福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2024年3月18日(月) No.396
He, Q., Liu, Y., and Yang, Y. (2024) The effect of quiet eye training on golf putting performance in pressure situation. Scientific Reports, 14, 5182. doi: 10.1038/s41598-024-55716-z
<内容>中国のゴルフナショナルチームに所属する13歳から18歳にかけてのゴルファー22名を対象に、1日60試行のパッティング練習を2週間行う際に、クアイエットアイのトレーニングに取り組む群11名と、技術教示と心拍フィードバックを受けて取り組む11名に分けて、プレッシャー下(パッティングのチーム戦よる勝ちチームへの報酬、ビデオ撮影、他者評価)でのテストをトレーニング前後に行い、パッティングの正確性、主観的プレッシャー強度、状態不安、心拍、視線行動について、トレーニング前後での群間比較が行われいます。そして、クアイエットアイのトレーニング群に限定的にトレーニング前からトレーニング後にかけて、パッティングの正確性の増加、主観的プレッシャー強度の減少、状態不安の減少、クアイエットアイや注視時間の増加が示されています。これらの結果はクアイエットアイによる適切な注意方略が寄与していることが考察されており、今後はゴルフの試合の実場面への転移効果を調べることや、トレーニング効果の個人差にまで踏み込むことを要すると展望が提案されています。

2024年2月15日(木) No.395
Kent, S., Devonport, T.J., Lane, A.M., and Nicholls, W. (2022) Implementing a pressure training program to improve decision-making and execution of skill among premier league academy soccer players. Journal of Applied Sport Psychology, 34, 691-712. doi: 10.1080/10413200.2020.1868618
<内容>イングランドのプレミアリーグに所属するチームの11歳から18歳にかけての男子ジュニアサッカー選手82名を対象に、オフェンス2vsディフェンス2の練習に対してプレッシャー(雑音を流す、レギュラー争いなど)をかけて行うことの効果の検討が行われています。41名はこの練習を1日10試行×3日を6週内で行い、最大で18週かけて取り組みます。残りの41名はこの練習に加えて、省察日誌を書くとともに、その日誌を活用し、プレッシャーへの対処や心理的スキルに関する認知行動ワークショップに取り組んでいます。2vs2練習における意思決定や技能の評価をコーチが行い、プレッシャー練習のみに取り組む群、日誌やワークショップにも取り組む群のいずれも意思決定や技能に対する効果が概ね示されています。年代別での効果の比較も行われており、日誌やワークショップにも取り組むことの意思決定への効果が11歳から12歳にかけて高かったことなども示されています。この研究の測定データの豊富な点は、事後的に16名を対象にトレーニング効果についてのインタビューを行い、その結果を報告していることにあり、自信、メタ認知、挑戦的評価などのポジティブな効果とともに、効果がなかったことを話す選手についても記載がなされています。先行研究で数多く実証されているプレッシャーを負荷した練習が、サッカーのジュニア選手の意思決定や運動のスキルに正の効果があることを実践的に示した研究であり、今後はコーチや親に対してもこのような練習方法の教育を行うことの必要性についても考察されています。

2024年2月6日(火) No.394
Rad, M.S., Boroujeni, S.T., Jaberimoghaddam, A.A., and Shahbazi, M. (2022) Performance and dicision making of a complex skill under monitoring and outcome pressure condition: Which of them can reinvestment predict? Psychology of Sport and Exercise, 59, 102128. doi: 10.1016/j.psychsport
<内容>卓球のフォアとバックでのストロークを左右のコーナーに正確に打ち返す課題を用いて、モニタリングプレッシャー(ビデオ撮影や他者観察・評価)と結果プレッシャー(正確性を上げることでの報酬)のそれぞれに対して、運動パフォーマンス(コーナーに打ち返す正確性)と認知パフォーマンス(左右のどちらに打ち返すかの意思決定の正確性と早さ)に対する影響が検討されています。20名の男性熟練卓球選手が、60試行の低プレッシャー条件後に、60試行のモニタリングプレッシャー条件と60試行の結果プレッシャー条件に取り組まれています。運動パフォーマンスはモニタリングプレッシャー条件のみで低下する中、意思決定の正確性は結果プレッシャー条件、意思決定の早さはモニタリングプレッシャー条件と結果プレッシャー条件で遅くなっています。運動に対する再投資尺度(Movement-Specific Reinvestment Scale)と意思決定の再投資尺度(Decision-Specific Reinvestment Scale)への回答も実施しており、モニタリングプレッシャー条件における運動パフォーマンスの低下は動作への自己意識因子と関連があり、意思決定の遅さは決定過程での意識的なモニタリング因子と関連があることが示されています。モニタリングプレッシャー条件での意思決定パフォーマンスの低下は自己意識の高さによって説明でき、結果プレッシャー条件の運動パフォーマンスの低下は注意散漫が原因となっていることが考察されています。

