福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2020年12月15日(火) No.302
Maquestiaux, F., Arexis, M., Chauvel, G., Ladoy, J., Boyer, P., and Mazerolle, M. (2020) Ebbinghaus visual illusion: no robst influence on novice golf-putting perfromance. Psychological Research. doi: 10.1007/s00426-020-01298-0
<内容>ゴルフの初心者を対象にエビングハウス錯視図形の中心円をゴルフのカップと見立て、ゴルフパッティング課題を行わせる4実験が報告されています。実験1aでは、カップまでの距離を3.5mとし、カップのサイズが5.5cmと11cmの2つの条件を設け、カップのサイズ知覚とパッティングの成功数ともに大きく見えるカップと小さく見えるカップ間の差がないことが示されています。実験1bでは課題難度を下げるためにカップまでの距離を2mに変えて実験が行われていますがカップのサイズ知覚とパッティングの成功数の結果は実験1aと同じでした。実験2(距離2mでカップサイズ11cm)や実験3(距離1mでカップサイズ11cm)では大きく見えるカップと小さく見えるカップに両方を提示したなかで実験を行っており、そうすることでサイズ知覚には条件間の差が見られましたが、それでもなおパッティングの成功数に関しては条件間の差が見られませんでした。パッティングのパフォーマンスにも錯視の影響が出ることを示している複数の先行研究の追試実験にはなりますが、先行研究とは異なる結果が得られており、その理由としてこの研究では初心者が対象であったこと、さらにはパフォーマンスの変化を生むまでの自己効力が生じなかったことなどが考察されています。さらに、初心者の運動パフォーマンスは知覚と運動が乖離していることを提案し、初心者には錯視を利用した練習が効果がない可能性も指摘しています。

2020年12月7日(月) No.301
Iwatsuki, T., and Otten, M.P. (2020) Providing choice enhances motor performance under psychological pressure. Journal of Motor Behavior. doi: 10.1080/00222895.2020.1833827
<内容>運動学習や即時パフォーマンスに対する自律性(automony)や自己選択(choice)の効果を調べている研究の中で、プレッシャー下でのパフォーマンスを対象とした研究がないことを指摘し、非利き手でのボール上手投げ課題を用いて、プレッシャー下でのボールを投げるときのボールの色の選択が投げの正確性に及ぼす影響が調べられています。5.5mの距離で30試行の練習後に、ビデオ撮影や他者評価のプレッシャー条件を設け、同距離の5.5mの距離でのプレッシャーテスト10試行と、距離を6.5mに伸ばしたプレッシャー転移テスト10試行を実施させています。実験参加者34名を両プレッシャーテストでのボールの色を赤・黄・青の中から自己選択する群と、実験者が強制的に選択する統制群が設けられています。結果として30試行の練習やプレッシャーテストでのパフォーマンスにが群間差が見られませんでしたが、プレッシャー転移テストでは群間差が見られ、自己選択群が統制群よりも高い正確性であったことが示されています。この結果から、自律性や自己選択は「あがり」の対処に貢献することを主張し、とくに新規で不慣れな環境でのパフォーマンスに効果がある可能性を提案しています。また、そのメカニズムとして制御感(feeling of control)や自己効力(self-efficacy)、期待(expectation)が関与していることも推察されています。最後に、この研究の限界や今後の展望として、上記の心理指標やプレッシャーの操作チェックの測定がなされていないこと、どのタイプの選択が良いかをさらに検討すること、心理て面とともに神経科学的側面にも興味があることなどが書かれています。

