秋季シンポジウム

第32回秋季シンポジウム『「家」をめぐる思考と実践』を開催いたしました

2022/12/10

コロナ禍で多くの人々が経験したステイ・ホーム。それは、戸惑いやストレスを引き起こしただけなく、そもそも「家」とは私たちにとってどのような場所なのか、そこでいかにしてよりよく暮らすことができるのかという普遍的な問いに、あらためて向き合うきっかけにもなりました。空間と身体、家具をはじめとするインテリアの設え、道具の使用や手入れ、周辺環境とのつながり——「家」とは、こうしたさまざまな要素を含み込みながら、私たちの日常を支える場、すなわち重層的な生のトポスといえるでしょう。本シンポジウムでは、美学や建築論を中心とする学術的な立場と、住宅設計や生活者によるDIY的な家づくりに取り組む実践的な立場の両面から、パンデミック以後もつづいてゆく「家」とのつき合い方について考えました。

 第32回秋季シンポジウム 「家」をめぐる思考と実践 

日時:2022年12月10日(土)13:30〜17:30(13:00入室開始)

形式:オンライン会議システムzoomによるウェビナー

聴講無料

 

ゲスト講師

一色 裕(日本大学文理学部哲学科非常勤講師、家具道具室内史学会運営編集委員)

東京大学大学院で美学を専攻。愛知産業大学造形学部准教授をへて現職。プラトンを中心とする古代哲学の研究と、工業製品の美学を専門とする。プラトンが考えた美と善の関係を、工業製品について具体的に考察することを目指しています

小泉 寛明(有限会社Lusie(ルーシー)代表)

「神戸R不動産」「KITANOMAD」「ファーマーズマーケット」「FARMSTAND」「マイクロファーマーズスクール」「ROKKONOMAD」などを運営。引っ越し歴40回以上、理想の家を探して引っ越しを繰り返してきました。

 

生活美学研究所メンバー

黒田 智子(本学生活環境学部教授)

京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、同大学院修士課程、神戸大学大学院自然科学研究科環境科学専攻博士課程などを経て、2000年スイス連邦工科大学建築理論研究所客員研究員、2010年現職。専門は近代の建築・都市論。

鎌田 誠史(本学生活環境学部准教授)

神戸芸術工科大学大学院博士課程修了。博士(芸術工学)、 一級建築士。 株式会社国建建築設計部、神戸芸術工科大学大学院助手、国立有明工業高等専門学校准教授を経て現職。専門は東アジアの伝統的集落における空間。

松山 聖央(生活美学研究所助手)

北海道大学大学院文学研究科修士課程修了。北海道立近代美術館学芸員を経て、2020年より現職。専門は近現代のドイツの美学思想、人工物や人工的な環境を主題とする環境美学

 

プログラム

13:30     開会挨拶:森田雅子(生活美学研究所長)

13:45     基調講演:一色裕「家具から考える住宅の問題 美学よりの提言」

家具から住宅を考えることにより、住空間について、使用から考えようとする試みである。芸術の制作と享受の豊かな関係を回復するために、家具が有効な拠点となること、しかしなぜこれまでこの点が顧みられなかったかについて、私見を述べます。次に、人による道具の使い方に注目する理由に触れた上で、西洋の基本家具の形態の中世以来の変化から分かる、近代化の帰結を確認します。そのうえで、日本人の住生活の近未来を考えるために、座法(と台所)に焦点を当てる予定です。

14:45     報告1:小泉寛明「私の家に求めるモノの変遷」

引越歴40回以上、理想の家を探して引っ越しを繰り返してきましたが、私自身、家に求めるモノが年々大きく変化していっています。過去に住んだ家、直近に住んでいた家、今住んでいる家、それぞれの特徴を探りながら、心地よい家探しをしてみたいと思います。社会の価値観の変化、地球環境の変化、自分の変化によって、理想の家の姿は今後どう変化していくのでしょうか?

15:10     報告2:黒田智子「水平と垂直の意味 フランク・ロイド・ライトの落水荘にみる家の風景」

世界で最も有名な近代住宅といわれるフランク・ロイド・ライトの落水荘(1936)は、滝を見るのではなく滝の上に建ち滝を感じる住空間で知られている。その着想は、浮世絵コレクターとしても著名であったライトが収集した北斎の版画と共に語られることが多い。一方、その6年前に完成した、愛弟子遠藤新による甲子園ホテル(1930)と比較すると、別の着想が見えてくる。このことを起点に人間の生活と切り離せない「水」の空間表現について考えてみたい。

15:35     報告3:鎌田誠史「「家」に「住む」を再考する」

現代における日本の住宅が、例えばコロナ禍において、感染者が出た場合に自宅で隔離することが果たしてできるのか、「働く場所」「遊ぶ場所」として機能するのか、コミュニケーションがオンラインに置き換わったらリアルな空間は今までと違ったものになっていくのだろうか。このような疑問を中心に「家」に「住む」ことをもう一度考えてみたいと思います。

16:00     報告4:松山聖央「所有と使用をこえて-中田家コレクションを手がかりに-」

武庫川女子大学附属ミュージアムに所蔵される中田家コレクション。これは、大正から平成までの時代、大阪に暮らしたひとりの女性・中田静さんの生活財をまとめて受け入れたユニークな資料群である。本報告では、この資料を通じて、家という私的な領域で繰り広げられるヒトとモノとの所有や使用をこえた関係性について美学的な視点でアプローチしてみたい。

 

16:40     全体討論

17:30     閉会

コーディネーター・総合司会:松山聖央(生活美学研究所助手)

 

助成:トヨタ財団2021年度研究助成プログラム(ヒトとモノの承認関係を手がかりとする「自宅」環境の包括的研究、代表:松山聖央、D21-R-0092)