2024年1月23日(火) No.393
Heyes, C., Bird, G., Johnson, H., and Haggard, P. (2005) Experience modulates automatic imitation. Cognitie Brain Research, 22, 233-240. doi: 10.1016/j.cogbrainres.2004.09.009
<内容>自動模倣が生得的に生じるか、それとも学習によって生じるか(逐次的連合学習仮説:Associative Sequence Learning hypothesis)の疑問に対して、逐次的連合学習仮説を支持する検証が行われています。観察運動課題として画面上に呈示される手のグーとパーの中立状態から手を開く(グー)や手を閉じる(パー)の動作に合わせて(compatible)or反して(incompatible)、自分の手を同様の中立状態からグーやパーにさせる課題を用いて、実験1では10名の実験参加者を対象に、この課題を行うときの第一背側骨間筋の筋放電を記録することで反応時間を算出し、一致条件(compatible trial)よりも不一致条件(incompatible trial)では反応時間が遅れること、さらには自身の動かす手と画面上で呈示されている手の角度が異なったなかで課題を行っていることから、この運動課題においても画面上の他者の手の運動を観察することによって自動模倣が生じることを確認しています。そして実験2では、実験1と同様のテストの前日に、1ブロック72試行×6ブロックの一致条件練習に10名を取り組ませ、別の10名には一致条件練習を取り組ませています。そのうえで、テストにおいて一致条件練習群は不一致条件の反応時間の遅延が生じ、不一致条件練習群は不一致条件の反応時間の遅延が生じないことから、呈示刺激の運動の観察と同様の運動を自身が行う経験によって自動模倣が生じる逐次的連合学習仮説を支持することが主張されています。

2023年12月21日(木) No.392
Hogeveen, J., and Ohbi, S.S. (2013) Automatic imitation is automatic, but less so for narcissists. Experimental Brain Research, 224, 613-621. doi: 10.1016/j.actpsy.2020.103235
<内容>1と2の数字に対して早く正確に示指か中指の挙上運動を行う選択反応課題時に、背景に自己の挙上させる指と他者の同じ指が上がる動画が呈示される条件(一致条件)と、他者の異なる指が上がる条件(不一致条件)の反応時間差は自動模倣の指標として知られています。この研究では、一致条件と不一致条件の出現率を操作し、一致条件75%・不一致条件25%で「あなたが動かす指と同じ指が上がりますよ」と教示される一致予測条件80試行、一致条件50%・不一致条件50%で「あなたの動かす指と動画の指の動きは関連ないですよ」と教示される中立条件20試行、一致条件25%・不一致条件75%で「あなたが動かす指と反対の指が上がりますよ」と教示される不一致予測条件80試行を実施させ、予測や期待に反して自動模倣が安定して生じるかを確認し、自動模倣が文字通り自動であるかについて検証されています。予想通り一致予測条件、中立条件、不一致予測条件のいずれにおいても同程度の自動模倣が出現し、ヒトは自動的な模倣を有することが実証されています。さらに、ナルシシスト尺度を用いて18名の参加者のナルシシスト度と自動模倣の関係も調べられており、ナルシシスト度が高い人ほど不一致予測条件での自動模倣が減少する結果も得られており、自動模倣には個人差があり、ナルシシストが高い人はトップダウン処理により自動模倣を抑制できることも示されています。ナルシシスト度が大きいほど自動模倣が生じにくい理由としては、@このようなタイプの人は他者からの運動の共振(motor resonance)が小さい、A課題に関連しない刺激をシャットアウトすることができる、という2つの可能性があることが考察されています。@とAのどちらが有力かについて検証するために、今後は色判断のストループ課題などを用いて、運動課題以外の干渉効果も交えた実験を行う必要性が提案されています。