2020年11月13日(金) No.300
Schweickle, M.J., Swann, C., Jackman, P.C., and Vella, A. (2020) Clutch perfromance in sport and exercise: a systematic review. International Journal of Sport and Exercise Psychology. doi: 10/1080/1750984X.2020.1771747
<内容>スポーツにおいて重要な場面で高パフォーマンスを発揮することをクラッチといいます。このクラッチに関する27文献をまとめた総説論文になります。これらの各研究のデザインは、プロスポーツなどのデータを活用したアーカイブ研究、プレッシャー場面でのパフォーマンスを検証する実験、アスリートが試合場面を回想する質的研究など多岐に渡っており、まずは各研究でのクラッチの定義について概説され、パフォーマンス、状況、能力、心理状態の4側面からの定義があることが書かれています。さらにクラッチの理論的背景に関して述べられている研究もまとめており、自己焦点、注意散漫、自己呈示などの注意理論、フロー理論、経済理論などがあることが触れられています。そして最後にクラッチ研究の今後の展望として、プレッシャーの心理的要素を研究に取り込むこと、どれほどのパフォーマンスの向上でクラッチと言えるかについて検討すること、主観と客観の両側面からパフォーマンスの評価を行うことなどが書かれています。また、このレビューの対象論文の網のかけ方が「クラッチ」をキーワードとしているため、「プレッシャー」下でのパフォーマンスに関する研究の成果も含める必要性についても提案されています。

2020年11月2日(月) No.299(院生・スタッフゼミでの廣光氏の紹介論文)
Aiken, C.A., Post, P.G., Hout, M.C., and Fairbrother, J.T. (2020) Self-controled amount and pacing of practice facilitate learning of asequential timing task. Journal of Sports Sciences, 38, 405-515. doi: 10.1080/02640414.2019.1704498
<内容>5つの数字のボタンを2550msと1050msの時間で押すことを目標とするボタン押しシーケンス・タイミング一致課題を用いて、練習するブロックの数を自己決定する練習量自己調整と、試行前の準備時間や試行後のフィードバック時間を自己決定するペース自己調整の効果が検討されています。60名を対象とした実験内で練習量自己調整群とペース自己調整群を設け、これらのくびき群との4群比較を行い、タイミング一致の正確性が練習量とペースに関わらず自己調整の両群はくびき群に比べて練習期や10分後と24時間後の保持テスト、異なる時間を目標とする転移テストで成績が良いことが示されています。保持テストや転移テストにてボタン押し課題をスタートするまでの反応時間が練習量自己調整群はペース自己調整群よりも早いことも示されています。運動課題成績に対して練習量自己調整とペース自己調整の差は示されませんでしたが、内発的動機づけの質問紙に実験後に回答させたところ、各因子において練習量自己調整群がペース自己調整群よりも高値であり、動機づけの観点からは練習量調整の方が効果がある可能性について今後検討していくことが展望として書かれています。

2020年10月26日(月) No.298
Shah, E.J., Choe, J.Y., and Lee, M.J.C. (2020) Anxiety on quiet eye and performance of youth pistol shooters. Journal of Sport and Exercise Psychology, 42, 307-313. doi: 10.1123/jsep.2019-0174
<内容>クローズドスキルにおいて動作開始前の固視時間(QE: Quiet Eye)の長さが高パフォーマンスに関連することを示す知見が大人や10歳以下の子供を対象とした実験では数多く蓄積されていますが、この研究では12歳以上のユース世代を対象とした研究がないことを指摘し、ピストル射撃を実施している10名のユース選手(平均13.3歳)を対象に、他者比較、他者評価、時間圧などが存在する高プレッシャー条件とそれらがない統制条件で10試行の射撃を行う際の不安、自信、皮膚電位抵抗、QE時間、パフォーマンスの分析が行われています。結果として、認知不安は高プレッシャー条件で増加する傾向が見られ、QE時間に関しては失敗試行では成功試行に比べて、さらには高プレッシャー条件では統制条件に比べて短くなる傾向にありましたが、統計的な有意差までは認められませんでした。これらの結果から著者らは、先行研究で明らかになっているような大人や10歳以下の子供のQE時間とパフォーマンスの関係はユース世代では生じない可能性があり、この世代における運動時の視線行動の範囲や時間の変動の大きさが理由ではないかと推察されています。

