食中毒

01 はじめに

 食中毒は,病原性微生物や自然毒,有害物質などに汚染された飲食物を摂取することにより,下痢や嘔吐などの胃腸炎症状,発熱,神経症状などの健康障害を引き起こす中毒の総称です。以前は,「食中毒は夏のもの」と認識されていましたが,近年では「夏は細菌性食中毒」「冬はウイルス性食中毒(ノロウイルス等)」の発生が見られ,年中食中毒の対策が必要になっています。

02 食中毒の分類

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 食中毒は,原因によって細菌性食中毒,ウイルス性食中毒,自然毒食中毒などに分類されますが,頻繁に発生しているのは「細菌性食中毒」や「ウイルス性食中毒」ですが、アニサキスなど寄生虫にも注意が必要です。

03 食中毒の発生状況

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 食中毒の発生状況を件数でみると,アニサキスによるものがもっと多く、次いでカンピロバクター、ノロウイルスの順になっています。

 アニサキスの幼虫は、さば、たら、さんま、イカなどに寄生しています。魚介類は、新鮮なものを購入し、目視で幼虫を除去しましょう。冷凍(−20℃で24時間以上)や加熱(60〜70℃で1分以上)をすれば安心です。

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 食中毒の発生状況を患者数でみると,例年はノロウイルス、カンピロバクターが1位、2位を占めますが、2020年は給食施設(2958名)や仕出し屋(2548名)で大規模な病原大腸菌による集団食中毒が発生したため、「その他の病原大腸菌」が1位になっています。


04 食中毒の原因物質

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【概要】 

 平成9年に新たに食中毒の原因物質に加えられました。電子顕微鏡で観察すると小さな球形をしていることから,小形球形ウイルスと呼ばれていましたが,2002年8月に国際ウイルス学会で「ノロウイルス」と命名されました。食品中では増殖できず,ヒトの腸内で増殖し,糞便として排出され,水を汚染し,食品を汚染して再びヒトに入るものと思われます。また,ヒトからヒトへの感染も報告されています。

【原因食品】 

 カキ,シジミ,アサリ,ムール貝,サザエなどの貝類が考えられます。カキには厳しい成分規格が設定されていますが,大腸菌数が基準以下の場合でもノロウイルスによる胃腸炎が発生しています。また,調理など 食品の取扱者を介したヒトからヒトへの感染もあります。

【中毒症状】 

 主な症状は,吐き気,下痢,腹痛です。頭痛,発熱などもみられることがあります。 

【予防方法】

 かきなどの貝類は,生食を避け,十分に加熱調理してから食べましょう。飲料水は煮沸してから飲むようにしましょう。調理の際にはマスクや手袋を着用しましょう。下痢や嘔吐など風邪に似た症状があらわれた場合には調理しないようにしましょう。包丁,まな板,ふきんなどは熱湯あるいは塩素系漂白剤で殺菌しましょう。二次感染の予防としては手洗いやうがいが有効です。



【特徴】ウシやブタの流産の原因菌として古くからよく知られていた菌ですが,わが国で食中毒菌として注目されるようになったのは1979年以降です。食中毒の原因となるのは主にカンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリの2菌種です。

【分布と性質】ウシ, ブタ,鶏,犬,猫などの家畜,家禽,ペットが保菌しています。らせん状のグラム陰性桿菌で,好気的条件下および嫌気的条件下ではほとんど増殖しませんが,3~15%程度の酸素濃度の存在下(微好気性条件下)で増殖します。

【原因食品】食肉(特に鶏肉),調理食品,魚介類,水などが原因食品となります。

【中毒症状】潜伏期は通常2~7日と長いのが特徴です。症状は,下痢,腹痛,発熱(37~40℃)などで,少量の菌の摂取で感染します。

【予防方法】熱に弱いので,食品は必ず加熱調理しましょう。また,25℃以下では増殖が抑制されますので,食品は冷蔵庫や冷凍庫で保存しましょう。飲料水には,必ず塩素殺菌あるいは煮沸殺菌したものを使いましょう。


【特徴】サルモネラ食中毒の原因菌としては,ネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)や腸炎菌(Salmonella Enteritidis:SE,ゲルトネル菌ともいう)などがよく知られています。わが国ではかつて肉類の生食や加熱不十分な肉類によるネズミチフス菌を原因菌とする食中毒が多発していましたが,1989年以降卵や鶏肉による腸炎菌(ゲルトネル菌)を原因とする食中毒が急増しています。

【分布と性質】サルモネラは,自然界に広く分布しており,哺乳動物,鳥類,は虫類,両生類など多くの動物の腸管内からも検出されます。熱に弱く,60℃,10~20分の加熱により死滅します。

【原因食品】卵や鶏肉およびその加工品などが原因食品となります。

【中毒症状】潜伏期は通常6~72時間で,平均15時間ぐらいです。発熱は,38~40℃に及ぶこともあり,腹痛,水様便の下痢が続きます。通常は1週間程度で回復します。

【予防方法】細菌性食中毒の予防3原則,(1)清潔,(2)温度管理,(3)迅速摂食によって防ぐことができます。この菌は,熱に弱いので食べる前に加熱すればサルモネラ食中毒は防げます。


05 食中毒事件発生!

腸管出血性大腸菌O111による集団食中毒

【はじめに】

 平成23年4月29日,ユッケを原因とする腸管出血性大腸菌O111による集団食中毒が発生いたしました。食中毒事件発生の経緯など詳細につきましては現在(5月7日)のところ十分に解明されていませんので,捜査の行方を待ちたいと思いますが,今回の食中毒の原因菌となった「腸管出血性大腸菌」について,情報提供をしておきたいと思います。


【O111ってなに?】

 O157は,堺市の学校給食による集団食中毒事件ですでにご存知だと思いますが,O111はあまり聞いたことがなかったと思います。O111もO157と同じく「腸管出血性大腸菌」の仲間で,O157ほどではありませんが食中毒の原因となっています。


【なぜこんな事件が起こったの?】

 原因は,いくつか考えられますが,食の安全に関する責任は,一義的には食品を提供する食品関連業者にありますから,ユッケを提供した店や食肉の卸業者の衛生管理に充分でない点があったことは明らかです。生食用の牛肉が全くと言っていいほど市場には出回っていませんが,食品関連業者は食肉のプロですから,それは十分にわかっていたことと思います。平成10年9月に当時の厚生省から通達が出ていますから,知らないでは通用しません。

 ただ,「ユッケ」はそれ以前より食べられてきたメニューであり,「食経験」から考えれば「今まで何も起こってないから大丈夫」という考え方もできるわけです。また,当時の厚生省も生肉によるO157食中毒を防止するために衛生基準を出したわけですが,残念ながら法的に強制力のない,罰則もない「通達」だったわけです。通達を出した厚生省側も当然「ユッケ」の存在は知っていたはずで,長い食経験のある「ユッケ」を規制するには至らなかったのでしょう。少し遠慮があったのかと推察します。

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