福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2021年12月17日(金) No.343
Beckmann, J., Fimpel, L., and Wergin, V.V. (2021) Preventing a loss of accuracy of the tennis suerve under pressure. PLoS ONE, 16(7), e0255060. doi: 10.1371/journal.pone.0255060
<内容>課題遂行前に左手でボールを握ることによって、プレッシャー下でのパフォーマンスの低下を防げることが様々な運動課題で実証されていますが、この研究ではテニスのサービスの正確性でも同様の効果が得られることが示されています。ドイツの高校生テニス選手20名を対象とし、サーブの前に左手でボールを握るルーティンに取り組む群10名と右手で握る群10名にランダムに振り分け、チーム成績に対する賞品、28名の観衆、ビデオ撮影があるプレッシャー条件で8試行のサービスを行なわせています。そして、ボールを握ることを行なわない非プレッシャー条件8試行のサービスの正確性との比較が行なわれています。結果として、右手でボールを握った群はプレッシャー下でのパフォーマンスの低下が生じた反面、左手でボールを握った群はパフォーマンスの低下が生じませんでした。これまでの研究との違いについては、ボールを握る時間が10〜15秒の短時間であったため、テニスなどのインターバルの短いスポーツ種目にも左手で物を握るルーティンが使用しやすいことが考察されています。今後の研究では、実際のテニスの試合場面におけるファーストサーブとセカンドサーブに分けて測定や分析を行なう必要性や、サービスの正確性だけではなく、ボール速度も含めて大事にプレーすることに対する影響も検討することが提案されています。

2021年11月30日(火) No.342
Yoshikawa, N., and Masaki, H. (2021) The effects of viewing cute pictures on performance during a basketball free-throw task. Frontiers in Psychology, 12, article610817. doi: 10.3389/fpsyg.2021.610817
<内容>子犬や子猫のかわいい写真を事前に視ることで精緻運動課題や認知課題の成績が向上する研究があるなかで、この研究ではバスケットボールのフリースローを取り上げダイナミックなスポーツ課題でも同じような効果があるかについて検討されています。加えて、成績次第でトレーニングを行うというペナルティーによるプレッシャー条件も行い、プレッシャー下でのパフォーマンスに対する効果も検討されています。大学バスケットボール選手26名(男性12名、女性14名)を対象に、子犬や子猫のかわいい写真条件、大人の動物写真条件、統制条件(休息をする)を設け、フリースロー2試行毎に10秒間写真を見ることを実施させています。主な結果として、男性の非プレッシャー条件ではかわいい写真条件の成績が大人の写真条件や統制条件よりも良かったことが示されています。プレッシャー条件では男女ともにかわいい写真の視聴による成績の向上は見られませんでした。非プレッシャー条件の男性においては、かわいい写真の視聴による心理状態の変化に伴って外的注意焦点が促進したことや、クアイエットアイが生じたことが成績向上の理由として考察されています。女性において成績みられなかった理由としては、男性のような心理面の変化が生じなかった可能性や、女性のフリースローの成績が高かったため天井効果が生じていた可能性も言及されています。スポーツの実践場面の応用として、かわいい写真を視聴する工夫をすることも提案されています。

2021年11月24日(水) No.341
Heyes, C., Bird, G., Johnson, H., and Haggard, P. (2005) Experience modulates automatic imitation. Cognitive Brain Research, 22, 233-240. doi: 10.1016/j.cogbrainres.2004.09.009
<内容>手を閉じる(グー)、手を開く(パー)の2つの動画に対して、出来る限り早く同じ動くをする(一致試行)、出来る限り早く反対の動きをする(不一致試行)運動課題を実施することで自動模倣の検討が行なわれています。実験1では、10名の実験参加者を対象とし、一致試行では不一致試行に比べて平均で19ms有意に反応時間が短いことが示されていま。そして実験2では、20名を対象に、事前に72試行×6ブロックの一致試行もしくは不一致試行の練習を行うことで、後のテストでのそれらのトレーニング効果が検討されています。結果として、一致試行のトレーニングによって反応時間がさらに短くなるものの、不一致試行に関してはトレーニング効果が見られませんでした。この結果から、脳内には模倣をする回路と模倣をしない回路の2つがあり、模倣をする回路の方がトレーニング効果が得られやすいと考えられます。

