福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2022年12月13日(火) No.367
Revankar, G.S., Kajiyama, Y., Gon, Y., Ogasawara, I., Hattori, N., Nakano, T., Kawamura, S., Ugawa, Y., Nakata, K., & Mochizuki, H. (2021) Perception of yips among professional Japanese golfers: perspectives from a network modelled approach. Scientific Reports, 11, 20128. doi: 10.1038/s41598-021-99128-9
<内容>日本人プロゴルファー(回答者1271名)を対象としたゴルフのイップスに関する調査の報告がまとめられています。主観的に35.4%の選手がこれまでにイップス経験があり、回帰分析によりゴルフの経験年数の長さによってイップスの経験が説明できることが示されています。イップス経験者は非経験者よりも性格的に不安傾向が高く、57%の選手が心理的問題が原因であり、5%の選手が運動障がいが原因と知覚しています。ショットの種類に関しては、パッティング(38%)、アプローチ(38%)、ティーショット(17%)の順で経験割合が高く、さらにネットワーク分析を用いてパッティングにおいてはスイング速度が低下する、アプローチにおいては力が入る、ティーショットにおいては硬直することが主症状であることも示されています。ネットワーク分析では、イップスへの対処として、技術的な変化を加える、練習量を増やす、練習量を減らすこととの関連も提示されています。

2022年11月22日(火) No.367
Hoskens, M.C.J., Bellomo, E., Uiga, L., Cooke, A., & Masters, R.S.W. (2020) The effect of unilateral hand contractions on psychophysiological activity during motor performance: Evidence of verval-analutical engagement. Psychology of Sport & Exercise, 48, 101668. doi: 10.1016/j.psychsport.2020.101668
<内容>運動時の前に左手でボールを握るルーティンに取り組むことの効果について、ゴルフパッティング課題を用いて、脳波、心拍数、筋電図、キネマティクスの側面から検討した研究になります。25試行のゴルフパッティングを行う前に、左手で45秒間自分の好きなペースでボールを握る条件、右手で45秒間自分の好きなペースでボールを握る条件、統制条件として太ももの上に手を45秒間置く条件が設けられています。3条件間のパッティングの正確性に差は見られませんでしたが、左手条件では右手条件よりも右脳の活動が優位であるとともに、右手条件と統制条件に比べてT7-Fzの結合も小さいことが示されています。反対に、右手条件では統制条件よりもT7-Fzの結合が大きいです。T7-Fzの結合の大きさは、運動計画に関わる言語分析処理を反映しているため、左手でボールを握ることが意識的処理を抑制する可能性が考察されています。また、媒介分析も行われており、条件に伴うパフォーマンスの違いにはT7-Fzの結合の大きさが間接効果として媒介することも報告されています。心拍数、筋電図(前腕の屈筋と伸筋)、キネマティクス(ダウンスイング期のパターの加速度)にはこれらの結果は得られておらず、左手でボールを握るは中枢活動により作用することが推察されています。今後の課題としては、どれほどの時間、効果が持続するかについて時系列での分析を行なう必要性が提案されています。

2022年11月1日(火) No.366
Ren, P., Song, T., Chi, L., Wang, X., & Miao, X. (2022) The adverse effect of anxiety on dynamic anticipation performance. Frontiers in Psychology, 13, article823989. doi: 10.3389/fpsyg.2022.82989
<内容>卓球のサーブが自陣のどのエリアに落ちるかを早く正確に予測する課題に対するプレッシャーの影響が調べられています。卓球の経験が多い選手18名と少ない選手18名を対象とし、報酬やビデオ撮影があるプレッシャー条件とそれらがない非プレッシャー条件で各120試行の予測テストを行わせています。また両条件は、敵陣にボールが落ちた瞬間に映像が終わる早い遮蔽条件60試行と、ネットを通り過ぎる瞬間で映像が終わる遅い遮蔽条件60試行で構成されています。予測の正確性に非プレッシャー条件とプレッシャー条件の差は見られませんでしたが、反応の早さについては、経験が多い選手において非プレッシャー条件よりもプレッシャー条件では反応が遅くなっています。さらに、反応時間÷正答率で算出される予測効率値(IES: Inverse Efficiency Score)においても、経験が多い選手は非プレッシャー条件よりもプレッシャー条件では効率が低下しています。また、両群における早い遮蔽条件で非プレッシャー条件よりもプレッシャー条件では効率が低下しています。これらの結果から、予測を行うときには、特に経験が豊富な選手の注意の処理効率にプレッシャーが影響し、内的及び外的な刺激に注意が向くことでトップダウンな注意処理が損なわれることが原因であることが考察されています。

