福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

論文や本の紹介(過去の履歴)
2016年6月27日(月) No.131
Mascret, N., Ibanez-Gijon, J., Brejard, V., Buekers, M., Casanova, R., Marqueste, G., Rao, G., Roux, Y., and Cury, F. (2016) The influence of the 'Trier Social Stress Test' on free throw performance in basketball: An interdisciplinary study. PLoS ONE, 11, e0157215. doi: 10.1371/journal.pone.0157215
<コメント>ResearchGateという研究者情報登録サイトに登録していますが(私のページへリンク)、時々、拙著論文が引用されたという情報が届いてきます。自身がこれまでに取り組んできた研究がどのように他の研究に引用され、さらには関連研究の最近の動向を把握する良きツールとして活用できています。今回の論文はこのような形で知ることができました。この研究では、タイトルにもある"Trier Social Stress Test: TSTT"という見知らぬ人前やカメラの前でスピーチや数学テストを実施させるストレス状況に曝された後に、バスケットボールのフリースロー40試行を実施させ、同様のテストを人やカメラのない状況で行った後(プラセボテスト)のフリースロー40試行と比較しています。TSTTは人前でのスピーチ不安研究にもよく使用されています。タイトルに"interdisiplinary"(他分野に渡る)という単語もあるように状態不安や感情状態の心理指標、唾液内コルチゾールの生理指標、フリースローの成績のパフォーマンス結果指標、キネマティクスと重心動揺による行動指標が分析されています。TSTT後には不安や不快感情などの心理指標が増加し、コルチゾールの増加も見られたことからスポーツ課題にもおいてもTSTTが有効であることが先ずは示されています。しかしながらフリースローパフォーマンスはプラセボテストでは変化がなかった一方、TSTT後にはパフォーマンスが向上しました。「あがり」研究ではストレスによるパフォーマンスの低下が求められるのですが、考察では逆U字仮説を引合いに出し、適度なストレスであったことや、ポジティブなストレス(ユウストレス:eustress)であった可能性が書かれており、このような考察の書き方もあるのだなと勉強になりました。フリースローのキネマティクスや重心動揺もTSTTとプラセボテスト間の有意差は全ての変数で見られず、初心者を対象としているためこれらの行動指標の個人内変動が大きいことが理由として考察されています。重回帰分析を用いてパフォーマンス(成功と失敗)変化に心理、生理、行動のどの変数が関与しているかも分析されていますが、TSTTとプラセボのテスト別に分析されていない点が残念でした。また当研究室が行っているプレッシャー研究は、スポーツや運動のパフォーマンスの成否に対してプレッシャーをかける研究ですが、この研究ではTSTTを用いて対人ストレスに曝した後にスポーツや運動を行うことを実施しており、プレッシャーやストレスの質が当研究室の研究とは異なることも考えさせられました。当研究室でも取り組んでいるプレッシャー下で運動パフォーマンスを遂行するときの重心動揺を調べた研究は国内外を見渡しても数が少ないため、重心動揺が変化しないという結果にはなりますが、1つの貴重な結果として今後引用していける論文に感じました。

2016年6月20日(月) No.130
van der Kamp, J., and Masters, R.S.W. (2008) The human Muller-Lyer illusion in goalkeeping. Perception, 37, 951-954. doi: 10.1068/p6010
<コメント>錯視図形には様々なものがありますが、その中でも心理学分野の教科書にも頻出する有名な錯視図形の1つにミュラーリヤー錯視図形があります。矢印の先端部分の開閉の角度によって物理的には同じ線の長さが長く見えたり、短く見えたりする図形です。この論文ではハンドボールのゴールキーパーの手の広げ方によって相手選手に錯視が生じることが示されています。つまり両手を上げているキーパーの身長は高く見える反面、手を下げているキーパーは身長が低く見えてしまうことが先ずは示されています。さらに7mのペナルティースローを行わせると、両手を挙げているキーパーに対しては大きく見えるが故にボールをキーパーの遠くに投げ、両手を下げているキーパーに対しては小さく見えるのでキーパーの近くにボールを投げることも示されています。これらの結果から、キーパーとしては大きく見せるためには両手を挙げるほうが適している反面、シューターのボールを止めるためにはボールを近くに投げてしまう両手を下げた構が適していることが考察されています。ボールを投じる位置に関しては、キーパーのサイズ知覚に加えて、ゴール枠内の空いているスペースの空間知覚にも大きく依存しているようにも感じ、この論文内で書かれていることのみでの解釈は不適切かと感じました。

