福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2019年11月26日(火) No.260
Mobbs, D., Hassabis, D., Seymour, B., Marchant, J.L., Weiskopf, N., Dolan, R.J., and Frith, C.D. (2009) Choking on the money: Reward-based perfromance decreaments are associated with midbrain activity. Psychological Science, 20, 955-962. doi: 10.1111/j.1467-9280.2009.02399.x
<内容>fMRI内でディスプレイ上のターゲット追跡運動課題を実施するときの課題成否や脳活動に対する成功報酬(0.5ポンドか5.0ポンド)の影響が調べられています。19名の実験参加者(分析対象は14名)に10分間の練習後に0.5ポンド条件20試行と5ポンド条件18試行を実施させ、5ポンド条件では0.5ポンド条件よりもターゲットのキャッチ数が有意に減少し、ターゲットの近くまで迫りながらキャッチミスをする数も有意に増え、高報酬によるパフォーマンス低下が生じています。このようなパフォーマンスの低下に対して、腹側中脳の活動増、前頭前野の活動減が関与することも示されています。さらに質問紙で課題遂行時のモチベーションも尋ねており、両条件においてモチベーションが高いほど中脳の活動も大きいことも報告されています。これらの結果から、高報酬下でのチョーキング現象は、中脳の活動を中心とした高覚醒や高モチベーションで説明でき、それに伴う注意狭隘も関与することが考察されています。さらに、中脳の活動増にはドーパミンの放出増やセロトニンの放出減が関与しており、これらの物質がチョーキングに関与する可能性も提案されています。

2019年6月24日(月) No.242
Gray, R. (2017) Transfer of training from virtual to real baseball batting. Frontiers in Psychology, 8, article2183. doi: 10.3389/fpsyg.2017.02183
<内容>VRを用いた野球の打撃練習が実場面の打撃成績にどれだけ転移するかを調べている研究になります。アメリカの高校野球選手を対象に、1回45分のVR打撃練習を週2回を6週間実施させています。80名の選手を@コースは真ん中のみの3球種を一定速度でVR練習する群(VR練習群)、A様々なコースの3球種を各選手の打撃能力に応じた速度でVR練習する群(AdaptiveVR練習群)、B通常の野球の練習に加えて@A群と同じ量の追加打撃練習を実環境で行う群(Real練習群)、C通常の野球の練習のみを行う群(統制群)に振り分け、プリテスト、ポストテスト、1か月後の保持テストを実施させ、学習効果が検討されています。これらのテストはVR打撃テスト、実環境での打撃テスト、VRでのストライク・ボール判断テストで構成されています。結果としてポストテストや保持テストにおいて、VR打撃テストではAdaptiveVR練習群はVR練習群や統制群よりもヒットの数やストライクのスイング率、ボールの非スイング率の成績が高い、実環境での打撃テストではAdaptiveVR練習群は他の3群よりもヒットの数やボールの非スイング率の成績が高い、VRでのストライク・ボール判断テストではAdaptiveVR練習群は他の3群よりも球種判断の正答率が高いことが示されています。トレーニング後のリーグ戦の打撃成績や、80名の選手が5年後にどこに所属して野球を継続しているかの追跡調査も報告されており、AdaptiveVR練習群は他の3群よりも出塁率が高いことや、AdaptiveVR練習群はメジャーリーグのマイナーリーグやNCAA・NCJAAでプレーする割合が高いことも報告されています。

2019年6月17日(月) No.241
Paterson, G., van der Kamp, J., Bressan, E., and Savelsbergh, G. (2019) The differential effects of task difficulty on the perception of passing distance and subsequent passing action in a field hockey push pass task. Acta Psychologica, 197, 16-22. doi: 10.1016/j.actpsy.2019.04.014
<コメント>女性ホッケー選手を対象に15m先の円にボールを入れるパス課題を実施させる際に、円の直径(1.0m〜0.3m)を操作することで課題難度を変え、それによって距離知覚(視覚判断)がどのように影響を受けるかについて先ず実験1で検討されています。課題前と課題後の両時点で距離判断課題を実施しており、どちらにおいても課題難度が低くなるほど距離を近くに感じることが示されいます。実験2ではこのような距離知覚の歪みに行為が影響を受けるかについて、ボールを打ってから5m間の平均ボール速度を算出することで検討が行われています。簡単な課題と難しい課題間にボール速度の違いは見られず、これらの結果から知覚と行為の乖離を考察し、脳内の背側経路の活動の関与も指摘しています。

