福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2013年6月24日 No.21
Mesagno, C., & Mullane-Grant, T. (2010). A Comparison of different pre-performance routines as possible choking interventions. Journal of Applied Sport Psychology, 22, 343-360.
<コメント>プリ・パフォーマンス・ルーティンによってプレッシャー下での運動パフォーマンスの低下を防げるのかを調べた実験になります。5年以上のアメフト経験のある60名の選手に対して、30mのフリーキック課題を実施させています。プリテスト20本の後に、覚醒・行動・注意の調整を行うプリパフォーマンスルーティ(PPR)群、深呼吸群、キーワード群、時間調整群、統制群の5群に分け、各群に対して数10分の指導を行います。その後に6名の観衆の前で優勝者は50ドルを獲得できるプレッシャー条件を設け、ポストテスト20本が実施されています。プレッシャー下では統制群のみキックの正確性が低下するなか、その他4群は正確性が向上しており、特にPPR群の向上が顕著です。またPPR群においては、ボールを持ってからキック動作に入るまでの時間も増加し、その時間の試行間変動は減少しています。このような運動準備時間の一定化が高パフォーマンスに繋がると考えられます。順序効果が除外されていない研究計画であることが問題点として考察されていますが、統制群を設けているため、ポストテストにおける各従属変数に対して群間比較を行えば研究目的を満たせます。しかし結果の欄に群間比較の詳細な記述がなされていませんでした。この点に関して結果の解釈には十分な注意が必要で、消化不良感が残る論文でした。

2013年6月17日 No.20
Moore, L.J., Vine, S.J., Freeman, P., & Wilson, M.R. (2013). Quiet eye training promotes challenge appraisals and aids performance under elevated anxiety. International Journal of Sport and Exercise Psychology, 11, 169-183.
<コメント>QuietEyeトレーニングによってプレッシャー下でのゴルフパッティングのパフォーマンス低下を防げるというMoore氏やVine氏らによる研究をこれまでに紹介してきましたが、この論文はその背景にある心理メカニズムを示した研究になります。優勝賞金50ポンドと他者比較によるプレッシャー条件においてフォームの技術指導を受けた統制群はパッティングの正確性が低下するのですが、QuietEyeの方法を指導されたQuietEyeトレーニング群は正確性が向上しています。さらに質問紙を用いてパッティングに対する挑戦及び恐怖の認知的評価が調べられており、統制群は恐怖に対する認知的評価が高まる一方、トレーニング群は挑戦に対する認知的評価が高まっています。この研究のように、QuietEyeがプレッシャー下での高い運動パフォーマンスの発揮に対して有効な背景にある心理及び生理メカニズムを報告する研究が出てきています。

2013年6月11日 No.19
Stinear, C.M., & Byblow, W.D. (2004). Inpaired modulation of intracortical inhibition in focal hand dystonia. Cerebral Cortex, 14, 555-561.
<コメント>ジストニアを有する7名の書家やギターリストなどの音楽家を対象に、1秒間隔で障害を有する手の示指屈曲によるリズミカルなマウスクリックを実施させ、その際にTMSによる二連発磁気刺激を与えることで運動野内抑制系回路の機能が調べられています。ジストニアを有していない8名の統制群は、マウスクリックの動作中において主動筋である第一背側骨間筋(FDI)には脱抑制が生じ、運動に関与しない筋である母指外転筋(APB)には抑制が増強する一方、ジストニア群はこれらの抑制系機能が消失していることが示されています。マウスクリックのパフォーマンスに両群の差がなかったことから、あくまでジストニアに関する脳内プロセスを示した研究であることや、大脳基底核や視床から運動野にかけての投射異常が抑制系機能の低下に関与していることなど、この現象の背景にあるメカニズムが分かりやすく考察されており、最後まで面白く読むことができました。

2013年6月4日 No.18
Weaver, T.B., Janzen, M.R., Adkin, A.L., & Tokuno, C.D. (2012). Changes in spunal excitability during dual task performance. Journal of Motor Behavior, 44, 289-294.
<コメント>仰臥位もしくは立位において手で反応課題を行う場合と行わない場合の脊髄レベルでの運動ニューロンの興奮性をヒラメ筋H反射を基に調べられています。立位条件では足圧中心(COP)を合わせて測定することで重心動揺も検討されています。結果として、立位条件に限定的に反応課題による二重課題を行う際には最大H反射が小さくなることが示されています。このように脊髄反射は小さくなるもののCOPやヒラメ筋と前脛骨筋のEMGに変化は見られませんでした。これらの結果により、立位で多くの注意を必要とする運動を行う際には脊髄反射が抑制され、その抑制は重心動揺や下肢筋筋活動といった姿勢制御機能の変化に依存しているのではなく、上位中枢から脊髄への抑制系の投射や脊髄レベルでのシナプス前抑制に依存していることが考察できます。