2020年10月19日(月) No.297(院生・スタッフゼミでの柄木田氏の紹介論文)
Revankar, G.S., Ogasawara, I., Hattori, N., Kajiyama, Y., Shimoda, S., Garcia, A.C., Nakano, T., Gon, Y., Kawamura, S., Nakata, K., and Mochizuki, H. (preprint) Defining movement instabilities in yips golfers using motion capture and muscle synergies. doi: 10.1101/2020.08.19.20178475
<内容>ゴルフパッティングのイップスの症状を有するプロゴルファー15名を対象に、実験室内で2.2mのパッティングを40試行実施させ、実験参加者の主観によってイップスが生じた試行と生じなかった試行に分けて、それらの試行間でのパターの動作解析、両腕の上腕及び前腕の筋活動を比較しています。とくにこの研究では、非負荷因子分解(NNMF: Non-Negative MAtrix Factorization)を用いて各腕の筋活動について共変動の要素を抽出し、筋シナジーの空間パターン(W)と時間パターン(C)から複数筋の協働の解析がなされています。動作と筋シナジーともにダウンスイング局面の解析が詳細になされており、結果ではイップスが生じた試行では生じなかった試行に比べてダウンスイング速度が速くなることや筋シナジーのWやCの違いが生じた典型例について紹介がされています。ゴルフパッティングのイップスに関するこれまでの研究では前腕や上腕の複数の筋間の共収縮が高いことを報告する論文が複数ありますが、それとともにこの研究から空間と時間の筋シナジーから症状を導く運動制御が明らかになる可能性があることを提案している研究と考えられます。

2020年10月12日(月) No.296
Spittle, M., Kremer, P., and McNeil, D.G. (2010) Game situation information in video based perceptual decision making: The influence of criticality of decisions. Physical Education and Sport, 8, 37-46.
<内容>バスケットボールの未経験者から経験者までの159名を対象に、撮影された攻撃場面の映像を停止し、その後のプレーに関してドリブル、パス、シュートの3選択の意思決定を行う課題を実施させています。想定する試合状況に関して、残り時間1分以内かつ得点差も2点以内の高重要度条件と残り時間5分以上かつ得点差5点以上の低重要度条件を設け、各条件で21試行の意思決定課題を行っています。3名のコーチの評価によって3名とも同じ選択肢を選んだ動画を採用し、3名のコーチの選択を正答としています。そして、高重要度条件は低重要度条件に比べてパスの選択率が高まり、シュートの選択率が低くなることが示されています。さらに実験参加者の主要なスポーツ経験を尋ね、チームスポーツ経験者ほど個人スポーツ経験者よりもパスの選択率が高まり、シュートの選択率が低くなることも分析されています。スポーツの試合状況の文脈によって意思決定がリスク回避の方向へバイアスがかかることを実証した研究といえます。

2020年10月5日(月) No.295(院生・スタッフゼミでの三森氏の紹介論文)
菊政俊平・國部雅大(2020)試合状況に関する情報が野球の捕手におけるプレー指示場面での状況判断に及ぼす影響.体育学研究,65,237-252.doi: 10.5432/jjpehss.19089
<内容>大学硬式野球の捕手11名を対象に、ノーアウトランナー1塁の状況でピッチャーが捕球するバントゴロを1塁もしくは2塁のどちらに送球する指示を出すかの意思決定に関する研究になります。1回表で同点、9回表で1点差のビハインド、9回表で同点、9回表で1点差をつけて勝っている、以上の4つの状況を想定し、これらの文脈が意思決定にどのように影響するかについて検討されています。実験は、ビデオ撮影されたバント処理映像(投手は2塁に送球し、アウトとなった10映像とセーフになった10映像)を見ながら、2塁に投げる指示を出すか、1塁に投げる指示を出すかの意思決定をキーボード上のボタン押しで行っています。そして、各条件20試行に対して判断の正確性、判断時間、信号検出理論による信号検出力(意思決定の精度)と反応バイアス(意思決定がリスク志向かリスク回避か)が求められています。結果として、判断の正確性、判断時間、信号検出力に4条件間の差は見られませんでしたが、反応バイアスに関しては9回ビハインド条件において1回同点条件や9回勝っている条件に比べて有意にリスク志向な意思決定に偏向することが示されています。さらに、実験後の言語報告から各条件での意思決定がリスク志向であったかリスク回避であったかを2名の評価者で分類し、反応バイアスを比較したところ、言語報告通りにリスク回避方略者は1塁に投げさせるリスク回避の意思決定を選択し、リスク志向者は2塁に投げさせるリスク志向の意思決定を選択したことも報告されています。スポーツ場面での要約情報を利用した意思決定、文脈に伴う意思決定の違いは意識的であることなどが考察されています。