2016年6月14日(火) No.129
Witt, J.K., and Sugovic, M. (2010) Performance and ease infuluence perceived speed. Perception, 39, 1341-1353. doi: 10/1068/p6699
<コメント>パフォーマンス結果の良し悪しによって環境の知覚が変わることを調べる研究では、サイズ知覚を取り扱うものが多い中、この論文ではテニスのサービスリターン課題を用いてサービスされたボールの速度知覚やネットの高さ知覚に課題の成否が及ぼす影響が調べられています(実験1)。予想された通り、リターンに成功した時にはボールが遅く感じ、ネットが低く感じる一方、リターンに失敗した時にはボールが速く感じ、ネットが高く感じるという結果が得られています。さらに実験2〜4ではアメリカにおけるPongというゲーム課題を用いて(日本でのゲームセンターにあるエアホッケーをTVゲームにしたような課題)、ボールを弾き返すラケットの大きさを大・中・小の3条件設け、課題の難易度が高い小さいラケットになるほどボールの速度知覚が速くなることも示されています。

2016年5月31日(火) No.128
Bruner, J.S., and Goodman, C.C. (1947) Value and need as organizing factors in perception. Journal of Abnormal and Social Psychology, 42, 33-44.
<コメント>サイズ知覚の論文を読んでいる中でヒットした論文で、約70年前の古い文献にはなりますが興味深い内容でしたので紹介します。1円玉の輪郭をイメージして紙に書くとほとんどの人が実際の1円玉の直径(20mm)よりも小さく書いてしまいます。無意識に誤ったサイズ知覚をしてしまう分かりやすい一例です。この論文では、このようなコインのサイズ知覚に、人の置かれている環境やそれに伴う価値判断が影響することが実証されています。アメリカの10歳の児童に対して、1¢(セント)、5¢、10¢、25¢、50¢のサイズ知覚を測定しており、1セントのような貨幣価値の小さいコインの方が、25¢や50セントのように価値の大きいコインに比べてサイズ知覚が小さくなるのですが、金銭的に貧しい環境で育ってきた児童は、金銭的に裕福な環境で育ってきた児童に比べてコインの貨幣価値が大きい(25¢や50¢)ほど、サイズ知覚が大きくなることが示されています。加えて、前方にあるコインを見ながらサイズ判断を行うときと、見ずにサイズ判断を行うこときを比べると、貧しい児童は見るときのほうがサイズ知覚が大きくなる一方、裕福な児童は見ないときの方がサイズ知覚が大きくなることも報告されています。

2016年5月24日(火) No.127
Balcetis, E. & Dunning, D. (2010) Wishful seeing: More desired objects are seen as closer. Psychological Science, 21, 147-152. doi: 10.1177/0956797609356283
<コメント>空間環境の知覚の歪み(力動的知覚)に感情状態が影響することを実証した論文になります。シンプルな5つの実験から論文は構成されており、例えば、机に置かれたペットボトルに入った水までの距離知覚が、水をたくさん飲んだ直後の喉が潤った人よりも、スナック菓子をたくさん食べて喉が渇いている人の方が近く感じることや、机の上に置かれた100$札までの距離知覚が、その100$をもらえる可能性がない人よりも、獲得できる可能性のある人の方が近く感じることが示されています。またこのような知覚の変化に連動して運動も変化することを示した実験も紹介されています。約4m先に25$もしくは0$のギフトカードを呈示し、そのカードを取り除いた後に、手に持った豆袋を投げカードがあった位置にその豆袋が停止するような運動課題を実施させます。そうすると0$のカードよりも25$のカードのほうが豆袋が手前に停止します。つまり豆袋を投げる前にカードまでの距離を近く感じているが故に、それに引きつられて手前に豆袋を投げてしまうことを意味しています。知覚の歪みに意志や、それを誘発する身体状態が関与することを示唆するとともに、それに伴って運動も変化することを示している興味深い内容でした。

2016年5月16日(月) No.126
Nieuwenhuys, A., Salvelsbergh, G.P., & Oudejans, R.R.D. (2012) Shoot or don't shoot? Why police officers are more inclined to shoot when they are anxious. Emotion, 12, 827-833. doi: 10.1037/a0025699
<コメント>警察官36名を対象に、ビデオ映像上で銃を持つ相手(自分の銃を発砲して相手を撃つ)や銃を持たない相手(自分の銃を発砲しないようにする)が出現したときの、銃を撃つか撃たないかの判断を調べた実験になります。非プレッシャー条件に比べて、銃を撃つタイミングが遅れたり、撃つ場所のミスをしたときには足に強い痛み刺激が加えられるプレッシャー条件において、銃を持つ相手に対して銃を撃つ割合が僅かではありますが統計的に有意に減少し(引き金を引くまでの反応時間は有意に減少)、銃を持っていない相手に対して発砲してしまう割合も6%以上増加しています(有意差あり)。加えて着弾点の正確性も有意に低下しています。この研究のさらに興味深い点は、アイカメラを用いることで相手に対する視線行動も調べられており、銃の引き金を引くもしくは引かないという判断に注意がどのように影響しているかも検討されています。非プレッシャー条件とプレッシャー条件の比較で、銃を持たない相手映像に対する視線行動に差はないことから、銃を持たない相手に対して銃撃してしまう判断ミスは注意の影響によるものではないことが考察されています。このように注意の影響を否定することで、恐怖を予期することによって情動反応が出現し、それに連動した判断ミスである可能性が高いことが主張されています。