2013年5月28日 No.17
Janelle, C.M., Hillman, C.H., Apparies, R.J., Murray, N.P., Meili, L., Fallon, E.A., & Hatfield, B.D. (2002). Expertise differences in cortical activation and gaze behavior during rifle shooting. Journal of Sport & Exercise Psychology, 22, 167-182.
<コメント>現在、ライフル射撃選手のメンタルサポートに携わっており、何らかのヒントがないものかと思い読んでみました。3回連続でQuietEyeに関する論文紹介になってしまいましたがご了承ください。熟練選手12名(競技歴が平均14.2±標準偏差9.6年)と中級レベル選手13名(競技歴が4.0±6.3年)の1ゲーム40ショットにおける点数、照準時間、視線行動、脳波活動などが比較されています。結果として、熟練者のハイスコアには、照準時間の長さ、QuietEye時間の長さ、左脳のα波とβ波の増加、右脳のα波とβ波の減少が示されています。つまり熟練選手の高いパフォーマンスにQuietEyeや脳活性の左右半球間差が関与してします。熟練群と中級群それぞれに対してQuietEye時間と脳波活動の相関係数も算出されており、興味深いことに中級群のQietEye時間が長い選手は右脳のα波とβ波が大きく、このことは中級者のQietEye時間をながくしても、熟練者の高パフォーマンスを導く背景にある脳活動には繋がらないことを示唆しています。

2013年5月21日 No.16
Vine, S.J., Moore, L.J., & Wilson, M.R. (2011). Quiet eye training facilitates competitive putting performance in elite golfers. Frontiers in Psychology, 2, Article 8.
<コメント>前回に引き続きQuietEyeのトレーニングによって、プレッシャー下でのゴルフパッティングのパフォーマンスの低下を予防できることを示した研究になります。ハンディキャップが平均2.78(標準偏差2.66)の高いレベルの22名のゴルファーを対象に実験が行われています。半数の11名のゴルファーが実験室レベルでの20試行のQuietEyeトレーニングを実施し(パッティングを開始する直前の2〜3秒間はボールの後ろを注視するなどの5つの教示)、残り半数の統制群に比べて約3mのパッティングの成功率が向上し、50ポンドの賞金などによるプレッシャー条件においても成功率を維持できることが示されています。またトレーニングを行う前後での実際の10ラウンドずつのパッティング成績も調べられており、トレーニング群は1ラウンドのパター数が約2パット減少し、10フィート以内のパッティングのカップイン率も約6%増加しています。短期間のQuietEyeトレーニングによって実験室レベルでも、実践レベルでもパッティング成績が向上することが非常にクリアに示されています。QuietEyeによる視線のコントロールが「Putt is money」の名言に繋がることを実証しています。

2013年5月14日 No.15
Moore, L.G., Vine, S.M., Cooke, A., Ring, C., & Wilson, M.R. (2012). Qiet eye training expediates motor learning and aids performance under hightened anxiety: The roles of response programming and external attention. Psychophysiology, 49, 1005-1015.
<コメント>運動スキルを遂行する直前に1点を凝視し、その後にスキルを遂行することでパフォーマンスの向上が導かれるQuietEyeの効果は様々な運動スキルを対象に報告されています。この論文では、このQuietEyeのトレーニングによってプレッシャー下でのゴルフパッティングの正確性の低下を防ぐことができ、さらにその背景メカニズムとして、ダウンスイング期のパターヘッドの加速度が小さいことや、心拍数が少ないこと、前腕伸筋のEMGが小さいことも示されています。プレッシャーに関する近年の研究動向として、当研究室が取り組んでいるようなプレッシャー下での運動行動や運動制御の現象解明を図る研究とともに、この研究のようにプレッシャー下でのパフォーマンスの低下を防ぐ効果的な方法を実証する研究が徐々に増えてきています。