2020年9月28日(月) No.294
Adler, C.H., Crews, D., Hentz, J.G., Smith, A.M., and Caviness, J.N. (2005) Abnormal co-contraction in yips-affected but not unaffected golfers: Evidence for focal dystonia. Neurology, 64, 1813-1814.vdoi: 10.1212/01.WNL.0000162024.05514.03
<コメント>パッティングイップスを有するゴルファー10名と有しないゴルファー10名を対象に、3〜8フィートのパッティング75試行実施させ、パッティング動作開始6秒前からインパクト2秒後までの左右の大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、手関節屈筋、円回内筋、長母子屈筋、手関節伸筋、短母子外転筋、小指外転筋の筋電図(EMG)を記録しています。インパクト200ms前の手関節屈筋と手関節伸筋の共収縮について、イップス群は10名中5名が生じたが非イップス群は10名中0名であったことが報告されています。これらの5名はその他の5名よりも年齢が高く、ハンディキャップも大きく、イップスの罹患期間も短く、ミスパットや誤差も多い傾向にあったことも示されています。さらに、正中神経に2.2Hzで電気刺激を与え、体性感覚誘発電位(SEP)を記録し、イップス群は非イップス群に比べて正中前頭部(Fz)や正中中心部(Cz)から導出したN30成分が大きく、大脳皮質感覚野由来の皮質の興奮性が大きいことも示されています。共収縮やSEPの大きさはジストニアとの関連があるため、ゴルフパッティングのイップスはジストニアであることを提案しています。

2020年9月14日(月) No.293
Adler, C.H., Crews, D., Kahol, K., Santello, M., Noble, B., Hentz, J.G., and Caviness, J.N. (2011) Are the yips a task-specific dystonia or "golfer's cramp"? Movement Disorders, 26, 1993-1996. doi: 10.1002/mds.23824
<内容>ゴルフパッティングのイップスを有するゴルファー25名(主観での判断)と有しないゴルファー25名を対象に、ゴルフコースのグリーン上にて6フィートのストレートラインパット25試行と左右に曲がるラインのパット50試行を実施させ、その際の両手前腕の筋電図や手の動作解析を行われています。全参加者50名のうち、17名において全70試行中3試行以上において手の痙攣や捻転が生じており、これら17名をイップス群とし、その他の33名を非イップス群として群間比較が行われています。そして、手関節屈筋と手関節伸筋の共収縮(パッティング中に手関節屈筋と手関節伸筋の筋放電値のピークが50ms以内に生じた試行)が生じる割合が大きい傾向があり、さらには手首の回内/回外運動の角変位が大きいことが示されています。これらの結果からこれらの指標がゴルフパッティングのイップスの定量的評価に利用可能であることも提案されています。

2020年9月7日(月) No.292(院生・スタッフゼミでの三森氏の紹介論文)
Nakamoto, H., Mori, S., Ikudome, S., Unenaka, S., and Imanaka, K. (2015) Effects of sport expertise on representational momentum during timing control. Attention, Perception, & Psychophysics, 77, 961-971. doi: 10.3758/s13414-014-0818-9
<内容>動的物体の視知覚に関して、その物体が移動中に消失したときに実際の消失位置よりも先の位置で消失したと錯覚するRM(Representational Momentum)という現象があります。この研究では、野球の経験者9名と初心者9名を対象に、高速および低速で近づいてくる移動物体(LEDランプ)に対するRMの比較や、その物体に対するタイミング一致パフォーマンスとRMの関係が検討されています。経験者は初心者に比べてRMの度合いが大きいことが示されています。さらにタイミング一致のパフォーマンスについては、低速条件では群間差はありませんでしたが、高速条件では初心者において経験者よりもタイミング一致が遅れました。そして、経験者と初心者ともに高速条件ではタイミング一致課題が遅れない人ほどRMも大きく、経験者においては低速条件での同様の結果も報告されています。優れた捕捉行為パフォーマンスにはこのような視知覚機能が貢献することが実証されています。