2021年10月26日(火) No.340 【院生・スタッフゼミにおける茶屋怜治氏の紹介論文】
Mujumdar, P. and Srividhya Jr., S. (2010) Monitoring training load in Indian male smimmers. International Journal of Exercise Science, 3, 102-107.
<内容>茶屋氏は修士課程での研究として、競泳選手を対象に、年間を通して心理尺度やコルチゾールの測定を行い、心身の慢性ストレスを評価し、それとともに試合での成績も記録し、心身のコンディショニングとパフォーマンスの関係から、競泳の選手や指導者にとって、よりベストな練習メニューやそれに伴う心身のストレス強度を考案する研究に取り組んでいます。この研究にかなり類似した内容の先行研究として、インドの男子高校生競泳選手7名を対象に、試合前の3か月間、週1回のペースでコルチゾールとテストステロンを測定し、準備期、試合前期、試合期のこれらの値の比較が行なわれている研究論文になります。トレーニングの質や量の変化に伴い、テストステロンが試合期において減少し、コルチゾールが試合前期において増したことが報告されています。オーバートレーニングを防ぐことを目的とした研究の一環であり、コルチゾール、テストステロン、これらの2つの値の比の3指標からトレーニングの質と量を評価する必要性が提案されています。

2021年10月12日(火) No.339
Brass, M., Bekkering, H., Wohlschlager, A., and Prinz, W. (2000) Compatibility betwenn observed and excuted funger movements: Comparing symbolic, spatial, and imitative cues. Brain and Cognition, 44, 124-143. doi: 10.1006/brcg.2000.1225
<内容>他者行為の観察に伴う動作の自動模倣の存在を実証した初期の研究になります。3つの実験から構成されており、実験1では「1」の視覚刺激に対しては人差し指を上げる運動を行い、「2」の視覚刺激に対しては中指を上げる運動を行う際に、「1」と「2」の視覚刺激と同時に運動に一致した(人差し上げ指運動のときに人差し指上げ、中指上げ運動のときに中指上げの写真)背景画像を呈示することで反応時間が早くなり、運動とは不一致(人差し上げ指運動のときに中指上げ、中指上げ運動のときに人指し指上げの写真)背景画像を呈示することで反応時間が遅延することが示されています。実験2では、「1」と「2」の視覚刺激を背景画像の人差し指もしくは中指に×の印を書き、×に反応し、さらには×が上げる指とは反対の指に書かれているときに、さらに反応時間が遅延が促進することが示されています。さらに実験3では、指上げ運動を指下げ運動に変えると、実験1や実験2で生じた一致背景画像に対して反応時間が早くなることが消失し、不一致背景画像に対する反応時間の遅延が少なくなることが示されています。3実験の結果をからの総合考察では、動作観察が動作実行に自動的に影響し、それには知覚と運動の共通符号が関与し、そこにはミラーニューロンなどの中枢機序が作用していることが提案されています。

2021年10月8日(金) No.338 【院生・スタッフゼミにおける柄木田健太氏の紹介論文】
Khalkhaki, V. (2012) Task dificulty, self-handicapping and perfromance: A study of implicit theories of ability. International Online Journal of Educational Sciences, 4, 592-601.
<内容>マインドセット(心のあり方)の基盤となる知能観(theory of intelligence)には、能力は変化し、増強し、コントロールできると考える増大理論(incremental theory)と、能力は持って生まれた先天的なものでコントロールできないと考える実体理論(entity theory)の2つがあります。この研究では、60名の男子大学生を対象に、540m走のタイムについて180秒と120秒の2つの時間制限を設けて実施させています。そして、増大理論の信念を持つ学生の方が実体理論の信念を持つ学生よりも、120秒の厳しい時間制限のある条件で、タイムが有意に早く、課題遂行に対するセルフハンディキャップ(言い訳)得点が低かったことが示されています。努力や成長に重きを置くマインドセットが、難度の高いスポーツの課題に対してもあきらめずに遂行することができ、パフォーマンスが維持されることが理解できます。