2019年6月10日(月) No.240
Lo, L.C., Hatfield, B.D., Wu, C.T., Chang, C.C., and Hung, T.M. (2019) Elevated state anxiety alters cerebral cortical dynamics and degrades precision cognitive-motor performance. Sport, Exercise, and Performance Psychology, 8, 21-37. doi: 10.1037/spy0000155
<内容>脳波計を用いてプレッシャー下でダーツ課題を行う際の脳活動を記録した研究になります。この研究では運動学習と脳波や、プレッシャー下での脳波に関する先行研究に基づいて、Fzと他の脳部位の共活性(coherence)、各脳部位の低α波帯域(8-10Hz)と高α波帯域(10-12Hz)の解析が行われています。21名が実験に参加し、ビデオ撮影されその映像が他者評価される、さらには課題成績によって最大で18ドルの報酬を獲得できるプレッシャー条件60試行では非プレッシャー条件の60試行に比べて、ダーツのリリース1.0〜0.5秒前のT3(左側頭)-Fz(前頭)間の共活性が増え、2.0〜1.5秒前のO2(右視覚野)の高α波帯域が増える(活性が低下する)という結果が得られています。ダーツ投げのパフォーマンスもプレッシャー下では低下しています。T3-Fz共活性とパフォーマンス指標の得点や変動誤差について非プレッシャー条件からプレッシャー条件にかけての差を求め相関分析も行われていますが、これらの指標間に有意な相関は見られていません。脳波の解析が部分的であるため、総合的な脳活動を評価すればパフォーマンスとの関連を見出せるのではないかと考察で書かれています。さらに、T3-Fzの共活性増は、リリース直前における意識的処理が関与し、それにより神経-筋ノイズが増幅していることや、右視覚野の活性減にはquiet eyeのような視覚処理がプレッシャー下では十分ではないことが考察されています。分析麻痺、ネガティブセルフトーク、外的注意などにも絡めた考察も書かれており、最後にT3-Fz共活性がプレッシャー下で高パフォーマンスを生むためのバイオフィードバックトレーニングのバイオマーカーになり得る可能性も言及しています。

2019年6月3日(月) No.239
Miles, L.K., Nind, L.K., and Macrae, C.N. (2010) Moving through time. Psychological Science, 21, 222-223. doi: 10.1177/0956797609359333
<内容>未来を空想したり、過去を振り返る思考を「メンタルタイムトラベル」や「クロンテスジア(chronesthesia)」と言います。この研究では20名の実験参加者に対して、15秒間4年前の日常生活や典型的な1日をイメージしてもらう群と15秒間4年後の日常生活や典型的な1日をイメージしてもらう群に分け、左膝に張ったマーカーの動作解析を行うことでメンタルタイムトラベルによって身体が前後に傾くかの検討が行われています。結果として、未来のイメージ群は15秒間で徐々に膝が前に出て、過去のイメージ群は15秒間で徐々に膝が後に移動することが示されています。イメージの質(ポジティブかネガティブか)も確認しており、群間に有意差がないことが報告されています。2ページの短報(short report)論文であり、今後の展望としてイメージする将来・過去の時点の違いを検討する必要性、被験者内計画で実験する場合にはイメージの順序の影響を考慮すること、イメージの鮮明性の関連について考察で書かれています。