2020年8月31日(月) No.291
Marquardt, C. (2009) The vicious circle involved in the development of the yips. International Journal of Sports Science & Coaching, 4, 67-88. doi: 10.1260/174795409789577506
<内容>ドイツのアマチュアゴルファー264名を対象に4mのパッティング課題を実施させ、インパクト時のパターフェイスの動きに対する主観的知覚を基に、重度イップス群(19名)、軽度イップス群(21名)、その他を統制群(224名)に分けて、アドレス時のフェース面の角度、バックスイング時間、ダウンスイング時間、インパクト時のボールの打ち出し角度、フェース面の角度・速度・軌跡などを算出し、7試行の平均値と変動性について群間比較が行われています。重度イップス群は統制群に比べて、インパクト時のフェース面の角度の変動性、回転運動速度のの平均値と変動性、円弧の軌跡の変動性が大きく、インパクト時のボールの方向性を決定づける指標に影響がでることが指摘されています。一方で、軽度イップス群は統制群に比べてこれらの指標に差はなく、バックスイングの時間が長くなり、ダウンスイング時間の変動性が大きいことが示されています。軽度イップス群のこのような動作変化については、フィードバック制御への依存度が高まっていることや、動作制御への意識が高まっていることが理由として考察されています。また、4時間の動作改善トレーニングによってイップスの症状が改善された事例も図を交えて紹介されています。

2020年8月24日(月) No.290
Adler, C.H., Temkit, M., Crews, D., Mcdaniel, T., Tucker, J., Hentz, J.G., Marquardt, C., Abraham, D., & Caviness, J.N. (2018) The yips: Methods to identify golers with dystonis etiology/Golfer's cramp. Medicine & Science in Sports & Exercise, 50, 2226-2230. doi: 10.1249/MSS.0000000000001687
<内容>10フィートのパッティングを両手で10試行と片手で10試行実施させ、それらのパッティング動作の動画を基に専門家の観察評価によって、痙攣や捻転が出現する5名のゴルファー(群1)、ひっかけやプッシュのようにインパクト時に動作のばらつきが大きいゴルファー9名(群2)、その他のゴルファー13名(群3)に群分けしています。そして、上腕二頭筋、上腕三頭筋、手関節屈筋、手関節伸筋のEMG、手腕とパターのキネマティクスの解析が行われています。結果として、両手パター時の左右の手首の角速度の変動性、パターの回転運動の加速度の変動性、インパクト期のパターの回転運動の角速度の変動性に群間差があり、群1がこれらの値が最も高かったことが示されています。イップスが出現していると観察された試行数に関しては、群1は両手時と片手時で80%以上の試行で出現していますが、群2に関しては両手時で30%でしたが片手時で80%以上まで増えています。群3は両手時は0%でしたが、片手時は約40%でした。EMGに関しては共主縮の出現し効率が報告されており、群1は両手時70%で片手時60%、群2は両手時12%で片手時52%、群3は両手時0%で片手時9%でした。これらの結果から両手でのパッティング時に痙攣や捻転の試行が多く、共収縮が生じる試行も多く、さらには動作の変動性も大きいゴルファーはジストニア系のイップス(群1)であると評価できることを提案しています。さらに心因性のイップス(群2)に関しては動作の変動性は大きいが、両手の場合は共収縮やミスがでにくいことを指摘し、片手のみでパッティングをするときに共収縮やミスが出る場合はジストニア系イップスの予備軍として考えられることも提案されています。