2016年5月9日(月) No.125
Wesp, R., Cichello, P., Gracia, E.B., & Davis, K. (2004) Observing and engaging purposeful actions with objects influences estimates of their size. Perception & Psychophysics, 66, 1261-1267. doi: 10.3758/BF03194996
<コメント>action-specific perception(運動やパフォーマンス結果に連動して環境の知覚が歪むこと)のメカニズムを調べている研究になります。この論文は3つの実験から構成されていますが、特に興味深かったのは実験1でした。柄杓に入った砂を小さじで掬うのを観察した後(掬う回数が多くなるので多く入っているように錯覚)と、逆に大さじで掬うのを観察した後(掬う回数が少なくなるので砂の量が少ないと錯覚)で、柄杓の直径と深さを判断させると、直径の判断に両条件間の有意差はないのですが、深さ判断は小さじで掬うのを観察した後のほうが、大さじで掬うのを観察した後よりも有意に深いと判断されました。この研究では知覚の歪みがなぜ起こるのかという問いに対して、経験や認知といった心理的要素が関与していることを提言しています。実験2と実験3ではダーツ投げを用いて、ダーツ投げを行う(直径5mmの的に当てられるまで投げる)前後に的の大きさを判断させ、的に当たるまで投げた試行数との相関が調べられています。投げる前の的の大きさ判断と当たるまでの試行数に相関はないのですが、投げ終わった後の大きさ判断と当たるまでの試行数とは負の相関(多くの試行を要すると小さく感じる、少ない試行で終えると大きく感じる)が得られており、知覚の歪みがパフォーマンス結果に依存することが実証されています。

2016年5月2日(月) No.124
Alder, D., Ford, P.R., Causer, J., & Williams, A.M. (2016) The effects of high- and low-anxiety training on anticipation judgements of elite performaers. Journal of Sport & Exercise Psychology, 38, 93-104. doi: 10.1123/jsep.2015-0145
<コメント>イギリスのバドミントンナショナルチーム選手30名を対象に、ビデオ映像を用いて相手のサーブコースを正確に判断する予測反応を行う知覚トレーニングや、そのときの適切な視線行動を促すトレーニングを実施し、予測パフォーマンスに対するその効果を調べています。この研究ではトレーニング時に、予測パフォーマンスが悪いという教示を与えながらトレーニングを実施する高不安練習群と、このような教示のない低不安群が設けられ、プレッシャーを負荷した練習が、ビデオ撮影や他者評価などの存在するプレッシャー条件での予測パフォーマンスに対する効果も調べられています。さらには、実際のバドミントンコート上でのフィールドテストも実施し、予測や視線行動のトレーニングがコート上でのサービスの予測パフォーマンスに転移するかについても検討されています。加えて興味深いのは、アイカメラを用いて相手選手がサーブを打つ際の視線行動も記録し、注視時間や注視回数も調べられています。実験方法を書くだけでも非常に複雑な研究ではありますが、いくつかの大事な結果が得られており、@高不安群はトレーニングによって高プレッシャー条件での予測パフォーマンスの低下を回避できる、A有意差までは得られていませんがこの回避には注視時間の長さや、注視回数の少なさの視線行動が関与している傾向がある、Aビデオを用いての予測や視線行動のトレーニングがコート上でのサーブコース予測にも有効であることなどが示されています。ナショナルチームというエリートレベルの選手に対しても、ビデオを用いた予測トレーニングが有効であるという点もオリジナリティーの高い結果であり、序論から考察に至るまで非常に読み応えのある論文でした。

2016年4月25日(月) No.123
Lee, Yang., Lee, Sih., Callero, C., & Turvey, M.T. (2012) An archer's perceived form scales the "hitableness" of archery targets. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 38, 1125-1131. doi: 10.1037/a0029036
<コメント>前回までの紹介論文のように、今年度の4月からの科学研究費研究を行っていく下準備として、知覚と運動に関する論文をいろいろと読み始めています。その一環のなかでまたまた興味深い論文にヒットしました。この論文ではアーチェリー課題を用いた2つの実験で構成されています。実験1ではアーチェリー選手9名を対象に、アーチェリー投射後に横を向くことでKR(結果の知識)を見えないようにし、そのような中でもパフォーマンス結果が良いときには的を大きく評価し、悪いときには的を小さく評価するaction-specific perceptionが生じることを示しています。実験2では、アーチェリー初心者20名を対象に、通常通りのフォームで矢を射る条件と、弓を引くときに前方の前腕を固定し、フォームを安定させたなかで矢を射る条件を設けています。投射後は実験1と同様にKRを見ないようにし、投射後に的の大きさを評価させるのですが、小さい的で投射するときに顕著に腕の固定条件において的を大きく評価することが示されています。前回の紹介論文もそうなのですが、近年の研究では、種々の実験操作を行うことで、action-specific perceptionのメカニズムを明らかにする研究が増えているようであり、この論文では2つの実験からaction-specific percpetionがフォームの良し悪しの知覚(haptically perceived level of coordination and control)やそれにも伴うアフォーダンス知覚(implicit report on hitableness)に関連することが提言されています。

