福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2017年12月18日(月) No.183
Weltman, G., & Egstrom, G.H. (1966) Perceptual narrowing in novice divers. Human Factors, 8, 499-506. doi: 10.1177/001872086600800604
<コメント>50年以上前の論文を紹介いたします。プレッシャー下でのパフォーマンスを注意機能から説明する諸理論の1つに注意狭隘 (attentional narrowing) や知覚狭隘 (perceptual narrowing) があります。プレッシャー下で「頭が真っ白になる」「周りが見えない」「思考や記憶がとんでしまう」と感じる現象を指します。このことを実証した初期の論文で、初心者スクーバダイバーが陸上、ダイビング練習用プール内、海中で主課題として暗算や文字読み取りを行うとともに、二次課題として自己の周辺に呈示された光刺激に対して早く反応することを実施させています。結果として、陸上に比べてプール内や海中では二次課題の反応時間が遅れるとともに、主課題の成績を落としている実験参加者に顕著な二次課題の遅れが見られました。危機状況ともいえるプレッシャー下では、注意容量が小さくなってしまい主課題と二次課題のパフォーマンス低下が起きることを反映しています。NASAからの研究助成を受けていた研究でもあります。

2017年12月11日(月) No.182
Binsch, O., Oudejans, R.R.D., Bakker, F.C., Hoozemans, M.J.M., & Savelsbergh, G.J.P. (2010) Ironic effects in a simulated penalty shooting task: Is the negative wording in the isstruction essential? Inernational Journal of Sport Psychology, 41, 118-133.
<コメント>平均競技歴14.6年のサッカー経験者32名を対象に、PKシミュレーション課題におけるironic errorに視線行動がどのように関与しているかについて調べられています。「出来る限り正確に」「キーパーに届かないように」「キーパーを超すように」蹴るの3つの教示条件を設け、ゴールに届いた瞬間のボールの位置とキーパーとの距離を算出しています。重回帰モデルを用いて、その距離が教示条件やキーパーに対する固視時間によってどのように規定されるかが検討されています。結果として、「キーパーに届かないように」「キーパーを超すように」「キーパーに対する固視時間」の3つともキーパーの近くにボールを蹴ることを規定する要因であることが示されています。「〜するな」という教示を受けると意に反してその行為が出てしまうironic errorに、教示されら対象に対する視線行動が関与することをや、、「〜するな」というネガティブな教示だけではなく、「キーパー」という言葉だけを含むだけでもironic errorが生じることを提案している研究になります。

2017年12月4日(月) No.181
Toner, J., & Moran, A. (2011) The effects of conscious processing on golf putting proficiency and kinematics. Journal of Sports Sciences, 29, 673-683. doi: 10.1080/02640414.2011.553964
<コメント>プレッシャー下で身体動作を考えすぎるとパフォーマンスの低下が起きることを提案している諸説では、身体運動に意識を向けることで運動の調整を行うことが弊害になると考える意識的制御(conscious control)と、身体運動に意識を向け身体をモニターすることが弊害になると考える意識的モニタリング(conscious monitoring)の2つが原因と考えられています。この論文は2つの実験で構成されており、実験1では平均ハンディキャップ2.6の14名の上級ゴルファーを対象に、2.5mの実験室内でのゴルフパッティング課題を用いて、まず意識的制御がパフォーマンス低下を導くか、またその背景にある動作メカニズムを検討しています。SAM PuttLab動作解析システムを用いてパッティングフォームを210Hzで動作解析し、このシステムの動作解析結果を実験中にフィードバックできるという長所を生かし、パターとボールが接触するインパクトのパターの角度の意識的制御を行わせています。結果として意識的制御を行わせるとパティングの動作時間は大きくなり、動作の変動性は小さくなっています。またパフォーマンスは維持されたことから課題に関わる適切な意識的制御はパフォーマンス低下に繋がらないことを提言しています。実験2では、平均ハンディキャップ3.56の18名の上級ゴルファーを対象に、実験1のようにインパクトのパター角度の意識的制御を行う条件と、インパクト時にパターのどこにあたっているかをモニターさせながら課題を行う意識的モニタリング条件を設けています。統制条件に比べて意識的モニタリング条件ではパフォーマンスを落とし、意識的制御条件ではパフォーマンスを維持した結果を受け、非プレッシャー下での実験ではありますが、意識的制御よりも意識的モニタリングの方がパフォーマンス低下の原因になることを示しています。