2013年5月8日 No.14
山村千晶・高見京太・田嶌之貴・北川 薫(1996).高校生男女柔道部員における早朝練習時の生理学的効果.東海保健体育科学,18,51-57.
<コメント>高校生運動部員を対象に早朝練習の運動能力に対する効果や早朝練習中の心拍数を調べた研究になります。運動能力については、早朝練習の前後と昼休みの計3回、握力、フリッカーテスト、棒反応テストの3つを計測し、筋力、中枢神経の活動水準、瞬発力が調べられています。早朝練習の内容は道場内での約40分間のフィジカルトレーニングであり、練習前後でフリッカーテストや棒反応テストの能力の有意な向上が示されています。しかしながら昼休み段階まで、早朝練習の効果は保持されていないという結果も得られています。

2013年4月26日 No.13
Stinear, C.M., Coxon, J.P., Fleming, M.K., Lim, V.K., Prapavessis, H., & Byblow, W.D. (2006). The yips in golf: Multimodel evidence for two subtypes. Medicine & Scineces in Sports & Exercise, 38, 1980-1989.
<コメント>イップスに罹患しているゴルファーの神経生理メカニズムに関する研究になります。イップスはジストニアと呼ばれる神経障害を原因とするものと、不安などの心因性のものに分けられます。質問紙法を用いてこれらの2つのグループのゴルファーと、イップス障害を有していないゴルファーの3群を設け、実験1ではカメラ撮影した映像をバイオメカニクスやスポーツ心理の専門家が評価するというプレッシャー条件やプレッシャーのない条件での、パッティングの正確性や左右の前腕および上腕の筋活動が調べられています。結果として、非プレッシャー条件とプレッシャー条件に関わらずジストニア群のみ左前腕伸筋や左上腕二頭筋の筋放電量が顕著に大きく、パッティングの正確性も悪いことが報告されています。実験2では、Slatter-Hammel課題を用いて実験1と同様な3群の予測的運動抑制機能の評価が行われています。この実験においてもジストニア群のみ運動抑制のパフォーマンスが低く、その背景にある筋活動メカニズムとしてEMGの発火を抑えられないことが示されています。イップスと聞くと、スポーツの試合や練習といった実場面において起こる状況依存的な症状であることや、Task Specific Dystoniaと呼ばれるように長年取り組んできたある特定の運動課題においてのみ起こる症状であると考えられ、それが理由で実験研究には取り扱いにくいテーマと考えてきました。しかし、この論文のように実験室レベルでの運動実施や、問題となっている運動課題とは異なる課題においても発現する症状であり、実験的にイップスのメカニズム解明を行っていく研究を実施する際にかなり参考になる先行研究のように思います。

2013年4月22日 No.12
Hiraoka, K. (2002). Imaging stumbling inhibits motor-evoked potentials in the soleus muscle. International Journal of Neurosceince, 112, 613-622.
<コメント>運動イメージと運動ニューロンの興奮性の関係に関する論文になります。安静立位において右足や左足を踏み出すイメージを想起する時や、後ろによろめくイメージを想起する時に、運動野左下腿支配領域にTMSを用いて単発磁気刺激を与え、MEPを記録することで、左ヒラメ筋や左前脛骨筋を支配する皮質脊髄路の興奮性を調べています。また膝裏の脛骨神経への電気刺激によりヒラメ筋H反射を調べる試行も実施しています。結果として、踏み出しやよろめくイメージを想起する時には、ヒラメ筋のMEPが小さくなっています。前脛骨筋のMEPや、ヒラメ筋のH反射に変化は見られませんでした。運動イメージによって動作に関わる筋を支配する皮質脊髄路の興奮性が大きくなるという研究は多いのですが、この研究は逆の結果が得られており、全身のコーディネーションが必要な運動においては逆のことが起こり得ることが考察されています。また同一実験内において、H反射の記録を基に脊髄レベルでの運動ニューロンの興奮性調節まで調べられている点が実験手続きの細かさを感じることができました。

2013年4月18日 No.11
Lohse, K.R., Sherwood, D.E., & Healy, A.F. (2011). Neuromuscular effects of shifting the focus of attention in a simple force production task. Journal of Motor Behavior, 43, 173-184.
<コメント>近年、注意焦点と運動制御に関する多くの実験研究を報告しているLohse氏の論文の1つになります。足関節底屈による30%MVCの等尺性筋収縮課題を実施させ、4秒間できる限り30%MVCの力量調節を維持するように求めています。その際、内的注意条件ではふくらはぎの筋に注意を向けさせ、外的注意条件ではフォースプレートに注意を向けさせています。結果として、内的注意条件は外的注意条件に比べて力量調節のエラーが大きく、その背景にある運動制御メカニズムとして筋活動が分析されており、内的注意による前脛骨筋(拮抗筋)のEMG増大による共収縮の増大、ならびに前脛骨筋のEMG周波数の増大が示されています。1990年代より内的注意が様々な運動技能のパフォーマンスを阻害し、逆に外的注意はパフォーマンスを促進することが数多く報告されていますが、近年の研究ではこの背景にある中枢、筋活動、キネマティクスのメカニズムを実証する研究が増えてきています。