2022年10月13日(木) No.365
Beckmann, J., Fimpel, L., & Wergin, V.V. (2021) Preventing a loss of accuracy of the tennis serve under pressure. PLoS ONE, 16, e0255060. doi: 10.1371/journal.pone.0255060
<内容>プレッシャー下でのパフォーマンスの低下を防ぐために、左手で物をリズミカルに握ること(dynamic handgrip)の効果を実証している研究が複数あります。この研究では、テニスのサーブを実際のコート上で打つ時にも効果があるかについて検討しています。20名の実験参加者が練習+非プレッシャー下でのプリテスト8試行のサーブを実施したのちに、左手でボールを10〜15秒握った後にサーブを行う群(左手群)と、右手でラケットを10〜15秒握った後にサーブを行う群(右手群)に分かれて、28名の観衆、2台のビデオ撮影、チーム戦による賞品のプレッシャーがある中でポストテスト8試行を実施しています。そして、右手群のサーブの正確性はプリテストからポストテストにかけて低下したのに対して、左手群のパフォーマンスは維持されたことから、テニスの実場面においても10〜15秒という先行研究に比べると短時間に左手でボールを握るというルーティンに取り組むことで、プレッシャー下でのパフォーマンスの低下が防げることが提案されています。その理由としては、左手でボールを握ることによる脳活動のリラクセーションに伴い、プレッシャー下でのネガティブな思考や動作に対する意識的処理も抑制されることが考察されています。また、ボール速度やキネマティクスも測定することで、安全性方略との関連を調べることや、結果の正確性だけではなく、どのような動作を基にパフォーマンスが維持されるかまでを検討することが今後の展望として書かれています。

2022年10月6日(木) No.364
Masaki, H., Maruo, Y., Meyer, A., & Hajcak, G. (2017) Neural correlates of choking under pressure: Athletes high in sports anxiety monitor errors more when perfromance is being evaluated. Developmental Neuropsychology, 42, 104-112. doi: 10.1080/87565641.2016.1274314
<内容>スポーツに取り組む大学生216名にスポーツ不安検査を実施させ、上位35名と下位20名に対して、PC上で空間ストループ課題を統制条件と他者評価条件でそれぞれ288試行実施させています。その際に、ストループ課題の一致条件と不一致条件の正答率と反応時間とともに、脳波を記録し、事象関連電位のエラー関連陰性電位の分析が行われています。正答率と反応時間については一致条件と不一致条件の有意差しか見られていませんが、エラー関連陰性電位に関してはスポーツ不安が高い群は統制条件から他者評価条件にかけて電位が大きくなり、スポーツ不安が低い群にはこのような変化は見られませんでした。また、統制条件においては、スポーツ不安高群のエラー関連陰性電位はスポーツ不安低群に比べて小さいという結果も得られています。プレッシャー下でのパフォーマンスの低下を説明する仮説として、この研究は顕在モニタリング仮説を支持することを意味しており、行動指標だけではなく神経指標においてもこの仮説が説明できることが考察されています。

