「栄養機能食品」,「機能性表示食品」などの「保健機能食品」を選ぶ必要があります。


03 特定保健用食品

 特定保健用食品は,身体の生理学的機能や生物学的活動に関与する特定の保健機能を有する成分を摂取することにより,健康の維持増進に役立ち,特定の保健の用途に用いることを目的とした食品です。簡単にいえば,体調を整える働きをもった成分を含んだ食品ですが,その食品の有効性と安全性は医学・栄養学的に証明され,消費者庁長官によって保健の用途や効果の表示が許可された食品です。当初は食品形態のもののみ許可されていましたが,錠剤やカプセルなど医薬品的な形状のものも許可されるようになりました。

  特定保健用食品の成分と機能としては,オリゴ糖,乳酸菌,食物繊維などを含む「おなかの調子を整える食品」,大豆タンパク質などを含む「コレステロールが高めの方の食品」,ペプチドなどを含む「血圧高めの方の食品」,グァバ茶ポリフェノールなどを含む「血糖値が気になり始めた方の食品」などがあります。

 特定保健用食品としてその機能を表示するためには,申請された食品ごとに科学的な根拠となる様々な試験を行い,消費者庁(2009年8月までは厚生労働省)に申請しなければなりません。また,2005年には新たに「条件付き特定保健用食品」,「特定保健用食品(規格基準型)」,「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)」の3つの表示が認められるようになりました。

 申請に必要な主な資料は,食品および関与成分について,「保健の用途および1日当たりの摂取量の目安等を医学・栄養学的に明らかにする資料」,「安全性に関する資料」,「安定性に関する資料」,関与成分の「物理・化学・生物学的性状およびその試験方法に関する資料」,「品質管理方法に関する資料」などです。特に,「保健の用途および1日当たりの摂取量の目安等を医学・栄養学的に明らかにする資料」,「安全性に関する資料」については,in vitro(試験管内での試験),実験動物を用いた試験およびヒトを対象とした試験などの資料が必要となります。特定保健用食品の場合,医薬品に比べ効果が穏やかなことから,ヒトを対象とした試験では大きな効果が得にくく,申請メーカーからは「トクホの許可をとるのは医薬品より難しい」といわれていますが,効果や安全性に何の保証もない健康食品と区別する上では消費者にとって有用な制度であるといえます。

 特定保健用食品が表示しなければならない内容としては,特定の保健用途の表示,1日当たりの摂取目安量,摂取方法,摂取する上での注意事項などであり,消費者にとってはいわゆる健康食品より的確に利点が判断できるものとなっています。


04 栄養機能食品

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 栄養機能食品は,身体の健全な成長,発達,健康の維持に必要な栄養成分の補給・補完を目的とする食品であり,適用される栄養成分はビタミン12種類(ビタミンA,D,E,B1,B2,B6,B12,C,ナイアシン,葉酸,ビオチン,パントテン酸),ミネラル5種類(カルシウム,鉄,銅,亜鉛,マグネシウム)です。かつてはビタミン類やミネラル類の錠剤やカプセルはすべて医薬品であり,薬事法により規制されていましたが,政府の規制緩和推進計画および市場開放問題苦情処理推進会議の決定に伴い,医薬品の範囲の見直しが行われ,これらの成分は食品として流通が認められるようになりました。特定保健用食品のように個々の食品ごとに消費者庁の審査や届出を必要とせず,対象となる栄養成分が規格基準を満たしていればメーカーが自由に表示できます。規格基準とは,対象となる栄養成分の含量が規格基準の下限値と上限値の範囲内にあること,その栄養成分の機能の表示およびその栄養成分を摂取する上での注意事項を適切に表示することなどをいいます。たとえば,ビタミンCの場合は,「ビタミンCは,皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに,抗酸化作用を持つ栄養素です」という機能表示が認められています。さらに,「本品は,多量摂取により疾病が治癒したり,より健康が増進するものではありません。一日の摂取目安量を守ってください」や「本品は特定保健用食品とは異なり,消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」などの注意喚起表示が必要です。


05 機能性表示食品

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 事業者の責任において,機能性を表示することのできる食品です。国の審査はありませんが,安全性,機能性,管理体制および情報収集体制を確保し,それらの資料を消費者庁長官に届け出る必要があります。



06 いわゆる健康食品

 「いわゆる健康食品」とは,「特定保健用食品」,「栄養機能食品」,「機能性表示食品」のように安全性や有効性を科学的に確認されたものではなく,「食品」の範疇で「食経験」を安全性の根拠として販売されているものです。当然のことですが,「食品」ですから効果・効能を表示することができません。しかし,ネット上では「関節に効く」とか「ガンの増殖を抑える」などと堂々と書かれています。

 それでは,この「いわゆる健康食品」は本当に効くのでしょうか?