2020年8月14日(金) No.289
藤野正寛・梶村昇吾・野村理朗(2015)日本語版Mindful Awareness Scaleの開発および項目反応理論による検討.パーソナリティ研究,24,61-76.doi: 10.2132/personarity.24.61
<内容>マインドフルネスを測定する尺度として国外ではMindful Attention Awareness Scale(MAAS:Brown and Ryan, 2003)とFive Facet Mindfulness Questionnaire(FFMQ:Baer et al., 2006)があり、FFMQに関しては日本語版が開発され公表されているのに対し、MAASに関しては複数の研究で開発が実施されているものの日本語の項目のバックトランスレーションが未実施であることなどのいくつかの問題点を指摘し、この研究では日本語版MMASの開発を目標に質問項目の信頼性と妥当性の検討が行われています。18歳から84歳の男女408名(分析対象は377名)に対する15項目の原版MAASの日本語訳への回答の結果から、探索的因子分析によって1因子構造であり、非常に高い内的整合性であることも確認されています。さらに、TIPI(Ten Item Personarity Inventory)の開放性因子との非常に弱い正の相関、RRQ(Rumination-Reflection Questionnaire)の反芻因子との中程度の負の相関、CFQ(Cognitive Failure Questinnaire)のアクションスリップ因子との強い負の相関、TIPIの神経症傾向因子との中程度の不の相関、STAI(Stait-Trait Anxiety Inventory)の特性不安尺度との中程度の負の相関、FNE(Fear of Negative Evaluation Scale)との中程度の負の相関、SIAS(Social Inventory Anxiety Scale)との中程度の負の相関、SPS(Social Phobia Scale)との中程度の負の相関、RSES(Rosenberg Self-Esteem Scale)との中程度の負の相関、SRDR(Self-Rating Depression Scale)との中程度の正の相関を示し、構成概念妥当性の高さも報告されています。また、項目反応理論(IRT:Item Response Thery)分析によってマインドフルネスが非常に低い人や高い人においても測定精度が高いことも確認されています。

2020年8月5日(水) No.288
服部憲明(2020)イップスはなぜ起こるか.臨床神経科学,38,768-770.
<内容>「スポーツの神経科学」というテーマの特集号内での解説論文になります。イップスとは何かについて、TypeT(神学的な要因)とTypeU(精神的な要因)、さらにはその組み合わせのTypeVがあることを解説し、さらにはプレー動画や筋電図からのイップスの診断についても触れられています。また、ゴルファーを対象としたイップスの疫学調査や、ジストニアの発症機序がイップスの機序に関与する可能性も提案されていますが、音楽家のジストニアの発症率は約1%であり、ゴルファーのイップス率の多さはTypeUやTypeVの多さで説明できるのではないかと推察されています。最後にイップスの治療として、反復練習への注意、sensory trick、認知行動療法、薬物療法、脳刺激を用いた報告がまとめられています。

2020年7月27日(月) No.287
Hasegawa, Y., Sumi, K., & Miura, A. (ahead of print) State anxiety and low-frequency heart rate variability in high-level amateur golfers while putting under pressrue. International Journal of Sport and Health Science. doi: 10.5432/ijshs.201935
<内容>23名のゴルファーを対象に、実験室でのゴルフパッティング課題を統制状況とプレッシャー状況(12名の観衆と成功率80%以上で2000円の報酬)で実施させ、各状況でのパッティング成績を基にパフォーマンスを維持もしくは向上させたclutch群と低下させたchoking群に2分しています。そして、心拍変動(HRV)を記録し、統制状況からプレッシャー状況にかけてのHRVの低周波数帯域(LF)、高周波帯域(HF)、それらの比(LF/HF)の変化率に対して群間比較が行われています。プレッシャー下での運動パフォーマンスの低下を注意から説明する多くの先行研究が引用されており、これらは大きく分けると注意散漫理論と明示的モニタリング理論の2つががありますが、外的環境の変化が少ないゴルフパッティングのような課題は明示的モニタリング理論で説明しやすく、明示的モニタリングを定量化する心理生理指標としてHRVのLF帯域があることが序論では説明されています。状態不安や心拍数の値から、この研究の独立変数としてのプレッシャー操作の有効性が確認されています。さらに、プレッシャー下でのゴルフパッティングでパフォーマンスを低下させるchoking群はHRVのLF帯域が減少するという仮説が提案され、この仮説の実証がなされています。プレッシャー下での注意とパフォーマンスに関する一連の研究の中でHRVを活用した1つの新奇な提案を明示した論文と言えます。