2019年5月27日(月) No.238
Cromer, J. and Tenenbaum, G. (2009) Meta-motivational dominance and sensation-seeking effects on motor performance and perceptions of challenge and pressure. Psychology of Sport and Exersice, 10, 552-558. doi:10.1016/j.psychsport.2009.03.001
<内容>73名の大学生を対象に、センセーションシーキング(刺激希求)とパラテリック(paratelic: 高覚醒を楽しむ性格特性)を測定する質問紙に回答させ、これらの2つの特性が高いグループ12名と低いグループ12名に対して、10分間の書字課題(飽きやすい課題)と10分間のイライラ棒課題(挑戦的な課題)をそれぞれ3試行、非プレッシャー条件と観衆や報酬のあるプレッシャー条件で実施させています。センセーションシーキングとパラテリックの高い群はプレッシャー下での挑戦的な課題で高いパフォーマンスを発揮し、低い群は非プレッシャー下での両課題において高いパフォーマンスを発揮するという仮説検証を行っていますが、この仮説は支持されず、非プレッシャー条件とプレッシャー条件に関わらずセンセーションシーキングとパラテリックの高い群は低い群に比べて、飽きやすい課題では、書字数が多くエラーも多く、挑戦的な課題ではエラーが少ない傾向にあることが示されています。今後の課題としてサンプル数を増やすことやプレッシャーの強度を上げることも考察にて言及されています。

2019年5月20日(月) No.237
Bahmani, M., Diekfuss, J.A., Ataee, N., and Ghadiri, F. (2018) Visual illusions affect motor perfromance, but not learning in highly skilled shooters. Journal of Motor Learning and Development, 6, 220-233. doi: 10.1123/jmld.2017-0011
<内容>エビングハウス錯視図形を用いてターゲットのサイズ知覚が運動パフォーマンスに及ぼす影響を調べる研究が複数存在します。これらの研究では課題の初心者を対象としており、この研究では射撃課題を用いて、国際大会に出場経験のある熟練者に対して的の錯視とパフォーマンスの関係が調べられています。17名の射撃選手が実験に参加し、10試行のプリテスト(錯視図不使用)の後に、50試行の習得を大きく錯視する的もしくは小さく錯視する的のどちらかで行い、24時間後にポストテスト(錯視図不使用)を実施するという手続きをとっています。結果として、習得では的を大きく錯視する群は小さく錯視する群よりも射撃成績が有意に良かったですが、24時間後のポストテストでは差は消滅しています。サイズ知覚も習得では大きく錯視する群は小さく錯視する群よりも有意に大きく知覚していたのですが、ポストテストではその差がなくなっています。質問紙を用いて自己効力感の測定も行われており、習得、ポストテストともに上記と同じ結果が得られています。初心者を対象とした研究では、錯視図利用学習の効果としてポストテストでも差が得られている結果があるのですが、この研究の結果から熟練者では保持の効果が出ないと結論づけられています。

2019年5月13日(月) No.236
Gorgulu, R., Cooke, A., and Woodman, T. (ahead of print) Anxiety and ironic errors of perfromance: Task instruction matters. Journal of Sport and Exercise Psychology. doi: 10.1123/jsep.2018-0268
<内容>プレッシャー下において皮肉エラーが促進することを示した先行研究はいくつかありますが、これらの研究では閉鎖スキルが用いられており、この研究では転がってくるボールの色を判断し、キャッチするかスルーするかの開放スキルを用いてプレッシャー下での皮肉エラーについて実験検証が行われています。5つの実験から構成されており、実験1・2・4ではスルーしなければいけないときに「キャッチしてはいけない」の教示によってミス(キャッチしてしまうこと)が、他者比較や賞金によるプレッシャー条件では増えることが示されています。実験3・5ではこのような皮肉エラーが「ボールをスルーさせない」の教示によって抑制されることが示されています。プレッシャー下での皮肉エラーの生起やその対処に関する認知的な研究ではありますが、生理指標として心拍変動や筋活動も記録されています。