2017年11月27日(月) No.180
Wegner, D.M., Ansfield, M., & Pilloff, D. (1998) The putt and the pendulum: Ironic effects of the mental control of action. Psychological Science, 9, 196-199. doi: 10.1111/1467-9280.00037
<コメント>皮肉過程理論が運動行動においても生じることを初めて示した20年間前の論文になります。2つの実験で構成されているResearch Reportで、第1実験では、83名の大学生が室内で2mのゴルフパッティングを行う際に、ターゲットを超えてはいけないという教示を受けると、意に反してターゲットを超えるパッティングをしてしまうことが、6桁の数字を心の中で呟きながら課題を行う二重課題条件で生じやすいことが示されています。第2実験では、イメージと身体反応の繋がりを体感するために古くより用いられているシュブリルの振り子を課題にして、振り子を止めた状態で「左右方向に揺らしてはいけない」という教示を受けると、意に反して左右方向に振り子が揺れてしまい、この実験でも1000から3ずつの引き算を行いながら課題を行う認知負荷条件や、反対の手で2.2kgの重りを持ちながら課題を行う身体負荷条件で意に反する揺れが生じやすいことが示されています。

2017年11月20日(月) No.179
Gray, R. (2011) Links between attention, performance pressure, and movement in skilled motor action. Psychological Science, 20, 301-306. doi: 10.1177/0963721411416572
<コメント>内的注意焦点の運動スキルに対する負の影響や、プレッシャーによるパフォーマンス低下を意識的処理で説明する理論では、非プレッシャー下とプレッシャー下において身体動作に注意を向けることの弊害を表しています。この論文では、この弊害がどのようなメカニズムで生じるかについて、動作(キネマティクス)や筋活動(EMG)を測定している論文を取り上げて丁寧なレビューがされています。@複数試行に渡っての動作の変動性、A自由度の凍結による関節間の協調性の変化、B筋活動の増大や、2筋間の共収縮の増加による運動効率の低下、C運動方略の変化による動作の縮小、以上の4つに分けて関連研究が紹介されています。

2017年11月13日(月) No.178
Dugdale, J.R., & Eklund, R.C. (2003) Ironic processing and static balance performance in high-expertise performers. Research Quarterly for Exercise and Sport, 74, 348-352. doi67.2003.10609102: 10.1080/-27013
<コメント>皮肉過程理論が運動課題にも生じ得ることを示した初期の研究で、オーストラリアのダンスアカデミーに所属する16名の女性ダンサー(平均ダンス歴12.66年、フルタイムでのダンス練習歴の平均2.78年の熟練ダンサー)を対象に、フォースプレート上で外乱のあるボードを置き、その上で20秒間の姿勢保持課題を実施させ、足圧中心(COP)を測定しています。認知負荷がない条件とある条件(1000から7ずつ引いている暗算をする)で姿勢保持課題を行い、さらには「安定させろ」もしくは「揺れるな」の両教示の中で課題を行います。結果として、教示の主効果が認められ、「揺れるな」と教示されると「安定させろ」よりも重心動揺が大きくなっています。また交互作用に有意差はなかったのですが、認知負荷が大きい条件で「揺れるな」の教示による姿勢の不安定が大きくなりやすことも報告されています。

2017年11月6日(月) No.177
Chauvel. G., Wulf, G., & Maquestiaux, F. (2015) Visual illusion can facilitate sport skill learning. Psychonomic Bulletin & Review, 23, 717-721. doi: 10.3758/s13423-014-0744-9
<コメント>前回も紹介したエビングハウス錯視図形を利用した錯視による運動学習効果を調べた研究になります。これまでに、ゴルフパッティング課題を利用し、エビングハウス錯視図形を用いて中心円が大きく見えるほど結果の正確性が高まり、小さく見えるほど結果の正確性が悪くなることが多くの研究で示されてきました。この研究では、その学習効果が1日後でも保持されているかが検討されています。結果として1日後でも保持されるとことが示されており、錯視環境を利用できない実際のスポーツ場面でのパフォーマンスに対しても錯視練習が有効であることが提案されています。また、この研究では学習前、習得期、保持テスト時の課題に対する自己効力感も測定しており、中心円が大きく見える条件では自己効力感が高く、小さく見える条件では自己効力感が低いことも示されています。大きく見えるという錯視に伴う運動学習の促進には、自己効力や動機づけの心理面が関与することが考察されています。