2016年4月18日(月) No.122
Canal-Bruland, R., Zhu, F.F., van der Kamp, J., & Masters, R.S.W. (2011) Target-directed visual attention is a prerequisite for action-specific pereption. Acta Psychologica, 136, 285-289. doi: 10.1016/j.actpsy.2010.12.001
<コメント>実験室内でのゴルフパッティング課題を用いて、action-specific perceptionのメカニズムに迫っている論文になります。論文は3つの実験で構成されており、まず実験1では、先行研究において示されている実際のゴルフラウンドにおけるスコアとラウンド後のカップの大きさ判断の負の直線関係が、実験室環境のゴルフパッティングでも生じることを実証しています。このようなaction-specific perceptionがなぜ生じるのかについて、ターゲットに対する視線行動が関与する知覚強調仮説(perception accentuation hypothesis)と心的イメージを行うことによって小生じるという運動リハーサル仮説(motor simulation hypothesis)を提唱し、実験2ではパッティンググリーンのボールとカップの間にカーテンを垂らしてカップを見えないようにするようにし、実験1で見られた相関が消失することを示しています。さらに実験3では、ボールとカップの間にボーリング場のレーンにあるようなスパットを設けて、カップへの注意や視線行動を逸らすことでも同様に実験1で生じた相関がなくなることを示しています、これらの結果から、action-specific perceptionにはターゲットへの注意やそれに伴う視線行動が関与していることを提言しています。

2016年4月11日(月) No.121
Canal-Bruland, R., Pijpers, J.R., & Oudejans, R.R.D. (2010) The influence of anxiety on action-specific perception. Anxiety, Stress, & Coping, 23, 353-361. doi: 10.1080/10615800903447588
<コメント>ダーツ投げ課題を用いて、パフォーマンス結果を視覚的に確認した後に、ダーツの的の大きさを評価させることでaction-specific perceptionを調べています。さらにはこの運動課題と知覚判断課題を高所条件で実施させ、高所ではaction-specific perceptionがどのような影響を受けるのかが調べられています。ダーツ投げ課題のエラー値(的の中心からの絶対誤差)と知覚された的のサイズとの相関分析を行うことで、足の位置が70cmの高さで課題を行う低所条件ではパフォーマンスが悪いほど的を小さく知覚するという結果(逆を考えると結果が良いほど的を大きく知覚する)が得られています。しかしながら、足の位置が363cmの高所条件ではその相関がなくなり、action-specific perceptionが高所恐怖により消失するという表現がなされています。Brief Reportのためコンパクトにまとめられている論文であり、考察では注意制御理論(attentional control theory)や覚醒がこの現象に関連することが予想されています。

2016年4月4日(月) No.120
Gray, R., Navia, J.A., & Allsop, J. (2014) Action-specific effects in aviation: What determines judged runway size? Perception, 43, 145-154. doi: 10.1068/p7601
<コメント>フライトシミュレーターを用いて、着陸時における滑走路の幅の判断や、飛行機の高さ判断の歪みが何に起因するかを検討している論文になります。18名の飛行機操縦経験のない大学生を実験参加者とし、着陸時の速度や、滑走路内の適正幅に飛行機が入っている割合などのパフォーマンス指標、滑走路の注視時間や瞳孔の大きさを算出することによる視線行動指標、着陸時のハンドルの動きを周波数解析することによって平均周波数を算出することによる動作指標らと、着陸後に回答する滑走路の幅や飛行機の高さの知覚指標との相関分析が行われています。着陸シミュレーターを実施した後の知覚判断課題に対して、相関が認められたのは3変数であり、@着陸時のスピードが速い、A滑走路の注視時間が短い、ハンドル動作の平均周波数が高く微細なハンドルさばきで着陸しているときは、滑走路の幅を狭く知することが示されています。スポーツ課題を対象にした研究ではありませんが、action-specific perceptionやembodied perceptionがなぜ起こるのかという背景メカニズムに迫る興味深い論文でした。