2019年5月7日(火) No.235
来間千晶・小川 茜・関矢寛史(早期公開中)競技中における気持ちが切れることの防止要因の検討―「気持ちが切れた」および「気持ちが切れなかった」現象の比較を通じて―.スポーツ心理学研究.doi: 10.4146/jjspopsy.2019-1814
<内容>競泳、ヨット、自動車、陸上、器械体操、アーチェリー、テニス、柔道、なぎなた、ラグビー、サッカー、バレーボール、野球に取り組む13名のスポーツ選手を対象に、試合中に気持ちが切れた時の状況、原因、心理状態、パフォーマンス・競技成績と、気持ちが切れそうになった状態から回復した試合の状況、心理状態、回復したきっかけ、パフォーマンス・競技成績を尋ねる半構造化面接を実施しています。面接によって得られた逐語記録を質的研究法によって演繹的に分析し、「気持ちが切れた現象」の原因、状態、試合後の反応、ならびに「気持ちが切れそうになったが回復した現象」の原因、状態、脱却するきっかけ、脱却した後の状態、試合後の反応に関するカテゴリーを構築しています。考察では、「気持ちが切れた」「気持ちが切れそうになったが回復した」のどちらにおいても状況や原因は変わりないことや、気持ちが切れることの防止要因として、応援や声かけなどの他者支援による社会的促進、さらにはセルフトークの活用による思考の転換などの関与が記述されています。

2019年4月22日(月) No.234
Gorgulu, R. (2019) An examination of ironic effects in air-pistol shooting under pressure. Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 4, 20. doi: 10.3390/jfmk4020020
<内容>してはいけないことをしてしまう皮肉過程理論で説明可能なパフォーマンスの低下が、プレッシャー下での射撃課題において生じることが示されています。57名の射撃選手を対象に、10mの射撃課題を練習15試行、非プレッシャー条件30試行、プレッシャー条件30試行実施させています。非プレッシャー条件とプレッシャー条件では1から10点の点数が書かれている円形の的の出来る限り中心(10点)を狙うことに加えて、円の右上1/4は0点になるため右上1/4のエリアには撃ってはいけないという教示が与えられています。プレッシャー条件では、最高得点を記録した選手には150ポンド(約24,000円)の賞金が用いられています。プレッシャー条件では非プレッシャー条件に比べて質問紙により測定した認知不安と身体不安が有意に増加し、心拍変動のばらつきも小さくなっており、心理面と生理面へのストレス喚起に成功しています。パフォーマンスに関しても、打ってはいけない右上1/4のエリアに打つ割合がプレッシャー条件では非プレッシャー条件に比べて多くなることが示されています。

2019年4月15日(月) No.233
Mesagno, C., Garvey, J., Tibbert, S.J., nd Gropel, P. (ahead of print) An investigation into handedness and choking under pressure in sport. Research Quarterly for Exersise and Sport. doi: 10.1080/02701367.2019.1588935
<内容>オーストラリアン・フットボールの選手を対象に、質問紙で利き手を調べ、左利き群13名、右利き群20名に分け、非プレッシャー下と観衆・ビデオ撮影・賞金・共同作業のプレッシャー下でそれぞれ15試行のキック課題を実施させ、利き手という個人特性とプレッシャー下でのパフォーマンスの関係が調べられています。有意傾向ではありますが、左利きの選手はプレッシャー下でもパフォーマンスを維持する一方、右利きの選手はプレッシャー下でのパフォーマンスを低下させるという分かりやすい結果が得られています。序論と考察では、利き手の違いと脳活動の違い(左利きは右脳を中心とした脳活動が強い)について多くの先行研究の知見を紹介することで仮説や結果の補強的記述がなされています。

2019年4月8日(月) No.232
Canal-Bruland, R., Balch, L., and Niesert, L. (2015) Judgement bias in predicting the success of one's own basketball free throws but not those of others. Psychological Research, 79, 548-555. doi: 10.1007/s00426-014-0592-2
<内容>オランダのU20男子バスケットボール代表選手8名を対象に、5つの距離条件でシュートをそれぞれ30試行打たせ(フリースローライン1条件、フリースローより短い距離2条件、長い距離2条件)、シュート直後に遮蔽ゴーグルやイヤホンノイズで視覚・聴覚情報を遮断したなかでシュートのINもしくはOUTの結果予測を実施させてます。合わせて他者が同様の5条件でシュートする際のINもしくはOUTの結果予測も実施させ、信号検出理論を活用することで結果予測の感度(d')や偏り(c)を求め、自己運動の結果予測と他者運動の結果予測における感度(d')や偏り(c)の違いが検討されています。感度(d')に関しては実施者(自己と他者)や距離(フリースローラインとその他の距離)に関して交互作用や主効果はありませんでしたが、偏り(c)に関しては自己運動のフリースローラインにおいてINの結果予測をしやすいことが示されいます。

