クリュニー美術館

99年8月作成、03年1月一部改訂
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クリュニー美術館入口。サンジェルマン大通りの反対側(南側)にある。 入口を入って右手を見たところ。中庭の向こう正面の扉から入場する。
 この美術館は、ローマ時代の共同浴場の跡に中世に建てられたクリュニー修道院長の別邸を利用したもので、中世の様々な美術工芸品を展示している。タピスリも世界で最も充実した中世の作品(15・16世紀)を所蔵している。中でも有名なのが「貴婦人と一角獣 Dame a la licorne」の6枚のタピスリ(15世紀)である。うち5枚は「一角獣の角に触れる貴婦人」で触覚を、「花冠を作る貴婦人」で嗅覚を、「杯を差し出された貴婦人」で味覚を、「オルガンをひく貴婦人」で聴覚を、「貴婦人の持つ鏡に姿を写す一角獣」で視覚を、と人間の五感を表現したものとされている。そして、「我がたったひとつの望みA mon seul desir」という文字が図柄の中の天幕に縫い込まれた残りの1枚については、様々な感覚の喜びを手に入れようとしている、という説もあったが、それはくつがえされ、こうした喜びをすべて放棄する、というのが我がたったひとつの望み、の意味であるということになっている。実際、貴婦人は首飾りをはずして、それを宝石箱に納めようとしている。この美術館の最高の宝として、少し暗めのグレーの壁の部屋の回りを取り囲んで飾られた6枚のタピスリは、幻想的な図柄で、眺めていて楽しい。ちなみに一角獣とは、フランス語では、licorne、英語名ではユニコーンunicornで、中世ヨーロッパの伝説にしばしば登場する想像上の動物。通常、馬の体にねじれた1本の角(つの)をもち、色は白く、ときには頭部のみ赤く、青い目をもつといわれる。その性は勇猛でアレクサンドロス大王に比せられ、一角獣が飲んだ水は無毒となり、その角は最上の解毒剤と信じられた。角をとるために狩りが行われてもしばしば失敗するか、美しい処女の膝に枕しておとなしくなるため、一角獣を「ゲット」するにはこの手段がとられた。
人間の五感を表現した貴婦人と一角獣のタピスリ 「我がたったひとつの望み」という文字の縫い込まれた連作の6枚目
 このタピスリの作者や制作場所は不明である。フランスのちょうど中央部に位置するブサック村で、19世紀前半に発見された。持ち主は、三日月の紋章から、国王の顧問であった、ジャン・ル・ヴィストで、彼からその親類であったブサックの領主に渡ったと考えられている。ショパンとの交際でも有名な女流作家、ジョルジュサンドが自分の著作に書き著した(1844)ことで、有名になった。1882年にクリュニー美術館に所蔵されるに至った。なお、この連作が、何を表現しているかについて、見出された当初は、フランスで亡命生活を送っていたトルコの王子が、ある女性に求婚の贈り物とした、という説もあったが、1920年代に、上述したような、五感を表すという説が定説となった。

 このほか同種の作品として、「領主の生活」(刺繍、読書、散歩、狩への出発、入浴、求愛の場面の6枚)という魅力的なものもある。これは、入場してすぐの部屋に飾ってある。これらの作品は、ミル・フルール(mille-fleurs千花模様)のタピスリの代表作として有名である。ミル・フルールとは、1面に小花や小動物を散らしたもので、神秘的な中に華やぎを感じさせる。この種のタピスリはフランドル地方(現在のベルギー)で織られたものと考えられている。

 クリュニー美術館を出たら、すぐ目の前に建つソルボンヌ大学の中を通ってパンテオンPantheonまで行ってみよう。キョロキョロせずにさも学生eudiant(e)(教師enseignant)であるかの態度で入っていけば、守衛さんは何も言わない。クリュニー美術館の前に見えるルー・デ・ゼコールrue des Ecolesに面した建物から入ってもいいし、左側のサンジャック通りrue St Jacques を登っていって、どこかの入口から入ってもいいし、西側の細い通りrue Victor Cousinを登っていって、ソルボンヌ広場Place de la Sorbonneの通用門から入ってもいい。そこからは、パスツールPasteurとユゴーHugoの像のある中庭へ出ることができる。度胸があれば、建物の中を巡るのもいいかもしれない。教室や講堂で行われている授業が小窓からチラッと見える。しつこく覗いたり、中へ入ったりしない方がいいのは言うまでもない。1253年に神学を志す学生の寮として始まったソルボンヌは、現在では、パリにある第1から第13までのパリ大学の1つであるパリ第4大学Universite Paris IVの通称となっている。以前は、ピエール・キュリーやその死後を継いだマリー・キュリー(キュリー夫人)が教授をつとめていたことからもわかるように、理学部も含まれていたが、現在の第4大学は、文系のみである。
ルー・デ・セコールから見たソルボンヌ クリュニー美術館の前から見たソルボンヌ サンジャック通りとソルボンヌ
ソルボンヌの校舎の中に入ってみる
ソルボンヌ広場から見た大学内の教会 大学内の中庭から見た教会
 ソルボンヌを抜けたら、パリの左岸で最も高いジュヌヴィエーブの丘の頂上にそびえるパンテオンまで行ってみよう。ここは偉人の眠る霊廟である。テラスに登ることもできる。正面の入口を入ると中は広々としていて、パリの守護神であるジュヌヴィエーブの生涯の物語の壁画などがある。ドームは高さ83mあるが、1851年にフランスの物理学者のフーコーは、ここに67mの振り子をつるし、振り子の振動面が地球の自転のために時間とともに徐々に動いていくという実験をした。フーコーの振り子である。
 地下のクリプトCrypteには、偉人たちの遺骸がまつられている。ヴォルテール、ゾラ、ユゴー、ルソーといった作家や政治家などである。女性としては、1995年に、キュリー夫人が初めてまつられた。ポーランドからやってきて、夫のピエール・キュリーとともに放射性元素を発見してノーベル物理学賞を受賞、さらに、ノーベル化学賞も受けた偉人である。夫婦一緒にまつられている。
パンテオンの正面 パンテオンの内部 パンテオンの地下。埋葬されているキュリー夫人の説明。

 パンテオンの北東側には、ジュヌヴィエーブをまつったサンテチエンヌ・デュ・モン教会St etienne du Montがある。有名なファサードを見て中へ入ってみよう。内部は柔らかそうな多孔質の白っぽい石からできており、内陣の仕切は見事である。美しいらせん階段で登るようになっているジュペと呼ばれるこの部分から、福音書の朗読が行われると言う。パスカルPascalやラシーヌRacineが埋葬されている明るくさわやかなこの教会の中に座って、ひとときの心のやすらぎを求めて、しばし静寂の時を過ごしてみてはいかがであろうか。
サンテチエンヌ・デュ・モン教会の正面(ファサード)と内部

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