2022年9月20日(火) No.363
Laughlin, W.A., Flesig, G., Aune, K.T., & Diffendaffer, A.Z. (2016) The effects of baseball bat mass properties on swing mechanics, ground reaction forces, and swing timing. Sports Biomechanics, 15, 36-47. doi: 10.1080/14763141.2015.1123762
<内容>ピッチングマシンから投じられる約88km/hのボールに対して、880gの通常バット、1700gのグリップ部分を重くしたバット、バットにリングをはめてバットの中央部を重くした1475gのバットで打撃をするときのバットのキネマティクス、床反力の大きさ、これらの指標のタイミングの違いが検討されています。各条件で5試行ミートしたスイングの分析が行われており、バットのキネマティクスついては通常のバットと比べて、中央部を重くしたバットでは差がなく、グリップを重くしたバットではスイングが小さく遅くなる変化が生じています。床反力の大きさに関しては両方の重たいバットで通常のバットと比べて軸足とステップ足ともに差はありませんでした。これら指標のタイミングについては、両方の重たいバットで通常のバットに比べて諸変数が出現するタイミングが早くなったり遅くなったりしています。これらの結果からグリップを重たくするバットの使用は打撃に弊害があるものの、バットの中央部を重くすることについては弊害が少ないことが提言されています。打撃時の身体のキネマティクスも合わせて分析することや、重いバットで打撃をした後に通常のバットで打撃をするときの転移の効果について検討することが今後の課題として書かれていました。

2022年9月5日(月) No.362
Oshikawa, T., Morimoto, Y., Adachi, G., Akuzawa, H., & Kaneoka, K. (2020) Changes in lumbar kinematics and trunk muscle electromyographic activity during baseball batting under psychological pressure. International Biomechanics, 7, 66-75. doi:10.1080/23335432.2020.1811765
<内容>大学生野球部員14名を対象に、@普段の練習通りに打撃する非プレッシャー条件、A非プレッシャー条件よりもバット速度±1km/hの増減で1ドルの報酬増減がある低プレッシャー条件、B非プレッシャー条件よりもさらにバット速度を増加させるとさらに報酬が得られる高プレッシャー条件で5試行の打撃を行っています。その際に、背中と腰部のキネマティクス、腹直筋、腹斜筋、脊柱起立筋などの筋活動が調べられています。状態不安が両プレッシャー条件では非プレッシャー条件よりも増加し、バット速度が高プレッシャー条件では非プレッシャー条件よりも速くなる、スイング時間が両プレッシャー条件では非プレッシャー条件よりも短くなる、背中の屈曲伸展の角変位や角速度が両プレッシャー条件では非プレッシャー条件より大きくなる、脊柱起立筋の筋放電量が高プレッシャー条件では非プレッシャー条件よりも大きくなるなどの結果が得られています。これらより、プレッシャー下でのこれらの動作や筋活動の変化が腰部の障害に繋がることが提案されています。

2022年8月9日(火) No.361
Longo, M.R., & Bertenthal, B.I. (2009) Attention modulates the specificity of automatic imitation to human actors. Experimantal Brain Research, 192, 739-744. doi: 10.1007/s00221-008-1649-5
<内容>自動模倣がヴァーチャル動画にも適用されるかという問題に対し、この研究では「ヴァーチャルで作成された動画ですよ」と注意を促すことで、自動模倣傾向が減じることが示されています。キーボードのキー押しの反応時間によって自動模倣傾向を測定する課題を用いて、120名の実験参加者を上記の教示を受ける群と受けない群に分けています。手の実像動画においてはいずれの群も同程度の自動模倣傾向が生じた中で、ヴァーチャル動画については教示群の自動模倣傾向が減じています。この結果から、実像動画に比べてヴァーチャル動画に対する自動模倣は無くなるのではなく減じるということが主張されています。また、自動模倣には刺激から得られるボトムアップな処理だけではなく、注意を介したトップダウンな処理も関与することが考察されています。