2013年4月11日 No.10
Nibbeling, N., Daanen, H.A.M., Gerritsma, R.M., Hofland, R.M., Oudejans, R.R.D. (2012). Effects of anxiety on running with and without an aiming task. Journal of Sports Sciences, 30, 11-19.
<コメント>高所不安に関する実験になります。トレッドミル上で快適なセルフペースで8分のジョギングをした後に、同じように走りながら2分間で12試行のダーツ投げを実施させています。この課題を4.2mの高さの高所条件で行う場合と、低所条件で行う場合の走運動のキネマティクス、酸素摂取量、ダーツ投げの正確性が比較されており、高所では@ピッチ走法になる、A酸素摂取量が増加する、Bダーツ投げの正確性が低下するなどのクリアな結果が得られています。運動中に意識したことに対する内省報告も分析されており、不安や注意散漫要因に対する意識が増えていることからAttentinal Control Thoeryを基に考察がされています。高所不安を実験操作としているため、私が取り組んでいるパフォーマンスプレッシャーの研究とは少し異なる心理操作と捉えていますが、不安やストレスと運動行動に関する研究の中で持久力運動を取り扱っている研究は珍しく、さらには従属変数の豊富さにも多くの共感を感じました。

2013年4月1日 No.9
Fecteau, S., Knoch, D., Fregni, F., Sultani, N., Boggio, P., & Pascual-Leone, A. (2007). Diminishing risk-taking behavior by modulating activity in the prefrontal cortex: A direct current stimulation study. Journal of Neuroscience, 27, 12500-12505.
<コメント>経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いて、右腹側前頭前野(F4)と左腹側前頭前野(F3)に電極を置き、2mAの直流電気刺激を与えています。その際に、様々な確率のリスク条件で賞金獲得シミュレーション課題を実施させ、選択方略や総獲得賞金を調べています。非常にクリアな結果が得られており、F4へのanodal刺激条件では、F4へのcathodal刺激条件やsham(疑似)刺激条件に比べて、低いリスクの選択方略を取る割合が高く、結果として総獲得賞金も大きくなっています。この結果は、ギャンブル依存症、アルコールやタバコへの依存症といった種々のアディクションなどの治療に、前頭前野への脳刺激が有効であることを示唆しています。またヒトの状況判断や行動選択が、電気刺激による前頭前野の興奮性調節によって左右されることも意味し、神経経済学にも応用可能なトピックに感じました。

2013年3月25日 No.8
Nieuwenhuys, A., Savelsbergh, G.J.P., & Oudejans, R.R.D. (2012). Shoot or don't shoot? Why police officers are more inclined to shoot when they are anxious. Emotion, 12, 827-833.
<コメント>射撃シュミレーター上で警察官に、相手が銃を持っていれば相手を射ち、持っていなければ銃を下すという知覚判断課題と射撃運動課題を実施させています。反応時間が遅い場合(500ms以上)やミス発砲をした場合には空気散弾を受けるプレッシャー条件では、知覚判断能力も低下する中で、反応時間が早くなり、射撃の正確性も低下しています。相手が銃を持っていない条件では6%もミス判断が増えています。アイカメラの測定も行われていますが、視覚探索にプレッシャー下での変化が見られなかったことから、扁桃体を中心とした情動反応の賦活がプレッシャー下での知覚判断や運動行動の変化に関与していることが考察されています。

2013年3月21日 No.7
Zhu, F.F., Poolton, J.M., Wilson, M.R., & Masters, R.S.W. (2011). Neural co-activation as a yardstick of implicit motor learning and the propensity for conscious control of movement. Biological Psychology, 87, 66-73.
<コメント>ゴルフパッティングを行う際の内的注意によるパフォーマンス阻害、ならびに顕在学習(errorful learning)と潜在学習(errorless learning)の学習効果の違いの背景にある中枢神経メカニズムが脳波測定を基に調べられています。実験1では、自己意識が高い人は低い人に比べてゴルフパッティングを行う際にT3-Fz間のα2周波数帯域のコヒーレンスが大きく、実験2では顕在学習群が潜在学習群に比べて保持テスト時にα1周波数帯域におけるT3-FzとT4-Fz間のコヒーレンスが大きいことが示されています。さらに転移テストとして観衆の前でパッティングを行うプレッシャー条件も実施している点が私の研究テーマにフィットする内容であり、プレッシャー条件では実験1と同様に、顕在学習群のみT3-Fz間のα2周波数帯域のコヒーレンスが大きくなっています。