2017年10月30日(月) No.176
Canal-Bruland, R., van der Meer, Y., & Moerman, J. (2016) Can visual illusion be used to facilatte sport skill learning. Journal of Motor Behavior, 48, 385-389. doi: 10.1080/00222895.2015.1113916
<コメント>エビングハウス錯視図形を用いて中心円を大きく見えさせせたり、小さく見えさせた中での中心円に対するエイミング運動の正確性を調べたこれまでの研究では、ゴルフパッティング課題を利用し、大きく見えるほど結果の正確性が高まり、小さく見えるほど結果の正確性が悪くなることが示されてきました。しかしながらこの研究では、33名の成人がエビングハウス錯視図形の中心円に対して正確にビー玉を転がして狙う運動課題の学習期や保持テストのパフォーマンスにおいて、中心円を大きく錯視するよりも、小さく錯視するほうが学習効果が高いことが示されています。学習期には自信度や満足度の心理指標も測定しており、これらの指標に統制群、大きく見える群、小さく見える群の差がないことから、小さく見えることの学習効果は、心理的な影響ではなく、小さく見える的を狙うことによる運動制御が貢献していることが考察されています。

2017年10月23日(月) No.175
Pope, D.G., & Schweitzer, M.E. (2011) Is Tiger Woods loss averse? Persistent bias in the face of experience, competition, and high stakes. American Economic Review, 101, 129-157. doi: 10.1257/aer.101.1.129
<コメント>カーネマンによるプロスペクト理論では、利益によって得られる満足度と損失よって失う満足度を比べると利益とリスクの額は同じであっても失う満足度の方が大きいことがモデル化されています。この論文では、このモデルが世界最高峰のプロゴルフツアーであるアメリカPGAにおけるプロゴルファーのパッティングにも該当することが示されています。PGAツアーにおける2004年から2008年にかけての計250万以上のパッティングの成否とカップまでの距離のデータから、バーディーパットの成功率よりもパーパットの成功率が高いことが示されています。ゴルフ場の各ホールはその距離に応じてパーを基準に構成され、レベルの高いゴルファーほどパーを基準に自分のスコアを考えてラウンドします。パーよりも1打少ない数でそのホールを終えるバーディーは利益になると考えられ、1打多い数でそのホールを終えるボギーは損失と捉えられます。利益を追求するために入れるパットよりも損失を回避するために入れるパットのほうが成功率が高いことを反映しています。そして外れたパットのカップからの位置を分析するとバーディパットはパーパットに比べてショート(カップまで届かない)が多いことも定量化されています。各ホールの難易度とイーグルパット、バーディーパット、ボギーパットの成功率の関係も分かりやすく図示化されており、利益追求のイーグルパットは高難度のホールでは入りにくく、低難度のホールでは入る反面、損失回避のボギーパットは低難度のホールで入りにくく、高難度のホールほど入りやすいことが示されています。そのホールの難易度がスコアに対する心理的な参照点(reference point)になってしまい、その参照点に近づける行為(パッティングの成否)をしてしまうことを意味しています。2007年度のPGAツアーの獲得賞金トップ10の選手の個別データも提示されており、当時世界ランキング1位のタイガー・ウッズ選手でも少なからずバーディーパットよりもパーパットの方が成功率が高く、"Is Tiger Woods loss averse?"というキャッチな論文タイトルが付けられています。

2017年10月16日(月) No.174
ダニエル・カーネマン(2011)心理と経済を語る.楽工社.
<コメント>10月前半は毎年ノーベル賞の発表シーズンですが、今年度のノーベル経済学賞はリチャード・セイラ―(Richard H. Thaler)氏が受賞されました。人や社会の合理性を視点とした従来の経済学に、認知バイアス等により非合理的な意思決定を含めて人の行動や社会経済を説明する行動経済学を開拓した研究者であります。セイラ―とともにこの分野の研究を開いたのがこの本の著者ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)氏で、先だって2002年に同じくノーベル経済学賞を受賞されています。カーネマン氏の研究者としてのバックボーンは注意に関する心理学研究であります。この本では、このようなカーネマン氏の研究者としての自伝や、ノーベル賞の受賞講演の内容、さらには幸福度に関するカーネマン氏の近年の研究について、読みやすい適量の文量で分かりやすい内容で行動経済学のさまざまなトピックを理解することができます。