2020年7月15日(水) No..286
Carney, D.R., Cuddy, A.J.C., & Yap, A.J. (2010) Power posing: Brief nonverval displays affect neuroendcrine levels and risk tolerance. Psychological Research, 21, 1363-1368. doi: 10.1177/0956797610383437
<内容>52名の実験参加者が、1分間、手を拡げ空間を大きく使う2種類のハイパワーポーズを実施する群と、手を胸の前で組み縮こまった姿勢をとる2種類のローパワーポーズを実施する群に分かれ、その前後にテストステロンとコルチゾールを測定しています。また、両ポーズを1分間とった後に2ドルが50%の確率で倍の4ドルにも増え、逆に0ドルにもなってしまうギャンブル課題を実施するかしないかの割合も調べています。結果として、ハイパワーポーズ群はローパワーポーズ群に比べてテストステロンの増加率とコルチゾールの減少率が大きいことが示されています。また、ギャンブル課題の実施率も高いことも示されています。パワーに関する主観も尋ねており、ハイパワーポーズを行うことでローパワーポーズよりも値が高いことも報告されています。パワーポーズというシンプルな行為によって、日々の心理、生理、行動が変わることや、心理コンサルタントにも有効な手法であることが考察されています。さらには、長期的な健康に対しても貢献することが最後に提案されています。

2020年7月9日(木) No.286
Laborde, S., Mosley, E., & Thayer, J.F. (2017) Heart rate variability and cardiac vagal tone in psychophysiological research - recommendations for experiment planning, data analysis, and data reporting. Frontiers in Psychology, 8, article 213. doi: 10.3389/fpsyg.2017.00213
<内容>心電図(ECG)を記録し、R-R間隔の変動(心拍変動:HRV)を解析する研究における諸注意事項を把握できる総説論文になります。HRVに関して多くの指標がありますが、それらの指標が何を反映する指標であるか、サンプルサイズをどうするか、測定時に実験参加者に依頼する事項、最低限必要な記録時間、ノイズの処理をどうするかなどが書かれています。また、HRVの各指標は実験参加者間で正規分布しにくく、その場合は自然対数を用いることや、例えば迷走神経緊張の指標は複数ありますが論文報告上は1つに絞り、その他の指標は確認的に分析に用いることも推奨されています。

2020年7月2日(木) No.285
Mine, K., Ono, K., & Tanpo, N. (2018) Effectiveness of manegement for yips in sports: A systematic review. Journal of Physical Therapy Sports Medicine, 2, 17-25.
<内容>スポーツ選手のイップスの対処法の効果を報告している論文をまとめたシステマティック・レビューになります。7つの検索エンジンから厳選した12個の上記テーマに関する論文を取り上げています。対象種目は7論文がゴルフ、2論文が陸上長距離、そしてバスケットボール、ボーリング、カヌーがそれぞれ1論文となっています。対処の方法としては、イメージが4論文、プリ・パフォーマンス・ルーティンが3論文、瞑想や筋弛緩剤投与が2論文となっています。対処法の効果をどのように調べるかについては、イップス症状の出現頻度測定が4論文、課題パフォーマンスの評価が4論文、選手の主観が5論文となっています。概してイメージの研究に関しては、TypeT症状(神経性)のイップスに限定した論文ばかりですが、中から大の効果量が示されており、ある程度効果の期待できる対処法であるが、その他の対処法に関しては対象者数や効果の実証方法、効果量などに問題が多いことが指摘されています。MCRF(McMaster Critical Review Form)という方法を使い、12個の各論文の質の値も提示されており、全般的にその値が低い研究が多いことも記載されています。