2013年3月15日 No.6
Aglioti, S.M., Cesari, P., Romani, M., & Urgesi, C. (2008) Action anticipation and motor resonance in elite basketball players. Nature Neuroscience, 11, 1109-1116.
<コメント>ビデオ映像を用いたバスケットボールフリースローの成功・失敗予測について、実験1では経験者が、コーチや未経験者に比べて予測能力が高いことが示されています。実験2ではTMSを用いてMEPを記録することで、その背景にある運動ニューロンメカニズムとしてリリース時の皮質脊髄路の興奮性の増大が経験者の予測能力の高さに関与していることが示唆されています。ビデオ映像の動作解析も行うことで成功シュートと失敗シュートでは手関節や膝関節の角度が小さいことも示されており、キネマティクスレベルで経験者が何を観察しているかまで抑えられている点が私のお気に入りです。痒いところまで手が届いている研究に感じました。

2013年3月13日 No.5
Taube, W., Kullmann, N., Leulkel, C., Amtage, F., & Gollhofer, A. (2007). Differential reflex adaptations following sensorimotor and strength training in young elite athletes. International Journal of Sports Medicine, 28, 999-1005.
<コメント>スキージャンプやノルディックスキーに取り組むジュニアエリート選手を対象に、6週間に渡ってのバランストレーニングやストレングストレーニングに伴うH反射の可塑的変化が報告されています。両方のトレーニングにおいてジャンプ能力は向上するのですが、バランストレーニングはH反射の抑制を導き、ストレングストレーニングは促通を導くという、トレーニング種類に応じた脊髄反射の可塑的変化が証明されている点が独創的です。

2013年3月12日 No.4
内田 直(2012)スポーツと生体リズム.山崎勝男(監修)スポーツ精神生理学.西村書店.286-299.
<コメント>水泳のタイムに関するサーカディアンリズムの研究紹介、サーカディアンリズムのシフト方法、国際試合の際に考慮が必要なジェットジェットラグ症候群などがまとめられています。スポーツパフォーマンスの日内変動を実証した研究を知ることができ、とても興味深く拝読しました。

2013年2月27日 No.3
Chen, Y.S., & Zhou, Shi. (2011). Soleus H-reflex and its relation to static postural contol. Gait & Posture, 33, 169-178.
<コメント>H反射の記録による脊髄反射と姿勢制御の関係についての総説論文になります。H反射のメカニズムや記録方法の基本的な話から始まり、シナプス前抑制や相反抑制などなどの種々のH反射応答の調節メカニズム、さらには姿勢制御課題やバランストレーニングに伴うH反射の変化が詳細にレビューされています。H反射のメカニズム、さらには姿勢制御とH反射の関係を幅広く知れるおススメの一本です。

2013年2月22日 No.2
Vines, B.W., Nair, D., & Schlaug, G. (2008). Modulating activity in the motor cortex affects performance for the two hands differently depending upon which hemisphere is stimulated. Europen Journal of Neuroscience, 28, 1667-1673.
<コメント>tDCSを用いて左右の手指筋を支配する左右の一次運動野への電気刺激によって、左右それぞれの手指によるタッピング課題の成績(速さや正確性)がどのような影響を受けるのかについて検討されています。左運動野を刺激した場合、利き手である右手の成績はCathodal条件で低下し、非利き手である左手の成績はCathodal条件で逆に向上しています。右運動野を刺激した場合には、このような傾向は示されず、左右運動野の皮質間抑制(IHI)の増減がこのような結果に関与していることが考察されています。tDCSによってIHIを増減させ、それに伴い利き手や非利き手の運動成績を操作できることを示唆する強力なデータではないでしょうか。

2013年2月19日 No.1
Starkes, J.L. & Allard, F. (1983). Perception in velleyball: The effect of competitive stress. Journal of Sport Psychology, 5, 189-196.
<コメント>バレーボール写真による知覚判断課題を用いて、競争条件では反応時間が短縮し、正答率は減少するトレードオフ現象が生じることが示されています。その傾向は、非バレーボール選手よりもバレーボール選手の方が顕著でした。プレッシャーと運動行動に関する30年前の論文でクリアな結果が示されているのですが、読み逃していました...。