2021年9月21日(火) No.337
Smoulder, A.L., Pavlovsky, N.P., Marino, P.J., Degenhart, A.D., McClain, N.T., Batista, A., adn Chase, S.M. (2021) Monkeys exhibit a paradoxical decrease in perfromance in high-stakes scenarios. Proceedings of tha National Academy of Sciences of the United State af America, 118, e2109643118. doi: 10.1073/pnas.2109643118
<内容>「サルも木から落ちる」の諺がありますが、「サルも大好きなエサがある木からは落ちる」ことを示した研究になります。この研究の背景には、スポーツの「あがり」現象があり、サルを対象として「あがり」が生じるかを確認することで「あがり」に対する生物学的理解を拡げることにあります。課題に関する訓練をされたサル3匹を対象に、座位で眼の前のレバーを移動させ、ディスプレイ上のターゲットに向けて早くかつ正確にカーソルを移動させるリーチング課題を実施させています。課題の成功によって得られる報酬(エサ?)を0.1mL(small条件)、0.2mL(medium条件)、0.3mL(large条件)、2.0mL(jackpod条件)の4条件設け、3匹とも課題の成功率が逆U字となり、small条件からlarge条件にかけて成功率は上がるが、large条件からjackpod条件にかけては成功率が低下しています。リーチング動作の詳細な解析も行なわれており、jackpod条件ではピーク速度の出現タイミングが早く、ピーク速度が遅く、ターゲット直前の動作時間が長くなっていました。ヒトを対象にプレッシャー下でエイミング課題やリーチング課題を実施している研究も豊富にありますが、これらの研究と類似した動作が出現しており、正確性を重視する方略や動作に対する意識的な処理が動作変化に関与していることが考察されています。さらに、動作終了地点の分析も行なわれており、jackpod条件では手前で動作が終了してしまう(undershoot)なエラーが多く、ゴルフパッティングでプレッシャー下では「チキる」と言われるような現象がサルのリーチング動作でも生じています。

2021年9月14日(火) No.336
高山智史・佐藤 寛(2021)スポーツパフォーマンスにおけるセルフトーク技法の認知行動理論による理解.体育学研究,66,481-495.doi: 10.5432/jjpehss.20074
<内容>認知行動療法には@行動理論→A認知理論→Bマインドフルネス・アクセプタンスの歴史的変遷があり、その変遷のなかでの諸理論に対するセルフトークの機能について理解が図られています。@の行動理論では、レスポンデント条件づけでは条件刺激として、オペラント条件づけでは先行刺激や結果事象としてセルフトークが機能することが書かれています。Aの認知理論では、論理情動行動療法、認知療法、ストレス免疫訓練法の中でセルフトークがパフォーマンスにどのような作用するかの機序が書かれています。Bのマインドフルネス・アクセプタンスでは、アスリートの諸問題の派生的な言語行動にセルフトークが位置づけらることが書かれています。これらの理論内に基づいたセルフトーク研究の実施や心理的スキルトレーニングとしてのセルフトーク技法の活用が必要であり、今後の研究の方向性として、思考の形態の変容、思考の機能の変容、無関係な思考の考慮について提案されています。

2021年8月30日(月) No.335 【前期の院生・スタッフゼミにおける三森裕希子氏の紹介論文】
末木 新(2017)高校野球における試合の勝敗に影響を与える要因:投手力・打撃力・守備力の比較.体育学研究,62,289-295.doi: 10.5432/jjpehss.16083
<内容>全国高等学校野球選手権全国大会(通称夏の甲子園)の幕が閉じましたが、この研究では2008年から2015年にかけての同大会の全390試合データを使用し、チーム全体の投手力を表す指標であるFIP(Field Independent Pitching)、チーム打撃力を表す指標としてOPS(on-base Plus Slugging)、チーム守備力を表す指標としてDER(Defensive Efficiency Rating)を求めています。そして、勝敗を従属変数、これらの指標を独立変数とした重回帰分析により、打撃力のチームOPS→守備力のチームDER→投手力のチームFIPの順で勝敗に関与することが示されています。考察では、投手力を重要視する現場の声との矛盾や日本の野球文化、投手に対する原因帰属バイアスについて触れ、打撃力や守備力を強化することに対する提言が行なわれています。

2021年8月5日(木) No.333
Masumoto, J., and Inui, N. (2013) Two heads are better than one: both compelemntary and synchronous strategies facilitate joint action. Journal of Neurophysiology, 109, 1307-1314. doi. 10.1152/jn.00776.2012
<内容>2名の共同運動(joint action)の研究は、2名の運動の同期現象を解明する研究と、2名で補完し合いながら共同で課題目標を達成する機序を解明する研究の2つに分けられますが、この研究では双方を実験課題に組み込み、双方が生じ、さらには1名で課題を行う時よりも双方のパフォーマンスが高まることが実証されています。2名が向き合っての人差し指のタッピングによって、1秒間隔でリズミカルに10%MVCの合力を発揮する課題を用いて、眼前のディスプレイ上に2名の合力がフィードバックされる条件、相手のみの力がフィードバックされる条件、自己の力のみがフィードバックされる条件、フィードバックがない条件、さらには一人で同じ課題を行う条件の比較が行なわれています。合力がフィードバックされる条件のみ2名の相補的な力発揮が行われており、さらには単独で行う条件よりも力発揮の大きさやリズムの正確性やばらつきが安定していることが示されています。最適フィードバック制御(optimal feedback control)や他者の運動予測(action simulation)がこれらには関与し、リーダー・フォローワー方略も交えながら研究を発展させる可能性について考察されています。