2016年3月29日(火) No.119
Gray, R. & Canal-Bruland, R. (2015) Attentional focus, perceived target size, and movement kinematics under performance pressure. Psychonomic Bulletin & Review, 22, 1692-1700. doi: 10.3758/s13423-015-0838-z
<コメント>当研究室がこれから本格的に取り組んでいこうと考えている研究テーマに合致した論文にヒットしました。スポーツスキルを対象とした知覚運動研究において多くの成果を輩出しているRob Gray氏(Arizona State University, USA)とCanal-Bruland氏(VU University of Amsterdam, Netherlands)の共著論文で、賞金や他者比較を用いた心理的プレッシャー下でゴルフパッティングを実施するときの注意機能、ゴルフカップのサイズ判断、パターヘッドの動作解析、ボールの停止位置の正確性評価、心拍数、認知不安、身体不安が検討されています。従来のプレッシャー研究からの新規性が高い点としては、知覚判断(ゴルフカップのサイズ判断)が従属変数として取り扱われている点にあります。プレッシャー条件において心拍数が増加し、ダウンスイング期におけるパターの最大速度到達時間が減少し、さらにはインパクト時のパター速度が増加している実験参加者11名(25名中)をクラスター分析により「あがり群」と定義し、それ以外の実験参加者14名を「クラッチ群」と定義しています。結果は非常にクリアで、「あがり群」に限定的に、プレッシャー条件ではボールの停止位置の正確性の低下、ゴルフカップのサイズを小さく見積もる、外的注意の正確性の低下(カップの左右に置かれたスピーカーのどちらから音が出ているかをバックスイング中に判断する課題)、内的注意の正確性の向上(バックスイングにおいてパターの最大速度が発現する前もしくは後のどちらにビープ音が鳴ったかを判断する課題)が示されています。序論や考察では、プレッシャーによって知覚判断が変化する理由として注意強調仮説(atentional accentuation hypothesis)という、内的注意の増加と外的注意の減少に知覚判断が依存する説が提唱されています。パフォーマンス結果を見た後に知覚判断課題を実施していることや、注意課題が動作中に実施していることなどの問題点も考察の最後に書かれており、今後の研究の大きな指針を得ることができる論文でした。

2016年3月22日(火) No.118
Cheng, M.Y., Huang, C.J., Chang, Y.K., Koester, D., Schack, T., & Hung, T.M. (2015) Sensorimotor rhythm neurofeedback enhances golf putting performance. Journal of Sport & Exercise Psychology, 37, 626-636. doi: 10.1123/jsep.2015-0166
<コメント>ゴルフパッティング動作開始前の運動野(Cz)における脳波12〜15Hzの周波数帯域はこの論文のタイトルにもあるsensorumotor rhythum(SMR)と呼ばれ、この値が高くなるほど運動関連脳領域の賦活が小さくなることを反映します。この論文では、ハンディキャップ平均が0というレベルの高いゴルファー14名を、ゴルフパッティングの練習(5週間に渡って8セッション実施)時にSMRを視覚及び音信号に変換し、それらをフィードバックすることでSMRの増大を狙うニューロフィードバック群(7名)と、それを実施しない統制群(7名)に分けて、ニューロフィードバックのパッティングパフォーマンスに対する効果が検討されています。結果はクリアで、ニューロフィードバック実施群のみパッティングの正確性が高まることが示されており、合わせてパッティング動作開始1.5から1.0秒前におけるSMRの増大が大きいことも報告されています。このレベルのゴルファーになると競技成績に対するパッティングの貢献度は非常に重要であり、パッティング練習にかなりの時間を費やします。またプレッシャーやイップスなどの心理的な影響によってパッティングパフォーマンスが悪化することもよく見られます。パッティングパフォーマンスのさらなる向上に対してニューロフィードバックトレーニングが1つのツールになり得ることを実証している論文になります。またCzという脳の一部位の脳波を記録するという簡便さも将来的に応用性が高い研究になるのではないかと感じました。

2016年3月16日(水) No.117
Babiloni, C. et al. (2008) Golf putt outcomes are predicted by sensorimotor cerebral EEG rhythms. Journal of Physiology, 586, 131-139. doi: 10.1113/jphysiol.2007.141630
<コメント>スポーツスキルの熟達に関わる脳機能を脳波を用いて調べている論文になります。イタリアの国内ならびに国際レベルの競技レベルを有する12名のゴルファーを対象に、実験室内での人工芝上での2.1mのパッティングをする際の脳波、ならびに姿勢制御機能を足圧中心(COP)を記録しています。参加者毎にカップのサイズを小さくすることで、約30%の割合でカップインできないパッティングになるような工夫がされています。主要な結果としては、成功パッティングと失敗パッティングを比較すると、COPに差がないなかで、脳波に関してはパッティング動作開始前における高α周波数帯域(10-12Hz)が前頭前野(Fz)、中央野(Cz、C4)において、成功試行では失敗試行に比べて小さくなることがクリアに示されています。動作直前における運動前野や非利き手支配運動野の高α周波数帯域調整の重要性を示した論文であり、この周波数帯域を活用したニューロフィードバック研究への応用性が考察の最後に提案されています。

2016年3月8日(火) No.116
Hostel, K.G., Yasen, A.L., Hill, M.J., & Christie, A.D. (in press) Motor cortex inhibition in increased during a secondary cognitive task. Motor Control. doi: 10.1123/mc.2014-0047
<コメント>スポーツにおいて集中力が切れて思うようなプレーができなくなるということはよくあるかと思います。この現象の背景にある脳内メカニズムに切り込んだ論文になります。人差し指を50%の力で正確に外転させるときに、二次課題として数字や単語を発話しながら行うときの力発揮の正確性(平均値および変動性)を評価するとともに、人差し指を運動させる第一背側骨間筋(FDI)を標的筋とし、大脳の一次運動野に単発経頭蓋磁気刺激(TMS)を与え、その刺激後における筋活動の消失時間(サイレント・ピリオド)を測定することで、運動野抑制機能を評価しています。また運動を行わずに二次課題を行う際の運動誘発電位(MEP)の振幅も調べています。サイレント・ピリオドに関しては仮説通り、二次課題の負荷によってサイレント・ピリオド時間が増加したことから、二次課題によって運動野抑制が増強することが明らかにされています。それとともに力発揮の変動性も増加し、注意散漫による運動パフォーマン低下現象の背景にある1つの脳内メカニズムが実証されています。MEPに関しては仮説に反して、運動を伴わない安静状態で発話課題を行うことで、MEPの振幅が大きくなることが示されており、このような結果が得られた理由として、二次課題を伴う運動に対して補償的な運動野の活性ではないかという推察が考察においてなされています。