2017年10月2日(月) No.173
Wu, S.W., Trommershauser, J., Maloney, L.T., & Landy, M.S. (2006) Limits to human movement planning in tasks asymmetric gain landscapes. Journal of Vision, 6, 53.63. doi: 10.1167/6.1.5
<コメント>ディスプレイ上に報酬を得られるエリアとペナルティーになるエリアを配置し、ポインティング課題の正確性を求める一連の実験では1つの報酬エリアと1つのペナルティーエリアを設ける研究が主流ですが、この研究ではペナルティーの度合いや、ペナルティーエリアの数(1つと2つ)などを操作し、報酬とペナルティーの関係の複雑性を増やした複数の条件下でのポインティング運動の結果分析が行われています。6名の実験参加者の各自の運動結果(ポインティング位置)の分散から算出した最適解(どの位置に平均的にポインティングすることによって最大報酬が得られるか)と実運動の比較を行うと、報酬とペナルティーの複雑性が低い条件では最適解に近い運動ができている一方、複雑性が高くなると最適解から離れた、特にペナルティーエリアに近い(リスクテイクな)運動を行っていることが示されています。この研究のようにポインティング課題を用いて最適解と実運動の結果を比較し、リスクテイクな運動を行うことを示している研究では、その理由として@自己の運動パフォーマンス(分散)への過信、A報酬とペナルティーの価値判断の低さが挙げられていますが、この研究はAの理由を支持する結果と捉えられます。

2017年9月25日(月) No.172
Stern, C., Cole, S., Gollwitzer, P.M., Oettingen, G., & Balcetis, E. (2013) Effects of implementation intentions on anxiety, perceived proximity, and motor performance. Personality and Social Psychology Bulletin, 39, 623-635. doi: 10.1177/0146167213479612
<コメント>プレッシャー下において不安を低減させることで、ゴルフパッティング課題やダーツ課題における距離知覚が近くに感じ、パフォーマンス低下を防げることを示している論文になります。実験1では、呼吸法や注意のコントロールなどの基本的な不安対処法の教示を受け、パフォーマンスに対するネガティブな要因を4つ選択させ、それらの要因を調整する対処法を1つ決めさせて書かせることを行う対処群24名と統制群24名が、ビデオ撮影され、その映像を大学ゴルフ部員が評価するというプレッシャー下で6試行ゴルフパッティング課題を行っています。そして、対処群は統制群に比べて有意にカップまでの距離知覚が短くやカップイン数が多いことが示されています。さらには研究目的を知らない2名がビデオ映像を基に各実験参加者の不安度を5件法で評価し、その値と距離知覚が正の相関であることも示されています。実験2ではダーツ課題を用いても実験1と類似した結果が得られており、加えて主観的な課題難易度を媒介変数とした媒介分析を行うことで、距離知覚とパフォーマンスの相関が主観的課題難易度に媒介されていることを明らかにしています。

2017年9月19日(火) No.172
Cooper, A.D., Sterling, C.P., Bacon, M.P., & Bridgeman, B. (2012) Does action affect perception or memory. Vision Research, 62, 235-240. doi: 10.1016/j.visres.2012.04.009
<コメント>行為作用性知覚(action-specific perception)に関する多くの研究では、スポーツの成績によって、成績が悪い時には事後的に外的環境を難易度が高い方に知覚し、成績が良い時には難易度が低い方に知覚することが多く実証されています。しかし、これらの多くの研究では、課題を終えた後に外的環境を見ないで知覚課題の測定が行われていることが多く、知覚が変化しているのではなく、記憶や認知が変化しているという批判があります。この研究はこのような批判を支持する一論文であり、円形の穴のなかに小石を投げていれる課題を用いて、投げた後に円形をみながら円の直径サイズ知覚を測定すると成功試行と失敗試行でサイズ知覚が変わらない一方、投げた後に円形をカーテンで隠し、円形の視覚情報がない中で知覚課題を行わせると、失敗成功では成功試行に比べてサイズを小さく知覚することが示されています。この結果を基に、考察では行為が知覚ではなく記憶を変えることを明示しています。