2021年7月28日(水) No.332
Gorgulu, R., and Gokcek, E. (2021) The effects of avoiding instructions under pressure: An examination of the volleyball serving task. Journal of Human Kinetics, 78, 234-249. doi: 10.2478/hukin-2021-0039
<内容>バレーボールのサービス課題を用いて、プレッシャー下での皮肉エラーについて実験検証が行なわれています。2年以上の競技経験のある43名のバレーボール選手を対象に、相手コートの角のエリアを狙うサーブ課題を行なわせています。角のエリアに入れば+5点、アウトになれば−5点(皮肉エラーエリア)、相手コートのその他のエリアに入れば+1点と得点が得られ、非プレッシャー条件とプレッシャー条件でそれぞれ10試行のサービス課題を行なっています。プレッシャーの操作チェックとして、非プレッシャー条件からプレッシャー条件にかけての不安や心拍数の増加は生じていますが、これまでの多くの先行研究で示されているような皮肉エラーの増加は示されておりません。サンプルサイズや他の研究と比べての実験参加者の年齢の低さ、相手選手がいない中での課題である生態妥当性の低さなどが問題点として考察されています。

2021年7月14日(水) No.331
Hine, K., and Takano, Y. (2020) Decreasing heart rate after physical activity reduces choking. Frontiers in Psychology, 11, article550682. doi: 10.3389/fpsyg.2020.550682
<内容>競争による報酬、ビデオ撮影、他者評価のプレッシャー条件とプレッシャー条件で3フレームのボーリング課題を実施し、その課題前に40秒間ダッシュを行い(active群)、その後20秒間休憩し、心拍数を増減させることのパフォーマンスに対する効果が検討されています。ダッシュに取り組まないinactive群に比べ非プレッシャー条件とプレッシャー条件の得点差が大きく、active群はプレッシャー下でのパフォーマンス向上が生じました。課題中の心拍数の測定も行なわれており、最低心拍数においてinactive群は非プレッシャー条件に比べてプレッシャー条件では心拍数が高かったですが、active群にそのような差はありませんでした。高強度運動後の休息による心拍の減少を活用して、プレッシャー下での実力発揮に繋げる、身体化認知を活用した対処法を提案している研究結果と捉えられます。

2021年7月5日(月) No.330 【廣光佑哉氏(研究支援員)の所属大学院での研究成果】
Hiromitsu, Y., and Ishikura, T. (2021) Effects of learners' choice of video self-modeling on performance accuracy and perceived cognitive consistency. Journal of Physical Education and Sport, 21, 1284-1293. doi: 10.7752/jpes.2021.03163
<内容>自己の運動パフォーマンスの映像を視聴することをビデオセルフモデリング(VSM: Video Self-Modeling)といいます。VSMによって運動学習を促進するこを証明する研究は多くあるようですが、その背後にある心理機序については様々な研究結果が散見的に報告されており、この研究では動作や結果のイメージとビデオ映像との認知的一致、モチベーション、自己効力に焦点を当てています。加えて自分の見たいビデオを自己選択することのパフォーマンスやこれらの心理面への効果を調べることを目的としています。36名の実験参加者が4.2m先のターゲットに対して非利き手で下手ボール投げを行う時の正確性を高めることを目標とした課題を用いて、3試行の練習後に、結果の視覚フードバックを得られないようにし、15試行(3ブロック×5試行)のプリテストとポストテストが行なわれています。プリテストとポストテストの間に、3ブロックの各ブロックで最も正確性の高かった試行の中から、自分が見たい試行の映像の動作や投げられたボールの軌跡も含めた結果のビデオ映像を視聴する自己選択群、プリテストの中で最も正確性の高かった試行について検者が指定した動作や結果のビデオを視聴する他者選択群、ビデオ視聴をしない統制群の3群を設け、ボール投げの正確性と心理面について群間比較が行なわれています。結果として、自己選択群は他者選択群よりも動作や結果と自己の有するイメージとの認知的一致が高かったことが示されています。さらに相関分析も行なわれており、自己選択群は認知的一致が高いほど動機づけも高いことが示されています。また両群ともに、結果に関する認知的一致の高さは課題の正確性にも関連することも示されています。運動課題に対する動作や結果のビデオを自己選択することで、それらに対するイメージとの認知的一致が高まり、それによって動機づけが高まることや運動学習を促進することを提案した研究結果といえ、スポーツのみならず教育や他の運動スキルに対しても応用できる可能性について考察の最後で記述されています。