2019年4月2日(火) No.231
Hasegawa, Y., Fujii, K., Muira, A., Yokoyama, K., and Yamamoto, Y. (ahead of print) Motor control of practice and actual storokes by professional and amateur golfers differ but feature a diatance-dependent control strategy. European Journal of Sport Science. doi: 10.1080/17461391.2019.1595159
<内容>プロゴルファー10名と高いレベルのアマチュアゴルファー10名を対象に、実験室内で0.9-3.0mのゴルフパッティング課題を実施させ、パターヘッド運動の動作解析を行うことで、課題直前に行う素振り(practice stroke)と実打(actual stroke)の特徴をキネマティクスの観点から抽出することを目的とした研究になります。素振りのキネマティクスを調べている研究は極めて少ないようで、ダウンスイング期の振幅、ピーク加速度、ピーク速度の出現タイミング、インパクト時の速度を算出し、振幅やインパクト速度はスキルレベル間や素振りと実打の差がないことが示されています。ピーク加速度に関しては短い距離において素振りは実打よりも、アマチュアはプロよりも加速度が大きく、ピーク加速度のタイミングはプロはアマよりも、実打は素振りよりも出現タイミングが遅いことなども示されています。その後にインパクト速度によってどれほどパッティング距離の正確性を推定できるかの分析もプロとアマチュア20名をまとめて行われており、素振りのインパクト速度で距離が比例するなかで距離が長くなるほど素振り速度が速くなるタイプと遅くなるタイプ、素振りのインパクト速度と距離が関係しないタイプに分けられることも報告されています。素振りのインパクト速度と距離が関係しないタイプはパッティング距離が長くなるほど素振りのインパクト速度で距離が比例するタイプよりもパッティングの正確性が低下することも示されています。

2019年3月26日(火) No.230
de Fockert, J.W. and Wu, S. (2009) High working memory load leads to more Ebbinghaus illusion. European Journal of Cognitive Psychology, 21, 961-970. doi:10.1080/09541440802689302
<内容>エビングハウス錯視図形を用いて、1桁の数字記憶と6桁の数字記憶を錯視図形を見る前に行うことで、ワーキングメモリに対する負荷が錯視に及ぼす影響が調べられています。エビングハウス錯視図形の小さく見える方の中心円の直径を92〜120%の8条件で可変し、1桁の数字記憶条件40試行、と6桁の数字記憶40試行設け、各試行ではどちらの円が大きく見えるかの2選択反応を行わせています。結果として、6桁条件では1桁条件よりも大きく見える円がより大きく見える(錯視が促進)することが示されています。考察では、ワーキングメモリに負荷がかかると錯視が減衰するという予想に反してこのような結果が得られた理由として、ワーキングメモリに負荷がかかると中心円に対する注意が散漫になり、その分、周辺円に対する注意が強くなることで中心円と周辺円の対比が強まり錯視が促進する可能性が記述されています。

2019年3月18日(月) No.229
Yatabe, K., Fujiya, H., Yui, N., et al. (2015) Effects of neuroticism on partial and whole body reactions under stress. Journal of Sports Science, 3, 155-164.
<内容>他者に見られるストレス状況下において指でのボタン押し(partial body)による単純及び2選択反応課題、ジャンプによる全身移動(whole body)の単純及び2選択反応課題を実施させ、さらには神経症傾向を調べる質問紙(Guifold Personality Inventory)にも回答させることで、神経症傾向と全身及び身体一部の反応時間の関係が調べられています。2選択反応時間と単純反応時間の差で表される弁別時間(discriminative time)に関して、神経症傾向が高い方が低いよりもボタン押し課題においては反応時間が遅いことが示されています。しかし、全身運動の2選択反応課題においては神経症傾向が高い方が低いよりも反応時間が早いことも報告されています。