2016年2月29日(月) No.115
Jones, M.B. (2014) The home disadvantage in championship competitions: team sports. Psychology of Sport and Exercise, 15, 392-398. doi: 10.1016/j.psychsport.2014.04.002
<コメント>プロ野球(NPB)やサッカー(Jリーグ)に代表されるプロスポーツにおいて、ファンの声援や慣れた環境などの要因から派生するホームアドバンテージは少なからず存在し、シーズンを通して良い成績を残すにはホームゲームでいかに多くのアドバンテージを得るかが大切になります。しかしながらBaumeister and Steinhilber (1984) J. Pers. Soc. Psychol. ではアメリカのプロ野球(MLB)とプロバスケットボール(NBA)のチャンピオンズシップ(7戦を戦い4戦先勝で優勝)の第7戦までもつれ込んだゲームの勝敗や、野球の守備におけるエラー数、バスケットのフリースローの成功率といったパフォーマンスデータを分析し、ホームチームのパフォーマンス低下が生じることで勝率も低下することが報告されています。1984年までの30年以上前の古いデータであり、この論文ではMLBとNBA、さらにはプロアイスホッケー(NHL)の近年までのその後のチャンピオンズシップの勝敗等も分析に加えた「ホームアドバンテージの消失」現象の検証がなされています。皮肉にも1984年以降のデータを加えると3スポーツともに「ホームアドバンテージ」の消失は起こらず、1984年までとは異なる結果が得られています。追跡研究の面白さを感じる論文でした。

2016年2月16日(火) No.114
Buszard, T., Farrow, D., Zhu, F.F., & Masters, R.S.W. (2016) The relationship between memory capacity and cortical activity during performance of a noel motor task. Psychology of Sport and Exercise, 22, 247-254. doi: 10.1016/j.psychosport.2015.07.005
<コメント>短期記憶を司る脳内のワーキングメモリー機能は主として言語情報を貯える音韻ループと、視覚情報が貯えられる視空間スケッチパッドから構成されていますが、この研究ではテニス初心者18名を対象に、これら2つの能力(capacity)をコンピューターテストから測定し、その成績とテニスのサーブの正確性、さらにはサーブ課題中の脳波をワイヤレス計測により測定し、左側頭と左前頭の共活性(coherence)、右側頭と右前頭の共活性の関係性が相関分析や重回帰分析から調べられています。また、サーブ課題を非プレッシャー条件と賞金をかけたプレッシャー条件で行うことで、これらの指標の関係性のプレッシャー有無の条件間での違いも検討されています。仮説としては、音韻ループのcapacityが大きい人は左脳の共活性が強く、それがプレッシャー下でのパフォーマンス低下に繋がるという予想でした。残念ながらパフォーマンス低下の予測に関しては、仮説通りの結果は得られませんでしたが、両条件において左脳の共活性が音韻ループのcapacityの大きさと視空間スケッチパッドのcapacityの小ささから説明できることが主要な結果として考察されています。スポーツパフォーマンスにおけるワーキングメモリの役割を、脳活動から説明した研究の1つと捉えられます。

2016年2月11日(木) No.113
Yu, R. (2015) Choking under pressure: the neurophysiological mechanisms of incentive-induced performance dedrements. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 9, article 19. doi: 10.3389/fnbeh.2015.00019
<コメント>「あがり」現象を神経生理学の視点から解説するレビュー論文になります。「あがり」に関するレヴュー論文は複数存在しますが、この論文のように生理的側面からのレビューは珍しく、一見の価値が高い論文のように思います。神経生理学とはいうものの論文のスタートは、「あがり」の原因としてスポーツ心理学研究においても多々取り上げられてきている、注意散漫仮説、意識的処理仮説、超覚醒仮説(逆Uじ仮説)を丁寧に解説するところから話が始まっており、これらの仮説に沿って神経生理学的側面を解説するというスタイルのため、読みやすく感じました。様々な知見が集約されていますが、数学テスト不安、失敗恐怖、社会的不安などの研究結果では、不安やストレスに伴って帯状回、海馬、大脳基底核などの脳深部の活性が高まることから、これらの研究結果は超覚醒仮説を支持することや、皮質間コミュニケーションの研究結果からは前頭野と運動野のコミュニケーション活性の低下が「あがり」に関連し、このことは注意散漫仮説から説明可能であることなどが書かれています。この手の研究はまだ初期段階であり、ストレッサ―の違いも考慮したうえで、脳活性、ホルモンレベル、パフォーマンスの3者の関係を調べていくことの必要性や、関係性だけにはとどまらず脳刺激法や薬学的手法を用いて因果関係までを突き止めていく研究の必要性などの今後の研究への提案もとても興味深いものでした。当研究室が実施しているようなプレッシャー神経生理学実験を論文化していく段階で、序論や考察を書く際にもかなり参考にしたい論文に感じました。