2022年8月5日(金) No.360
Furuya, S., Ishimaru, R., Oku, T., & Nagata, N. (2021) Back to feedback: aberrant sensorimotor control in music perfromance under pressure. Communications Biology, 4, 1367. doi: 10.1038/s42003-021-02879-4
<内容>他者評価やビデオ撮影のプレッシャー下で熟練ピアニストがピアノ演奏をする際のタッピングのタイミングのずれや心拍数を分析している実験になります。12名を対象とした予備実験によって、プレッシャー下では非プレッシャー下よりも心拍数が高まり、タイミングのエラーの大きいことが先ずは確認されています。その後の実験1では、11名の非プレッシャー下とプレッシャー下で80ms遅らせた演奏音を聴きながら演奏する感覚運動テスト、演奏音は聴かずにピアノのキーを早く正確に押す運動テスト、2つの音間のインターバルの違いを判断する知覚テストを実施しています。結果として、運動テストと知覚テストでは非プレッシャー下とプレッシャー下の差が見られず、知覚運動テストのみ演奏テンポの遅延が生じていたことから、プレッシャー下での熟練ピアニストのパフォーマンス低下の原因はフィードバックゲインの増加にあることが示されています。実験2では、30名の対象者を@遅延のない演奏音を聴きながら練習する群(統制群)、A遅延させた演奏音を与えるもののそれを無視するように教示したなかで練習する群(無視群)、B遅延させた演奏音を与えたなかでもその音に合わせて演奏するように教示したなかで練習する群(補償群)を設け、非プレッシャー下とプレッシャー下で実験1と同様のピアノ演奏の知覚運動テストを行わせています。非プレッシャー下からプレッシャー下にかけてのタイミングエラーの差について3群の比較が行われており、統制群よりも無視群はエラーが小さく、フィードバックゲインを小さくすることを心掛ける練習によってプレッシャー下でのパフォーマンスの低下を防げることまで確認されています。フィードバックゲインが大きくなることがプレッシャー下の感覚運動スキルのパフォーマンス低下の理由であることは、顕在モニタリング仮説(explicit monitoring hypothesisi)を支持し、さらにはフィードフォワード制御からフィードバック制御へのシフトであることが考察されています。

2022年7月29日(金) No.359
Diotaiuti, P., Corrado, S., Mancone, S., Falese, L., Dominski, F.H., & Andrade, A. (2021) An exploratory pilot on choking episodes in archery. Frontiers in Psychology, 12, article585477. doi: 10.3389/fpsyg.2021.585477
<内容>イタリアのアーチェリー選手115名を対象とした質問紙調査研究になります。回帰分析、媒介分析、共分散構造分析を通して、@問題対処のような接近的な対処や情動調整のような回避的な対処が競技不安を減じさせる、A不安が心理的分散(decentering)を減じさせるがこれには回避的対処の少なさが媒介する、B競技不安の大きさ、心理的分散の小ささ、指導者の支援の少なさが過去6か月の「あがり」の頻度の多さに繋がる、ことが示されています。一連の「あがり」の機序研究に対して、対処方略や心理的分散、さらには指導者の支援までを包括したモデルを提示している点がオリジナリティーであることが主張されています。マインドフルネスやルーティンなどさまざまな介入の効果を裏付ける研究であることも考察されています。

2022年7月11日(月) No.358
工藤和俊・女川亮司(2022)競技スポーツの意思決定支援.Precise Medicine,5(4),26-29.
<内容>スポーツ場面でのリスクテイクやリスク回避の意思決定について、運動の分散を基にベイズ統計モデルによって最適ポイントを推定する方法について先ず解説されています。そしてスポーツを対象とした研究結果から、最適ポイントよりもリスクテイクな意思決定を行う認知バイアスが生じやすく、運動学習の利用と探索のトレードオフが紹介され、学習によって運動の分散が小さくなることを見越して、このような意思決定がなされることが説明されています。さらに、リスクテイクな意思決定をする人ほど学習が促進しやすいことから、長期的な視点ではリスクテイクの意思決定を伴いながら学習することのメリットについて提案されています。