2017年9月11日(月) No.171
Bahmani, M., Wulf, G., Ghadiri, F., Karimi, S., & Lewthwaite, R. (2017) Enhancing performance ecpectancies through illusions facilitates motor learning in children. Human Movement Science, 55, 1-7. doi: 10.1016/j.humov.2017.07.001
<コメント>10歳児30名を対象に、エビングハウス錯視図形をゴルフカップとして利用し、ゴルフパッティングの練習を行わせています。周囲に大きな円が配置されている小さく見える中心円をカップに見立てて練習する小サイズ錯視群と反対に周囲に小さな円を配置することで中心円を大きく感じる大サイズ錯視群に分けて、錯視図形のない事前テストと事後テストの比較が行われています。大サイズ錯視群は小サイズ錯視群に比べてカップのサイズを大きく知覚し、課題成功に対する自己効力感が高く、ボールの停止位置の正確性(変動誤差)も習得と1日後の保持テストにおいて高いことが示されています。全実験参加者をサンプルとして、各従属変数間の相関係数も算出されており、サイズ知覚と正確性の相関や自己効力感と正確性の相関も示されています。

2017年9月1日(金) No.170
Trommershauser, J., Maloney, L.T., & Landy, M.S. (2003) Statistical decision theory and trade-offs in the control of motor response. Spatial Vision, 16, 255-275. doi: 10.1163/156856803322467527
<コメント>ディスプレイ上に映し出された直径約18mmの円内に指でポインティングを行うエイミング課題を用います。その際、ターゲット円内にポンティングできれば100ポイントが獲得でき、隣接する円にミスポインティングをしてしまうと減点(-100ポイント、-200ポイント、-500ポイントの3条件)される運動パフォーマンスに連動した損得が生じます。ポインティングスタートからポインティング終了まで750ms以内にポインティングできなければ-500ポイントになるペナルティーも設けられており、速い速度でポインティングを行わせることで、ポインティング結果の速さと正確性のトレードオフが生じないようにも仕向けられています。計180試行行い、その時の得点に応じて1000ポイントにつき実際に25セントが支払われます。6名の実験参加者に対して実験が行われており、ポインティング終了点の横方向の分散から算出される理論的に最も高得点が得られるポイントで、概ね運動が実施されていることが示されています。

2017年8月21日(火) No.169
Hudson, T.E., Wolfe, U., Maloney, L. T. (2012) Speeded reaching movements around invisible obstacles. PLoS Computational Biology, 9, e1002676. doi: 10.1371/journal.pcbi.1002676
<コメント>論文タイトルにもあるようにディスプレイ上のある幅のターゲットに指先を移動させるリーチング課題を用いて、複数試行に渡ってのリーチングの軌跡が何によって規定されるかを数理モデルを絡めて検討されています。リーチング課題においてターゲットに指先が到達すれば報酬(reward)を獲得できるのですが、リーチング開始地点からターゲットまでの間には見えない障害物(obstacle)があり、その障害物に指先があたると減額(cost)となり、障害物を避けながら目的とするリーチングを成功させるかという課題が設定されています。複数試行に渡ってのリーチング軌跡はノイズの影響でばらつくため、障害物がある地点での分散と、ターゲット到達地点での分散によって報酬が決定されます。この2つを共変数としたベイズ確率分布から最大報酬を得るための最適解が算出されるのですが、このモデルから算出される最適解に近いリーチング運動を7名の実験参加者が実施していたことが示されています。障害物を回避しながらのリーチング運動について従来での研究では、リーチング時のエネルギー効率の最適化によるバイオメカニクス的な研究が主流でしたが、この研究ではパフォーマンス目標に対する損得による最適解からも説明できることを提案しており、そのことが考察されています。

