「書類収納棚」
北村薫子
研究室の引っ越しのたびに,あきれるほどの紙文書が溜まっていることに気が付く。
10年ほどいた部屋は,見た目に比較的すっきりしていたつもりであったが,いざ引っ越し準備を始めると,見えないところから紙文書が次々に現れた。当時「いつか要るだろうから」と思った紙が,その後一度も開かれることなく季節を重ね,変色しながら眠っていたのである。
2年前に3度目の引っ越しをした際に大量のモノを処分してシンプルにし,1か月前に再び研究室内の配置変更をして,またひたすら処分した。今度は紙文書でなく,収納棚そのものである。
留学していたフランスには,建物内にゴミ箱がなかった。研究室にも,家にも。置いてあるのは,リサイクルボックス。捨てることでモノを減らしていた私は,考え方の根本を問われたようであった。長い歴史のある研究所でありながら長く残っているモノは少なく,ずっと大切に保管されているのは,たくさんの手書きの実験ノートと,完成した論文(これはPDF)と,手書きのクリスマスカード。
大切な何を残すのか,書類収納棚がなくても成り立つのではないかと挑戦中の1か月である。
フランス南東部フィルミニにある文化会館。建築家ル・コルビュジェが設計に用いた色票。