2023年12月14日(木) No.391
Aoyama, T., Ae, K., Soma, H., Miyata, K., Kajita, K., and Kawamura, T. (2023) Motor imagery ability in baseball players with throwing yips. PLoS ONE, 18, e0292632. doi: 10.1371/journal.pone.0292632
<内容>イップスを有するアスリートに対するイメージを用いた対処の事例研究はある中で、イップスの症状と運動イメージの関係性を調べている研究はなく、この研究では大学生野球選手を対象に、イップスと運動イメージの関連について検討されています。イップスを有する選手33名(イップス群)、イップスを改善した選手26名(改善群)、イップス経験のない選手55名(統制群)に対して、運動イメージの明瞭性尺度(the revised version of the movement imagery questionnaire: VMIQ-2)の一人称視覚イメージと筋運動感覚イメージのそれぞれ12項目、VASを用いて野球のスローイングに特化したポジティブおよびネガティブな視覚運動イメージと筋運動感覚イメージを測定し、これらの指標の群間比較、およびポジティブイメージとネガティブイメージについては群内での相関分析が行われています。VMIQ-2の一人称視覚イメージと筋運動感覚イメージ、野球のスローイングに特化したポジティブな視覚運動イメージと筋運動感覚イメージには群間差がないなかで、野球のスローイングに特化したネガティブな視覚運動イメージと筋運動感覚イメージについてはイップス群が統制群より有意にスコアが高く、イップスの症状の1つとして課題特異的な運動のネガティブなイメージがあることを示しています。また、イップス群のみポジティブイメージとネガティブイメージの相関がないことから、イップスを有する選手においてはこれらのイメージが独立していることも考察されています。ネガティブなイメージにはパフォーマンスに関する不安によって生じることも推察されており、不安の軽減にアプローチすることも要することが提案されています。

2023年11月22日(水) No.390【当研究室の院生・スタッフゼミでの細野桃子氏の紹介論文】
Hill, D.M., and Shaw, G. (2013) A qualitative examination of choking under pressure in team sport. Psychology of Exercise and Sport, 14, 103-110. doi: 10.1016/j.psychhsport.2012.07.008
<内容>チームスポーツにおいて個人にあがりが生じた際の特徴を明らかにすることを目的に、ラグビー、サッカー、ホッケー、バレーボール、クリケットに取り組む8名を対象に半構造化インタビューを行い、あがりの前兆、メカニズム、あがり低減の要因、あがりにより生じる結果についてのカテゴリー生成が行われています。個人スポーツや個人スキルを対象としたあがりのこれまでの研究と比較し、チーム内での個人の責任の大きさ、対戦相手の行動があがりの前兆となることや、チームの結束力や動機づけ雰囲気があがりを低減させる要因となることが興味深い結果と言えます。今後は客観的な指標をもってチームスポーツにおけるあがりを特定することの必要性などが考察では提案されています。

2023年11月16日(木) No.389
Saemi, E., Moteshareie, E., Jalilinasab, S., Afrash, S., and Deshayes, M. (2023) Gender stereopypes and motor performance: How explicit and implicit stereotypes influence girls standing long jump and anxiety. Psychology of Sport and Exercise, 102334. doi: 10.1016/j.psychsport.2022.102334
<内容>ネガティブなステレオタイプに関する顕在的な教示を受けることで学業やスポーツのパフォーマンスが低下することはステレオタイプ脅威として知られていますが、この研究では10-12歳の女子204名を対象に、立ち幅跳び跳を用いて、「女子は男子よりもこの課題の成績が悪い」という顕在的な教示を与えられるなかで行う顕在群、男性の実験者の前で課題を行うことで潜在的なステレオタイプを誘発させる潜在群、それらの両方を採用する顕在+潜在群、教示は与えずに女性の実験者の前で課題を行う統制群の4群に分けて、パフォーマンス(立ち幅跳びの成績)、認知不安、身体不安、自信の測定を行い、群間比較が行われています。パフォーマンスは4試行行う中の、1-2試行目は顕在+潜在群と潜在群の成績が統制群より低く、3-4試行目は顕在+潜在群と顕在群と潜在群の全てが統制群より成績が低いことが示されています。認知不安や身体不安や自信に関しては、顕在+潜在群、顕在群、潜在群全てが統制群よりも認知不安や身体不安が高く、自信が低いことも合わせて示されています。4試行の時系列でステレオタイプの効果を検証している点がこの研究の新奇な点で、過去の研究の結果との比較をすると、難度の高い課題に対しては顕在的な教示がすぐに負の効果を示すが、簡単な課題に対しては徐々負の効果が出てくることが提案されています。さらに、ステレオタイプ脅威に不安が関与していることや、大きなサンプルサイズで検証ができている点もこの研究の利点であることが考察されています。