2019年3月12日(火) No.228
Canal-Bruland, R., and Schmidt, M. (2009) Response bias in judging deceptive movements. Acta Psychologica, 130, 235-240. doi: 10.1016/j.actpsy.2008.12.009
<内容>ハンドボール選手がボールを投げる(シュート)もしくは投げるふり(フェイント)をする動画に対して、それらの動画をリリースの1コマ前で遮蔽し、投げるかフェイントかの判断の正確性を調べている実験になります。ドイツの男子ハンドボール4部リーグのフィールドプレーヤー50名、ゴールキーパー25名、ハンドボール初心者50名の3群を設け、90試行の映像(45試行がシュート、45試行がフェイント)の意思決定課題を実施しています。信号検出理論を用いて選択感度(d')と反応バイアス(β)を算出し3群比較が行われており、初心者に比べると経験者のフィールドプレーヤーとゴールキーパーの選択感度(意思決定の正確性)は高く、反応バイアスに関してはゴールキーパーはフィールドプレーヤーや初心者よりもフェイントに対する反応バイアスが高いことが示されています。ゴールキーパー特有の保守的な方向(conservation direction)への意思決定として考察がなされています。

2019年3月5日(火) No.227
Gray, R. (2010) Expert baseball batters have greater sensitivity in making swing decisions. Research Quarterly for Exercise and Sport, 81, 373-378. doi: 10.1080/02701367.2010.10599685
<内容>野球投手のCGから投じられる様々な速度と高さのボールに対してバットを振るもしくは振らないの行動を取り、ストライクとボールの正確な判断が出来ているか否かについて調べている研究になります。大学野球部員12名と大学野球部には所属していない野球経験者12名が実験に参加し、210試行の課題を行わせています。信号検出理論を用いて選択感度(d')を算出し、大学野球部員は非野球部員に比べて感度が有意に高いことや、野球部員の選択感度とリーグ戦打率との正の相関、野球部員のfalse alarm(ボールなのに振ってしまう)率とリーグ戦三振数の正の相関やリーグ戦四球数の負の相関、野球部員と非野球部員の両方において選択感度とこの実験での安打数との正の相関が示されています。

2019年2月18日(月) No.226
Takeuchi, T., Ikudome, S., Unenaka, S., Ishii, Y., Moro, S., Mann, D.L., and Nakamoto, H. (2018) The inhibition of motor contageion induced by action observation. PLOS ONE, 13(10): e0205725
<内容>ハンマー投げ選手6名を対象に、他の選手が投げる動画を視聴させた後にハンマー投げを実施させ、映像の選手の投げた方向(左右)にハンマー投げが偏向する運動伝染(motor contagion)が生じるかについて検討されています。2つの実験で構成されており、実験1では、動画の選手のフォームについて、足のステップで投げる方向を決めるため見ている選手は結果予測がしやすいEP(easy prediction)条件と、体幹のひねりで投げる方向を決めるために結果予測がしにくいHP(hard predntion)条件を設け、EP条件の方が運動伝染が生じやすいが、キネマティクスを調べると動作は伝染していないことが示されています。また、実験2では、動作に注意を向かせるセルフトークを活用することで運動伝染が防げることも示されています。

2019年2月12日(火) No.225
小川 茜・遠藤拓哉・関矢寛史(早期公開中)選択反応課題において協力関係にある2者間の躊躇や衝突はなぜ起きるのか?スポーツ心理学研究.doi: 10.4146/jjspopsy.2018-1805
<内容>スポーツにおけるペアやチームでの実力発揮の基盤となる個人間協応や集団協応の研究は国内外で多数行われていますが、この研究では2者での協応運動のパフォーマンスにおいて弊害となる躊躇や衝突の生起要因(刺激までの距離や刺激の位置)の検討が、2者での光刺激に対する系列反応課題も用いた実験による量的検証と、実験後に実験参加者にインタビューすることによる質的検証によって行われています。2つの実験で構成されており、実験1では20名(10ペア)を対象とし、衝突や躊躇に刺激までの距離や刺激の位置は関連しませんでしたが、実験2では、12名(6ペア)を対象とし、2者の中央列に呈示した刺激に対して躊躇行動が多くなることを実証しています。さらに、実験1と実験2のインタビューによる言語データをKJ法を用いて分類し、躊躇や衝突の生起理由として15の理由が抽出されています。