2016年2月1日(月) No.112
de ste Croix, M.B.A. & Nute, M. (2008) The effects of cognitive anxiety on the biomechanical characteristics of the golf swing. Biology of Sport, 25, 3-11.
<コメント>プレッシャーがゴルフスイングに及ぼす影響をクラブや腕の動作解析を行うことで調べている研究を発見しました。Biology of Sportという雑誌の掲載論文も初めて読みました。プレッシャー条件として緊張度の高い朝一のティーショットを3ラウンド分(3スイング)撮影しています。統制条件には、練習上での5スイングを撮影し、それらの平均値が比較されています。撮影するショットまでの時間や練習量等を統制することで、純粋にプレッシャーの影響を抽出できるような工夫もなされています。結果としてプレッシャー条件では統制条件に比べて、ダウンスイング時間とバックスイング+ダウンスイング時間が有意に短くなることが示されています。バックスイング・ダウンスイング・インパクトの速度、インパクト時のクラブ角度やクラブと腕のなす角度も解析されていますが、これらの変数に条件間の差は見られませんでした。動作時間が短くなっていにも関わらず、その他の変数に差が見られなかった原因として、ゴルフスイング(特にインパクト時)には力学的要因などの他の要素が複合的に絡むため、それらによって補償がなされていることが考察されています。プレッシャーとパフォーマンスの関係を説明するカタストロフィーモデルや意識的処理仮説も絡めた考察もなされており面白かったです。

2016年1月26日(火) No.111
Liu, S., Eklund, R.C., &Tenenbaum, G. (2015) Time pressure and attention allocation effect on upper limb motion steadiness. Journal of Motor Behavior, 47, 271-281. doi: 10.1080/00222895.2014.977764
<コメント>「力むな」と言われたり考えたりすると、逆効果で意志に反して力んでしまうようなことは経験則から納得のいく現象かと思います。社会心理学分野では、1980年代の白熊実験と呼ばれ、白熊を想起するなと教示があった後に、白熊を想起してもいいと伝えるとリバウンド的に白熊を想起する回数が多くなることが示されており、皮肉過程理論(Ironic Process Theory)と呼ばれています。スポーツ心理学分野でもこのような現象の真否を調べる研究が行われていますが、今回の紹介論文ではタイムプレッシャー条件でこのような現象が促進するという仮説が検証されています。以前にTV番組であったような「イライラ棒」(指先に1.5mmの針を持ち、最大10mmから最小2mmの幅で徐々に細くなっていく空間を接触せずに針を進めていく)課題を、運動課題遂行中のセルフトークをポジティブセルフトーク(Go steady!: 安定して進める)と抑制セルフトーク(Don't shake!: 震わせるな)の2群、課題を遂行するときの時間圧がない群とある群(9秒以内に課題を終える)の2群に分けて実施させています。結果として仮説のように抑制セルフトーク&タイムプレッシャーあり群がパフォーマンスが悪いという結果は得られていませんが、抑制セルフトークによって広い空間で棒が壁に当たってしまうことや、時間切迫あり条件でも同様なミスの増加が生じることが示されています。手を用いての精緻運動課題において、時間切迫や抑制セルフトークによってパフォーマンス低下が生じることを実証している研究と捉えられます。

2016年1月19日(火) No.110
Hashimoto, Y. & Inomata, K. (2014) Changes in heart rate of pitchers during semi-hard baseball practices and matches. Perceptual and Motor Skills, 119, 731-740. doi: 10.2466/30.22.PMS.119c33z0
<コメント>当研究室が行っているような実験室レベルで心理的プレッシャーを実験参加者に負荷する研究において常につきまとうのが、実際のスポーツ場面に比べてどの程度のプレッシャーを喚起することに成功しているのかという問題です。出来る限り大きなプレッシャーを喚起したいという意図はありますが、なかなか実場面ほどのプレッシャーを喚起することは難しいです。そこで、論文の考察においてスポーツの実場面で心拍数や種々の心理指標を測定している研究を引用し、それらの研究における心拍数や心理指標との比較を行うことで、どの程度のプレッシャーであったかを推察するという方法をとります。しかしながら、スポーツの実場面を対象としたこの手の研究も極めて少ないという現状にあります。今回の紹介論文では、準硬式野球の選手を対象に、ブルペンでの練習投球と練習試合時の投球時に心拍を計測し、それらを比較することによって試合における心理的なプレッシャーに伴う心拍数の増加が調べられています。結果として試合の投球時には練習時に比べて7投手の平均で約30bpmの心拍数の増加が見られており、その増加には心理的プレッシャーの影響が大きいことが考察されています。また様々な打者と対戦するときのボールカウント別の心拍数も分析されており、投手が有利なゼロボールやワンボールに比べて、投手が不利なツーボールやスリーボールの方が僅かながらも統計的に有意な心拍数の差が検出されています。上述しましたが、この研究のように実践レベルでの心理的プレッシャーが心身に及ぼす影響をを客観的指標をもって明らかにしている研究は少なく、それを埋め合わす一つの貴重な研究であり、今後色んなところで引用できればなと感じました。

