ジェネリック医薬品

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01 はじめに

 高血圧や糖尿病,風邪やインフルエンザ,さまざまな病気でお医者さんに診てもらうことがあります。そして,処方箋を書いてもらって,薬局へ行くと,「先発薬と同じ成分で,同じ効果があり,値段の安いお薬がありますので,そちらにしておきますね」と優しく指導してくれます。そうです!これが「ジェネリック医薬品」です。

 先発薬と同じ効果で,値段が安いのなら,それほどありがたいことはありません。しかも,厚生労働省もジェネリック医薬品の利用を推進していますし,ジェネリック医薬品メーカーもテレビでCMをどんどん打っていますので,患者さんも特に気にすることなく利用されていることと思います。

 でも,この世の中にそんなうまい話があるのでしょうか?

 私たちの命を守る大切な薬のことですから,ちょっと考えてみましょう。


02 新薬との違いは?

 病院など医療機関で処方されるお薬(医療用医薬品)には,病気を治療するために新しく研究開発し,厚生労働省の承認を受けた「新薬(先発医薬品)」と,新薬の特許が切れた後に,他のメーカーが同じ成分を使って製造した「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」があります。

 新薬を開発するためには,高い専門知識と技術を持った人材高度な施設・設備,そして十年以上の研究期間が必要になります。1つの新薬を開発するためには,300億円〜1000億円という莫大なコストが必要になりますが,世の中に患者さんがいる限り,新しい薬を作って,患者さんを早く健康な状態に戻してあげるのが新薬メーカーの役目です。

 一方,ジェネリック医薬品は,すでに新薬で実績のある成分を使用して製造されるため,安全性や有効性の試験のほとんどは免除されることから,開発にかかるコストは1億円程度になります。

 ジェネリック医薬品が,先発医薬品に比べて安いのは開発にかかるコストにこんな大きな差があるからです。


03 新薬と同じ効果?

 ジェネリック医薬品は,「先発医薬品と同じ成分,同じ効果」と宣伝されていますので,それを信じて患者さんはジェネリック医薬品を使っているのですが,はたして先発医薬品と同じ効果・効能が発揮できているのでしょうか。答えは,「わかりません」です。

 先発医薬品は,基礎研究,非臨床試験(動物実験),臨床試験(ヒト試験)を実施して,効果・効能や作用メカニズムを確認した上で,厚生労働省に申請し,認可されたものですから,効果・効能は科学的にしっかり証明されています。

 一方,ジェネリック医薬品は,「先発医薬品と同じ成分を使っているから,(たぶん)同じ効果を持っている」だろうという推測であり,実際に証明されているわけではありません。「生物学的同等性試験により,血中濃度の変化に差はないことを統計学的に証明している」といわれそうですが,血中濃度の変化が統計学的に同じであっても,効果が同じかどうかは臨床試験で比較しないとわからないのです。そう考えると,現在のジェネリック医薬品優先の動きは,ジェネリック医薬品の臨床試験を患者さんが治療費を支払いながらしているようなものかも知れません。

 もう一つ,先発医薬品とジェネリック医薬品の効果・効能に大きな差を与えるものに,お薬に施される工夫の部分があります。お薬には,錠剤,カプセル剤,注射剤などさまざまな剤型がありますが,先発医薬品は有効成分が効果を十分に発揮するように,剤型を工夫しているのです。これが,「製剤特許」です。有効成分の物質特許が切れて,ジェネリック医薬品として利用できるようになっても,製剤特許が切れていなければ同じ剤型でお薬を作ることはできません。当然,先発医薬品は工夫したお薬を使って臨床試験をやっていますので,この工夫の有効性・有用性は科学的に証明されているということになります。

 この点も,「ジェネリック医薬品は先発医薬品と同じ効果」という謳い文句になかなか納得できないところなのかも知れません。


04 安全性も新薬と同じ?

 ジェネリック医薬品は,「先発医薬品と同じ有効成分」と宣伝されていますが,有効成分が同じというだけで,先発医薬品と同じと言い切れるのでしょうか?医薬品の原材料(有効成分)を合成する場合,製造過程や製造条件など製造方法の違いによって,原材料の純度,すなわち不純物の種類や含有量が違ってきます。先発医薬品は,原材料に含まれる不純物も含めた安全性試験を行っていますが,ジェネリック医薬品は有効成分が同じということだけで,安全性試験は免除されていますが,不純物も含めた安全性は必ずしも先発医薬品と同じとは言えないのです。

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05 患者さんにメリットは?

 ジェネリック医薬品の最大のメリットは,なんといっても「安い」ことです。先発医薬品の薬価と比べて,ジェネリック医薬品の薬価は2〜7割となっていて(開発費を考えるともっと安くても良いような気もしますが・・・),患者さんの負担は多少軽くなっていると思います。経済的負担の軽減は,患者さんにとってメリットではありますが,これは最大のメリットとは思えません。現在でも,治療や予防ができない病気もたくさんあり,まだまだ新しいお薬を待っている患者さん0027はたくさんいらっしゃるのです。

 新薬メーカーは,莫大な開発費をかけてでも新しいお薬を作るのが仕事なのですが,現在はジェネリック医薬品メーカーが新薬開発に必要な開発費の一部(ジェネリックのシェア80%を目指していますので,もはや大部分)を持っていってしまうようなことになっているのです。


 新薬Aを開発すれば,一定の利益が発生します。その利益の中から,さらに新しいお薬Bを作るための開発費を捻出するわけです。さらに,この利益で新薬Cを開発する・・・というわけですが,現在の状況は新薬Bの利益の一部(or 大部分)をジェネリックBが持っていってしまうことになっています。当然のことながら,新薬Cを開発する費用が無くなり,新しい疾病やまだ治療薬の存在しない疾病を治療したり,予防することができなくなってしまうわけです。

 お薬代が多少安くなることと,今まで治らなかった病気が治療できることと,患者さんにとってどちらが最大のメリットなのでしょうか。人によって意見が異なるのは当然のことですが,病気や薬のことについて関心を持っていただけたら幸いです。


06 これならオススメ,AGとは?

 薬の開発をしてきた私などは,どうしてもジェネリック医薬品には抵抗があり,病院や薬局で薬をいただくときには,つい「先発品でお願いします」と言ってしまうのですが,そんな人のためのジェネリック医薬品が遂に出てきました。「オーソライズドジェネリック医薬品(AG)」です!

 「オーソライズド(Authorized)」とは,「許諾を受けた」という意味で,「オーソライズドジェネリック医薬品」は「新薬メーカーから許諾を受けたジェネリック医薬品」ということになります。

 オーソライズドジェネリック医薬品は,新薬メーカーから許諾を得て製造されますので,有効成分はもちろんのこと原薬,添加物,製造方法なども新薬と同じです。また,新薬メーカーの系列会社が全く同じ工場や製造ラインを使って製造する場合もあります。

 これなら,安心して使用することができますね。


第2世代 抗ヒスタミン薬

 アレグラ錠(サノフィ)は,花粉症などのアレルギー性鼻炎に処方される薬で,60mgのほか30mg,OD錠60mg,ドライシロップ5%などがあります。

 AGのフェキソフェナジン塩酸塩錠60mg「SANIK」日医工サノフィ)には,60mgと30mgがあります。


ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)

 ブロプレス錠(武田)は,高血圧に処方される薬で,8mgのほか2mg,4mg,12mgなどがあります。

 AGのカンデサルタン錠8mg「あすか」(あすかにも,2mg,4mg,8mg,12mgがあります。

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