2023年10月24日(火) No.388
Lola, A.C., and Tzetzis, G.C. (ahead of print) The effects of explicit, implicit and analogy instruction on decision making skill for novices, under stress. International Journal of Sport and Exercise Psychology. doi: 10.1080/161297X.2021.1991102
<内容>10-11歳の60名のバレーボールに不慣れな女子を対象に、バレーボールのサーブの落下位置の予測の早さと正確性に対する3つの学習方法の効果を実験室テストとフィールドテストで実施している研究になります。プリテスト後に、1日70分(ビデオ視聴と実技による)の練習を週3回×4週間行う際に、フォームなどの10個の顕在教示を与えられて練習を行う顕在群、暗算による二重課題を行いながら練習を行う潜在群、比喩による教示を受けて練習を行うアナロジー群、練習を行わない統制群に60名を分けて、ポストテスト、1週間後の保持テスト、その1日後のストレス下テストの群間比較が行われています。実験室テストの予測の早さと正確性、フィールドテストの運動スキルの全てにおいて、ポストテスト、保持テスト、ストレス下テストのいずれにおいても、アナロジー群、潜在群、顕在群、統制群の順で成績が良く、アナロジー学習が最も学習効果の高い学習法であることが提案されています。さらに顕在群や統制群はストレス下テストで成績が低下するなかで、アナロジー群や潜在群は成績を維持する結果も得られています。アナロジー学習が非ストレス下とストレス下の両方において有効な理由として、the dicision field theoryに基づき部分的ではなく全体的に注意が向いている、意識的処理を防げている、ワーキングメモリの中央実行系とともに視空間スケッチパッドを利用できている、周辺視をうまく活用できているなどの考察がなされています。

2023年10月10日(火) No.387
Baird, A., Scheffer, I.E., and Wilson, S.J. (2011) Mirror neuron system involvement in empathy: A critical look at the evidence. Social Neuroscience, 6, 327-335. doi: 10.1080/17470919.2010.547085
<内容>ミラーニューロンシステム(MNS)、模倣、共感性の関連性に関するエビデンスをまとめている総説論文になります。@共感性尺度と動作模倣の関連、A共感尺度とMNSの関連を調べる脳イメージング研究、B自閉症における模倣と共感の3トピックに分けて解説が行われています。@についてはカメレオン効果の動作模倣と認知的共感、表情模倣と情動的共感が正の相関がある2研究が紹介されています。Aについては共感性尺度とMNSの関連を調べる4研究を紹介し、そのなかの3つは情動的共感と相関(1つは負の相関、2つは正の相関)があり、1つは認知的共感と正の相関があることがまとめられています。Bについては、自閉症を有すると模倣力が低いという研究に端を発しているものの、その後は模倣や共感性について多様な結果が得られていることが書かれています。最後のまとめでは、このテーマの研究は全般的に少ないため、今後もより多くの研究が実施されることで、複雑で基本的な人の能力の神経基盤の理解に繋がっていくことが提案されています。

2023年9月11日(月) No.386
Glover, S., and Dixson, P. (2017) The role of predictability in cooperative and competitive joint action. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 43, 644-650. doi: 10.1037/xhp0000362
<内容>反応音刺激が呈示された後に2者がボタン押しを行う際に、一人は最初にボタン押しを行い(P1)、もう1名がその後にボタン課題を行う(P2)課題において、共同条件ではP1とP2の反応時間を出来る限り短くすることを求め、競争条件ではP1はP2の反応時間を遅らすようにしたなかでP2はP1との反応時間を出来る限り短くすることを求めています。実験1では、32ペアがそれぞれ60試行実施した分析が行われており、共同条件ではP1が予測可能性を高めるために反応音刺激後に早くかつ試行間でのばらつきが小さい反応時間にし、競争条件では予測可能性を低めるために反応音刺激後に早い時間から遅い時間の様々なタイミングで反応をしていることが示されています。さらに、P1の反応に関する情報量を求めると共同条件では情報量が小さく、競争条件では情報量が大きく、条件を問わずにP1の情報量の大きさにP2の反応時間の遅れが正に相関することまで示されています。実験2では、実験1の情報量と反応時間の関係がP1の反応を察知できる2者の社会的文脈の影響による可能性があるため、P1の反応を実験1での反応を機械的に同じにするくびきにして、32ペアを対象に実験1と同様の手続きにて測定が行われています。結果として、実験1と情報量と反応時間の関係が変わらなかったことから、この関係性は反応を察知できる社会的文脈に依存していないことを指摘しています。