2019年2月5日(火) No.224
島 圭介・島谷康司(2019)生体信号と電気刺激で運動学習を支援する.体育の科学,69(1),27-31.
<内容>今月号の体育の科学では『先端技術とスポーツ』の特集がされており、その中の1編の解説論文になります。ヒト-ヒトインタフェースとして、あるヒトの運動時の筋電図や脳波などの複数の生体信号をニューラルネットに入力し、確率ニューラルネットから動作意図を推定し、動作意図と判断されれば、機能的電気刺激(FES: Functional Electrical Stimulation)を用いて他者の筋に電気刺激を与えるることで、あるヒトと同じ関節運動を誘発できるシステムが紹介されています。そしてこのシステムのスポーツやリハビリテーションへの将来的な適用可能性についても言及されています。

2019年1月29日(火) No.223
Mesagno, C., Beckmann, J., Wergin, V.V., and Gropel. P. (2019) Primed to perform: Comparing different pre-performance routine interventions to improve in closed, self-paced motor tasks. Psychology of Sport and Exercise, 43: 73-81. doi: 10.1016/j.psychsport.2019.01.001
<内容>プレ・パフォーマンス・ルーティンとして、右脳を中心とした脳の適切な活性を狙い、左手を握ることがプレッシャー下でのパフォーマンス発揮に有効であることを実証した研究がこれまでに2件報告されています。この研究でも、左手を握るプレ・パフォーマンス・ルーティンの有効性が、実験室での両手ジョイスティック操作による軌跡追跡運動課題と(実験1)、ボウリング上でのボウリング投げの正確性評価や試合成績(実験2)で検証されています。両実験において左手を握るルーティンを行うhandgrip群、対処法の介入を行わない統制群、外的注意や3回の深呼吸などをプレ・パフォーマンス・ルーティンとして使用するPPR群、PPRとHandgripの両方を行う群(combined群)の比較が行われています。結果として、実験1では習得試行後の非プレッシャー条件保持テストにおいて、handgrip群、PPR群、combined群の3群がcontrol群よりも正確に課題が行われています。しかし、TSST(Trier Social Stress Test)を負荷したプレッシャー条件では4群間の有意差は得られていません。実験2では、ルーティンの対処法介在後のポストテストにおいて撮影したビデオの公開や評価を教示したプレッシャーを負荷した中でボーリング投げ課題を実施させ、実験1と同様にhandgrip群、PPR群、combined群の3群がcontrol群よりも正確に投じられることが示されています。試合での成績に関しては事後テストで群間差は得られませんでした。これらの結果から考察では、handgripをプレ・パフォーマンス・ルーティンとして活用する利点として、PPR群のようなルーティン構築までの教育や取り組みは長い時間を要するが、そのような長い時間をかけずに実施できることが提案されています。

2019年1月23日(水) No.222
Palmer, K., Chiviacowsky, S., and Wulf, G. (2016) Enhanced expectancies facilitate golf putting. Psychology of Sport and Exercise, 22, 229-232. doi: 10.1016/j.psychsport.2015.08.009
<コメント>1.5m先の2×2cmの四角形のターゲットに対して正確にボールを停止させるゴルフパッティング課題において、その周囲に直径7cmの円を置きその中に入れることを求めた群(small群)と、直径14cmの円を置きその中に入れることを求めた群(large群)の10試行×5ブロックの練習中のパッティングの正確性(ターゲットからの誤差)や、1日後に周囲円を取り、ターゲットのみに対して1.5mのパッティングを行う保持テスト、距離を1.8mに伸ばして課題を行う転移テストでの比較が行われています。練習、保持テスト、転移テストのいずれにおいてもlarge群がsmall群に比べて正確性が高いことが示されています。考察では、このような結果が得られている理由として、large群は自信を持ちながら課題を行う中で効率的な筋活動に伴う自動化された動作を出せている可能性や、ポジティブな感情に伴うドーパミンの放出が関連している可能性が書かれています。この研究の問題点として、パフォーマンスのみの従属変数のため、自己効力感やポジティブ感情などの心理指標や、キネマティクスなどを今後の研究では測定する必要性が提案されています。