2017年7月31日(月) No.168
Yoshie, M., Nagai, Y., Critchley, H.D., & Harrison, N.A. (2016) Why I tense up when you watch me: Inferior parietal cortex mediates an audience's influence on motor performance. Scientific Reports, 6, 19305. doi: 10.1038/srep19305
<コメント>5%MVCと10%MVCでアイソメトリックな手での力発揮課題を行う際に、モニターに呈示された他者に見られながら行う条件と見られない条件で行う際の脳活動がfMRIを用いて調べられています。力発揮はリアルタイムなフィードバックがある状態で5秒間行い、その後はフィードバックがなくなり他者がモニターが映し出され、その状態で15秒間力発揮を継続します。15秒間同じ力を発揮しているつもりでも、フィードバックがないため力発揮は漸減するのですが、10%MVCの他者に見られている条件では力発揮の漸減が小さくなり、見られていない条件に比べて力発揮が大きくなっています。この15秒間の脳活動に関しては、5%MVCと10%MVCの両方において、右上側頭溝後部(posterior Superior Temporal Sulcus: pSTS)の活性増、左下頭頂小葉(Inferior Parietal Cortex: IPC)の活性減が生じています。見られていない条件から見られている条件にかけての左下頭頂小葉の活性減と力発揮の増大間には正の相関が示されており、他者に見られることに対する力発揮増に関わる脳部位であることが言及されています。脳部位間のPPI分析(Psychophysiological Interaction analysis)という手法を用いて、脳部位間の結合の増減についても調べられており、見られている条件では、右上側頭溝後部と下頭頂小葉や中心後回の結合減、右上側頭溝後部と左右視覚野の結合増も示されています。これらの結果を基に、他者に見られている中での力発揮増には、運動感覚情報の統合、感覚運動表象、ミラーニューロンシステムが関与していることが考察されています。

2017年7月24日(月) No.167
Mosley, E., Laborde, S., & Kavanagh, E. (2017) The contribution of coping related variables and cardiac vagal activity on the performance of a dart throwing task under pressure. Physiology & Behavior, 179, 116-125. doi: doi: 10.1016/j.physbeh.2017.05.030
<コメント>先日参加した国際スポーツ心理学会第14回大会では、様々なシンポジウムやポスター発表への参加を通して当研究室の研究テーマに関する新たな未知の論文情報を得る機会になりました。この論文では、ダーツ投げに不慣れな51名の実験参加者を対象に、非プレッシャー条件とプレッシャー条件(他者評価)でのダーツ課題時の心臓迷走神経活動(Cardiac Vagal Activity)やダーツパフォーマンスに注意、情動知能(Emotional Intelligence)、動作再意識(Movement Reinvestment)、意思決定再意識(Decision Reinvestment)、挑戦評価(Challenge Appraisal)が関連するかについて、重回帰分析を用いた検討が行われています。非プレッシャー条件とプレッシャー条件のそれぞれに対して重回帰分析が行われており、様々な結果が得られていますが、課題前の安静時の心臓迷走神経活動(心電図の心拍変動の高周波帯域より評価:この値が高いほど心的な自己調整が行われていることを反映する)がダーツ課題中の心臓迷走神経活動を予測するという仮説に対しては、非プレッシャー条件とプレッシャー条件の双方において仮説を概ね支持する結果が得られています。情動知能や挑戦評価が課題前や課題中の心臓迷走神経活動を予測するという仮説を支持する結果は得られていません。、意思決定再意識化は心臓迷走神経活動を低下させるという仮説は、仮説とは反対の結果が得られています。ダーツパフォーマンスに関しては、非プレッシャー条件では、課題前から課題時にかけての心臓迷走神経活動変化が少ないほど成績が良く、反対にプレッシャー条件では心臓迷走神経活動減少度が大きいほど成績が良いことが示されています。

2017年7月3日(月) No.166
兄井 彰・本多壮太郎(2013)スポーツにおける錯覚の生起要因による分類.九州体育・スポーツ学研究,27,25-33.
<コメント>この論文では約1000名のスポーツ選手を対象に、スポーツや運動中に感じる錯覚現象を質問紙に自由回答させ、その回答をKJ法により分類することで、錯覚の生起要因が抽出されています。KJ法による質的分析の結果、知覚的錯覚と認知的錯覚に分類でき、知覚的錯覚には競技場所の環境、天候、用具、対戦相手の特徴、対象を見る方向・位置の要因が抽出されています。認知的錯覚は、コンディション・調子、プレッシャー・緊張・不安、他者の存在、経験、暗示・ジンクスで構成されています。昨年度より「心理的プレッシャー下における身体運動―力動的知覚とのインタラクション―」というテーマで研究費研究を行っていますが、プレッシャーや緊張などの心理状態の変化によって外的環境に対する知覚も変化することが力動的知覚と呼ばれており、この力動的知覚に関するスポーツ選手の事例をこの論文を通して把握することができました。