 残念ながら,「いわゆる健康食品」の安全性や有効性の科学的根拠となる情報を調べてみても,なかなか「科学的根拠」と言えるものが見当たりません。薬剤師の私としましては,「いわゆる健康食品」はあまりオススメしませんが,どうしても利用してみたいという場合には,少なくとも安全性の情報を収集してからにして下さい。アレルギーなどさまざまな健康被害が報告されていますので,くれぐれもご注意を!

 健康食品素材の安全性や有効性に関する情報については,国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報というホームページに詳しく書かれていますので,購入前にぜひ参考にして下さい。

 ただ,安全性や有効性に関する情報はちょっと難しくて・・・という場合には,次のことをチェックしてみて下さい。

 まず,「いわゆる健康食品」を販売している店舗ですが,マンションやアパートの1階などに突然開店したようなお店は注意が必要です。売るだけ売って,突然どこかに移動してしまうことがあり,クレームを言おうにも言っていくところが無いということにもなりかねません。また,「お土産つき」や「天然素材だから」というような宣伝文句には気をつけましょう。

 次に,「いわゆる健康食品」のパッケージを見てみましょう。有効成分名や成分の含有量は記載されていますか?「〇〇抽出物」とか「△△エキス」は,有効成分ではなく,ただ単に原料から抽出したものということですから,気をつけましょう。例えば,「〇〇抽出物100mg」と書かれていても,有効成分が100mg含まれているわけではありません。有効成分とは,「難消化性デキストリン」や「グルコサミン」といったような物質名のことです。

 さらに,製造者や問い合わせ先を確認しましょう。製造者は,しっかりした会社ですか?工場や研究所を持っている会社であれば,一晩のうちにどこかに消えてしまうことも無いでしょうから安心です。

 最後に,「いわゆる健康食品」の使い方です。

 「いわゆる健康食品」は,医薬品ではありませんので,病気を治すことはありません。病気が治ると信じて利用したばっかりに,病気が悪化したり,命を落としたりした例もありますので,くれぐれもご注意下さい。


07 「コラーゲン」って効くの?

 ドラッグストアを覗くと,コラーゲンの美容・健康効果を謳った健康食品が数多く並べられています。インターネットで「コラーゲン」を検索してみると,「肌のハリや弾力の維持」に役立つと宣伝されていますが,本当に美肌効果はあるのでしょうか?

1. コラーゲンとは?

 そもそも「コラーゲン」というのは,私たちもカラダを構成するタンパク質の一つで,主に皮膚や骨,軟骨などに分布しています。今まで特に意識してコラーゲンを食べたわけではありませんが,私たちの皮膚などに存在しているタンパク質なのです。

2. コラーゲンを食べると・・・

 「加齢によりコラーゲンが減ってくる」というので,コラーゲンを健康食品で摂取するように宣伝されていますが,「コラーゲン」を食べたからといって私たちのカラダの中でコラーゲンになるのでしょうか?

 コラーゲンはタンパク質ですから,牛肉などと同じようにカラダの中で消化され,アミノ酸や小さなペプチドになってから吸収されます。そして,吸収されたアミノ酸は,筋肉や腸管,肝臓などさまざまな臓器の構成タンパク質の材料になります。コラーゲン由来のアミノ酸が必ずカラダの中でコラーゲンになるかというと,その保証はありません。

 逆にいうと,普通にお肉や大豆などのタンパク質を食べれば,コラーゲンの材料にもなるということです。

3. タンパク源としてのコラーゲン

 「コラーゲン」もタンパク質なら,牛肉や大豆の代わりにコラーゲンを食べても良いのではと考える方もいらっしゃるかも知れません(実際に,講演会でコラーゲン大好き婆さんがいらっしゃいました)。でも,これはあまりオススメできません。

 タンパク質を構成するアミノ酸には,「必須アミノ酸」と「非必須アミノ酸」があり,「必須アミノ酸」は私たちのカラダの中では十分な量を合成できないため,食品から摂取しなければならないアミノ酸です。

 私たちの血液中のアミノ酸をコラーゲンや牛肉のタンパク質のアミノ酸を比べてみると,牛肉には必須アミノ酸が豊富に含まれていて,ヒトの血液中のアミノ酸バランスに近いのがわかります。一方,コラーゲンは「非必須アミノ酸」は豊富に含まれていますが,「必須アミノ酸」は少なく,トリプトファンは全く含まれていません。

 「美容と健康」を考えるのであれば,バランスの良い食生活を心がけることが大切です。

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