2016年1月12日(火) No.109
Cooke, A., Kavussanu, M., Gallicchio, G., Willoughby, A., McIntyle, D., & Ring, C. (2014) Preparation for action: Psychophysiological activity preceding a motor skill as a function of expertise, performance outcome, and psychological pressure. Psychophysiology, 51, 374-384. doi: 10.1111/psyp.12182
<コメント>前回に引き続きプレッシャー&ゴルフパッティング実験に関して一連の研究成果を出し続けているAndrew Cooke氏(Bangor Univ.. UK)やChristopher Ring氏(Univ. Birmingham, UK)の研究グループの論文になります。プレッシャー研究の視点からのこの研究の目的のオリジナリティーは、ゴルフパッティングの動作前後の脳波をキネマティクス、筋放電、心拍数などの他の変数とと合わせて調べている点にあります。加えて、ハンディキャップ5以下の熟練ゴルファーとゴルフ経験年数が2年前後の初心者ゴルファーの2群が設けられ、非プレッシャー条件やプレッシャー条件におけるこれらの指標の群間比較が行われている点も目的になります。非プレッシャー条件からプレッシャー条件にかけては、残念ながら心拍数以外の指標に有意差は得られていませんが、非プレッシャー条件とプレッシャー条件を問わない群間比較においては、熟練者は初心者に比べて、ダウンスイング期におけるパターの加速度やインパクト時のパター速度が遅く、動作後の左前腕伸筋のEMG活動が大きいことが示されています。脳波に関しても、前頭野(F3、Fz、F4)や中央野(C3、Cz、C4)におけるθ波、低α波、高α波、β波が熟練者は初心者に比べて、動作開始前後において大きく減少することや、成功試行では失敗試行に比べて大きく減少することが示されています。この研究グループのこれまでの一連の研究では、プレッシャーによってパター加速度や左前腕伸筋のEMGが増大することが示されてきましたが、この論文における実験ではこれらの結果が得られなかった原因として、脳波の解析のためにプレッシャー条件で60試行のパッティングを実施させており、試行数が多いためにプレッシャーに慣れが生じたことが挙げられると考察されています。

2016年1月7日(木) No.108
Ring, C., Cooke, A., Kavussane, M., & McIntyle, D. (2015) Investing the efficacy of neurofeedback training for expediting expertise and excellence in sport. Psychology of Sport and Exercise, 16, 118-127. doi: 10.1016/j-psychsport.2014.08.005
<コメント>以前に参加した国際学会のキーノートレクチャーなどを通してニューロフィードバックに対する興味関心は以前より抱いていましたが、初めてニューロフィードバックに関する論文を読みました。しかもこれまで私が取り組んできたプレッシャー条件とゴルフパッティング課題も実験方法に取り込まれており、非常に興味深い論文にヒットしました。ゴルフパッティング中の脳波を調べた複数の先行研究の結果から、Fz(正中前頭)における高α周波数帯域(10-12Hz)に特化し、その活動を音信号に変換したフィードバックを受けながらゴルフパッティングの練習を実施させています。先行研究では、パッティングの熟練者は初心者に比べて、さらには成功試行では失敗試行に比べて、パッティング動作開始直前にかけてこの周波数帯域が減少することが示されており、脳活動を反映するニューロフィードバックを受け取ることでこのよう脳活動を早期に作り出し、それをもってパッティングスキルの学習を早くさせることを意図した実験計画が作られています。主要な結果としては、ニューロフィードバックを受けた群は、ランダムなピッチ音を聞きながら練習する統制群に比べて、パッティング動作開始直前にかけての高α周波数帯域が減少することが示されています。つまり、パッティングの成功に対して効果的な脳活動を産出させることには成功しましたが、パッティングのパフォーマンスに関しては統制群との差は見られませんでした。さらに、競争による賞金や他者比較が存在するプレッシャー条件における脳活動やパフォーマンスに関しても群間の差は見られませんでした。ニューロフィードバックの効果について、先ずは脳活動に限定的に効果が得られることを示した論文と言えるかと思います。ただ群に関わらず、プレッシャー条件では非プレッシャー条件にくらべてパッティング動作開始直前における高α周波数帯域が増加することも合わせて報告されています。ニューロフィードバックの効果を反映した結果ではないですが、プレッシャーの影響でゴルフパッティング中の前頭葉の活動が影響を受けることを示した研究とも捉えることができます。