甲子園会館(旧甲子園ホテル)は日本に残る数少ないライト式の建築であり、国の近代化産業遺産および登録有形文化財に登録されています。
帝国ホテルの常務取締役でホテル界の第一人者といわれた林愛作(1873~1951)の理想にもとづき、フランク・ロイド・ライト(米・1867~1959)の愛弟子・遠藤新(1889~1951)が設計しました。
中央に玄関・フロント・メインロビーを置き、左右に大きくメインダイニングとバンケットルームを張り出し、その両翼の上階に、集約された客室群を階段状に配した構成となっています。
「打出の小槌」を主題にしたオーナメントや緑釉瓦、西ホールの天井に見られる市松格子など、日本の伝統美が随所に取り入れられ、壮麗な洋風建築の空間と巧みに調和しています。
六甲の山並みを背景に、甲子園会館は名橋・武庫大橋と協和しながら、ひとつのランドスケープを形成しています。緑釉瓦の屋根をもつ建築は、武庫川の松林に溶け込んで「風景」となり、南に広がる池泉式庭園と見事な調和を見せています。
北から見た甲子園会館の正面玄関。
北西から見た客室棟と正面玄関。
南に開かれた庭園を縫うようにはしる小径。
春爛漫の池泉式庭園と調和する甲子園会館。
変化に富んだ空間の連動性は、有機的建築を標榜したライトゆずりの建築手法です。バンケットルームの華麗にしてエギゾチックな空間や、池泉式庭園に面したメインロビーの重厚かつ寛いだ空間など、個性のある多彩な空間で構成されています。
東西2つのホールをつなぐ1階廊下。
シェル型照明と壁面装飾の美しい東ホール。
パブリックスペースの1階ロビー。
<打出の小槌>文様の噴水がある小階段。
ディテールの豊かさは、甲子園会館の大きな魅力です。日華石やタイルなどの趣ある素材によるレリーフ表現は、実に千変万化。ライト的な幾何学文様から、打出の小槌や市松格子などの日本的意匠まで、ディテールだけ見ていても飽きることがありません。
宝珠のような棟飾りと緑釉の屋根瓦。
<打出の小槌>の日華石レリーフ。
1階ロビー南側の庇を支える波模様の列柱。
バーに使われた空間のモザイク床タイル。