2023年9月4日(月) No.385
Takayama, A., and Sekiya, H. (2023) Effects of various sitting and standing postures on arousal and valence. PLoS ONE, 18(6), e0286720. doi: 10.1371/journal.pone.0286720
<内容>身体性認知や身体フィードバックの理論をベースに、実験1と実験2においてそれぞれ12個の姿勢をそれぞれ1分間実施させ、その後に二次元気分尺度に回答させ、覚醒度と快適度を評価することで、@高覚醒-ネガティブ情動、A高覚醒-ポジティブ情動、B低覚醒-ネガティブ情動、C低覚醒-ポジティブ情動に至らせる姿勢の特定が試みられています。@高覚醒-ネガティブ情動1つ、A高覚醒-ポジティブ情動1つ、C低覚醒-ポジティブ情動2つの姿勢の特定に成功していますが、B低覚醒-ネガティブ情動な心理を作る姿勢の特定はできておりません。C低覚醒-ポジティブ情動に至らせる2つの姿勢は、呼吸や注意のコントロールを介さずに瞑想に適した姿勢であることが考察されています。さらに、心拍数も測定されており、二次元気分尺度の覚醒度の得点との正の相関があることから、主観だけではなく客観指標において覚醒上昇が得られる姿勢であることまで言及されています。

2023年8月28日(月) No.384
Endo, T., Sekiya, H., and Raima, C. (in press) Psychological pressure on athletes during matches and practices. Asian Journal of Sport and Exercise Psychology. doi: 10.1016/j.ajsep.2023.07.002
<内容>アスリートやコーチが試合時と練習時に非意図的に感じるプレッシャーや意図的に負荷するプレッシャーの種類を調べた質的研究になります。様々な競技レベルの多種目のアスリート14名とコーチ11名に対して半構造化面接を実施し、KJ法により、@試合場面での非意図的なプレッシャー、A試合場面での意図的なプレッシャー、B練習場面での非意図的なプレッシャー、C練習場面での意図的なプレッシャーの順で、カテゴリーが生成されています。これらはモチベーションを高めたり、感情を操作するために機能しており、練習中のプレッシャーに関しては試合部面でのプレッシャーに慣れることと、練習の質を高めるために用いられていると考察されています。今後の展望としては、さらに多くの種目を対象とすることや、実際のパフォーマンスとの関連までを調べること、日本人以外にも調査を行うことが述べられています。

2023年8月4日(金) No.383【当研究室の院生・スタッフゼミでの西村久美子氏の紹介論文】
Chen, J.H., Tsai, P.H., Lin, Y.C., Chen, C.K., and Chen, C.Y. (2019) Mindfulness training enhances flow state and mental health among baseball players in Taiwan. Psychology Research and Behavior Management, 12, 15-21. doi: 10.2147/PRBM.S188734
<内容>台湾のアマチュア野球選手21名を対象に、マインドフルネストレーニングの実践がメンタルヘルス、フロー状態、競技不安、パフォーマンスに対する効果を調べた研究になります。1セッション2.5時間のマインドフルネスのワークショップに4セッション取り組み、メンタルヘルス、不安、摂食障害、睡眠の質、フローなどについて尺度に回答させ、ワークショップの前後比較が行われています。事後に関してはワークショップ終了直後とともに、ワークショップ終了1ヵ月後のフォローアップ測定まで実施されています。事前事後比較において有意差が見られた項目としては、競技に対する身体不安や認知不安の減少、摂食行動の改善、睡眠の質の改善、フロー状態の促進が示されています。それらとともに、統計解析までは行われていませんが、投手や打者の成績が改善し、チームの順位も9位から2位に変わったことまで報告されています。

2023年7月3日(月) No.382【当研究室の院生・スタッフゼミでの細野桃子氏の紹介論文】
Harris, D.J., Vine, S.J., Eysenck, M.W., and Wilson, M.R. (2019) To err again is human: Exploring a bidirectional relationship between pressure and perfromance failure feedback. Anxiety, Stress, and Coping, 32, 670-678. doi: 10.1080/10615806.2019.1643459
<内容>2009年から2016年にかけての7年間のナショナルフットボールリーグ(アメリカンフットボール)のゲームのプレーのビッグデータを分析し、各場面のプレッシャーの強度とプレーの成否、さらにはその後のプレーの成否について分析が行われています。プレッシャーの強度は6名のコーチの話し合いにより、その場面での得点差、何クオーターか、インゴールエリアからの距離などによって0〜6の7段階で定量化されています。そして回帰分析により、プレッシャーの強度がその後のプレーの失敗をオッズ比1.20で予測できることが示されています。さらに、そのエラーがその後のプレーのエラーもオッズ比1.09で予測でき、プレッシャーと前のプレーのエラーの交互作用を予測変数、その後のプレーのエラーを説明変数とした場合もオッズ比1.10で説明可能となっています。序論や考察では、注意制御理論(Attentional Control Theory)をスポーツ場面に拡張したスポーツ注意制御理論(Attentional Control Theory: Sport)を用いて、プレッシャー下での失敗が損失を大きくするとともに、次のプレーの失敗確率も高めることから不安や注意が影響を受け、パフォーマンスの低下に繋がることが提案されています。